29話 Dark vengeful spirit Verse sorcery(暗黒怨霊歌術)
【作者の言い訳】
29話タイトルの『Dark vengeful spirit Verse sorcery』は無理やり作った一応意味は通じる英文です。
『ダーク・ヴェンジフル・スピリット・ヴァース・ソーサリー』と読みます。
本文で英文で出ることはありませんがなんて読む?との疑問に答えます。
【桶狭間/今川群本陣】
「打撃が通って安心したぞ。刀剣類無効も、化け物じみた……いや、もはや化け物か。ともかく、人知を超えたバカげた耐久力が無敵を演出していたに過ぎぬ!」
信長が火口の反対側に飛びのきつつ、ウェアウルフのトリックを暴いた。
「大人が童の拳を痛いと感じぬのと同じ理屈だ!」
信長は刀を指し示して断言した。
「クックック! そうだ。正解だ。喉は鍛えられぬ。さすが信長か。数少ない弱点を当てずっぽうだったろうに、当ててきおったか」
「当てずっぽう? 違う。これこそが3次元の戦い方。だから刀も通るはずだ」
信長は残った右手で刀を抜いて構えた。
人体の弱点は決まっている。
ウェアウルフとは言え、2足歩行の狼で元人間。
弱点は似通ってくるなら、それは3次元の戦い方。
3次元には甲冑に喉輪という、命に係わる部分には特に厳重に保護しているのだ。
つまり弱点なのだ。
「それはどうかな? それはまた話が違ってくるぞ? その刀で斬りかかって来るが良い。無防備でうけてやろうか?」
「ッ!!(ハッタリか!? まだ解明できてない事があるのか!?)」
「こないのか? ではこちらから仕掛けさせてもらおう! ハッ!!」
義元は大きくジャンプした。
術を使用せず、ウェアウルフの身体能力だけで豆粒の如き高さまで飛び上がった。
この高さは烈風縮地脚でも飛び上がるのは不可能な跳躍力。
火口からの脱出も何度も壁を蹴って飛び上がったのだから、これは完全に上空に逃げられた形だ。
「さぁ! 貴様にコレが躱せるか!?」
ウェアウルフの咆哮の如きセリフだが遠い。
この程度で聞こえてしまう高さと言う事でもある。
だが義元が上空から危険な攻撃を仕掛けるのは理解できた。
あふれ出る神気が尋常ではない。
青い太陽が現れたかの如く、凄まじい輝きを放っている。
「いくぞ! 『氷雪よ 砕き舞い散り 幻惑を 乱反射せし 美魔の吐息を! 幻惑細氷塵! 水灑神ペタルデス!!』」
上空で義元が落下しながらフルスペックの歌術を唱えると、急激にこの辺一帯が寒気に包まれた。
辛うじて、火口直線状の上空は熱気で攻撃を防いでいる。
だが火山の麓で気絶している者と、四聖の巫女、政秀、帰蝶はそうはいかない。
「茜! 勝家達を含め火燎神の防御陣を張れ!! マズイぞ!!」
「は、はい!」
火口すぐ側にいる信長は大丈夫だが、麓の人間の寒がり方が尋常ではない。
信長が急ぎ指示を出すも義元の歌術は止まらない。
「次! 『水流よ 冷気と重ね 氷柱とす!」
「氷柱! 避けるだけなら……」
氷柱の乱射。
氷結歌術では定番だ。
ここで詠唱が終わればだが。
当然終わる訳が無かった。
「『彩大瀑布 氷瀑と化せ!! 氷瀑光彩流! 水灑神ペタルデス!!』」
3節で終わっていれば氷柱で済んだ。
しかし5節。
滝の様な雨、ではなく、本当に滝が義元の周囲から作り出され途中で氷結し氷瀑となった。
空中に突然滝が発生し、また冬景色の神秘的な氷瀑へと姿を変えた。
信長の真上で。
一方、義元は空中で作り出した氷瀑の上に立つ。
水が一瞬で凍ったのを驚くべきか、氷の滝が空中で停止しているのを驚嘆すべきか、義元の底なしの歌術を褒めるべきか。
あるいは流石信長十二神将の1人にして、ウェアウルフと言うべきか。
分っているのは、極めてピンチだと言う事だ。
幻惑細氷塵で視界不良になり、信長はともかく麓の者は猛烈な寒波で、かじかんで動きが鈍い。
その上で、頭上の氷瀑は不気味過ぎる。
結果が容易に予測出来てしまう。
(ワシならあの氷瀑を叩きつけるが……どうするつもりだ!?)
「最後だ! ヌゥゥァァァッ!」
義元が両腕をクロスして漆黒の神気を溢れ出した。
「な、何だあれは!? 暝朧神バーバチカ……では無い!?」
バーバチカなら紫がパーソナルカラーである。
決して黒ではない。
しかも信長に見える光景は、陽炎の如く妖しく揺らめく。
ファルファッラにも習ってない、未知の現象にして、見たら分かる危険なヤツだ。
「その通り……!! これは十二神将に授けられた呪い、暗黒怨霊歌術! 『夏山の 茂みふきわけ もる月は 風のひまこそ 曇りなりけれ!! 海道一の弓取り! 十二神将今川義元!!』」
先ほどまで、全身青色に輝いていた義元の体が、漆黒に染まり、眼球だけが赤く輝く。
太陽の中の黒点の如く、漆黒の太陽の中に邪悪な赤い光が溢れていた。
だが赤い目が、火燎神ケレベックに関係ないのは、溢れる瘴気で違うと分かる。
「マズい!! 平手! 巫女達よ! 勝家を叩き起こして全員を守らせろ!! 今川軍もだ! 火燎神ケレベックの使い手全員で協力せねば死ぬぞ! 急げ!!」
「は、はい!!」
「!? ほう? 敵味方共に守ると言うのか?」
暗黒怨霊歌術の影響か、ウェアウルフになっても紳士的だった義元が、今は邪悪の権化としか思えぬ凶悪な瘴気をまき散らしている。
「別に敵を守る義理は無いが、織田家の者もそちらで倒れているからな! ついでじゃ! 貴様に勝った後、戦力になるかもしれぬからな!!」
「『邪なる棘 魂魄聖輪光! 兤陽神パーピリオー!』」
その時、治療を済ませた帰蝶が1節の魂魄聖輪光の歌術を放った。
気絶程度なら1節で十分だ。
頭上に浮かぶ降臨も薄く一瞬でスキャンを終わらせ、全員が一気に目を覚ました。
「全員聞けぃッ!! 見ての通り全員危険な状況じゃ!! 火燎神ケレベックの使い手は全員防御陣を張って、使えぬ者はそこに避難しろ! 太原雪斎! 勝家! 聞こえたな!? 両軍関係ない! 助け合え!」
「の、信長様!?」
「なんと!?」
勝家が、雪斎が、そして義元までもが、かつての織田信長の幻覚を見た。
「何を呆けておる!! 急げ!!」
義元の瘴気に対抗する様に、信長が覇気をまき散らして怒鳴る。
(馬鹿な! あの次元違いの小僧に信長様を重ねるとは!? 悪鬼羅刹、傲岸不遜、傍若無人、唯我独尊、眼中無人、奸佞邪智、酒池肉林、残虐非道を極めしあの男と、あの小僧が同等なのか!?)
「クックック! よかろう! この義元が判じてやろう! ワシは一番長くヤツと共に居た! 貴様は絶対に奴では無いと証明してやろう! 行くぞ!」
暗黒怨霊歌術で手に瘴気を纏った義元が両手に力を込めると、爪が伸び、それと共に瘴気も増大し、良く見ると無数の怨霊が蠢いて見える。
宗教が絶対の世界から来た信長と帰蝶でさえ、本物の怨霊など見た事が無いのに、アレが一目で怨霊の塊と理解できる悍ましさ。
その怨霊を纏った手で義元が足元に向かって手を振ると、氷瀑がスライスされ、超強大な氷柱、と言うよりは青黒い氷の槍となり、一斉に信長に襲い掛かった。
「茜は既に炎壁防御陣を張っておるか! ならば勝家! ワシと同時に唱えろ! 合わせ技の炎壁防御陣をやるぞ! 勝家は3節分、ワシの補助をしつつ自軍も守れ!」
「は、はい!」
起きたら寒冷地帯に熱気の陽炎が立ち上る火山の出現に戸惑うばかりだが、とりあえずは言う事を聞く精神力は残っていた。
「『炎熱よ 防壁となり 守護をせよ』」
「『炎熱よ 防壁となり 守護をせよ』朱雀炎魔刀よ! もっと力を貸せ! 体の損壊など幾らでもくれてやる! 『迎え討つは 氷乱吹雪!! 炎壁防御陣ッ!! 火燎神ケレベックッ!!』ぐおっ!! うおぉぉぉ!!」
信長は朱雀炎魔刀を頭上にかざし、フルスペックの防御陣を唱えたのと同時に、左手が爆ぜて失せた。
信長が朱雀炎魔刀の加護を引き出したお陰か、元の持ち主に使ってもらえる喜びかは分からないが、刀の力を引き出したのは間違いない。
麓では織田軍、今川軍の各所で炎壁防御陣が唱えられているが、更にそれ全体をカバーするフルスペック防御陣。
だが、義元も同じくフルスペック歌術に加え、地形まで水有利にする用意周到さだ。
そこに暗黒怨霊歌術まで加えた一撃を耐えられるのか?
炎壁防御陣が11等分された氷瀑が槍となり、信長の頭上に降り注ぐ。
当たれば貫通どころではない。
潰れて木っ端みじんになるだろう。
なお落下した部分の氷瀑は、即座に再生し尽きる様子が無い。
「グッ!! ヌアァァァッ!!」
炎壁防御陣で直撃は避けているが、炎壁防御陣に衝突して粉砕された氷瀑が、岩石クラスの氷塊が周囲一帯に降り注がれる。
織田、今川軍関係なしだ。
「こ、これが氷瀑光彩流の使い方か!」
叩き込まれた知識だが、いまいち使い道が分からなかった。
神界で鍛えられている時、こんな事があった。
ファルファッラが氷瀑光彩流を使って見せた時だ。
『奇麗ですね~』
『うむ。こんな光景は別の記憶にもない!』
『アホか!! これは景色を作り出す歌術じゃないのよッ! 使い方次第で凶悪無比の奥義歌術だ!』
『凶悪無比って滝を凍らせて何をするんじゃ?』
『考えんかいッ!!』
厳しく理不尽で、今となっては懐かしい光景だ。
「クソッ! 目的を果たしてほしいなら最初から教えてくれよ!!」
信長が愚痴を吐くが、愚痴だけで精一杯だ。
左腕もシャレにならない痛みと流血。
治療したいが、炎壁防御陣を解いた瞬間死ぬだろう。
その時、麓から声が響いた。
「信長殿! 殿は暗黒怨霊歌術を使ったのですね!?」
雪斎が炎壁防御陣を張りながら、懸命に問いただす。
氷が割れる音が乱反射して、殆ど声が通らないが、雪斎の声は腹に響く低音で良く通った。
「そうじゃ! 何か知恵を貸してくれるのか!?」
「いえ、もう降伏しなされ! 殿も悪い様にはしないでしょう!!」
「降伏したらワシらには想像を絶する罰が待っておるんじゃ! それは出来ん! このまま倒す! 何か知恵はあるか!?」
「ば、罰!? いや、仮にあったとしても助言はしません! 今川軍なので! だからこそ降伏を勧めています!」
「そりゃそうか! ごもっともじゃ!!」
「罰が何なのか分かりませぬが、本当に死にますぞ!?」
「心配無用!」
(……と言ったは良いが、雪斎の慌てよう、本気で危ないのだな。しかし『仮にあったとしても』か。助言をしないではなく、不可能、いやできる助言が無いなのだな!? ならば今は耐えるしかない! 氷瀑が尽きた時が勝負じゃ!)
いくら5節とは言え、氷瀑の再生にも限度はあるはずだ。
信長はそうなった時に備え、覚悟を決めるのであった。
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