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暗黒の信長と帰蝶 ~異次元の信長Take3~  作者: 松岡良佑
第2章

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26話 Killing Combination(殺しの連撃)

【桶狭間/今川群本陣】


「話の途中ですが、割り込む無礼をお許しください」


 柴田勝家が進み出て跪いた。

 信長の動揺が酷く見え、助け船のつもりで前に出たのだ。


「おお、柴田殿。貴公との戦いは楽しかったのう。人間形態で倒しきれないと感じたのは久々だったぞ? それが明日には我が眷族か。安心して励むが良い。そこに居る元織田家の誰よりも手ごわかった見事な術と武だ。楽しみよな。ククク」


 そこに居る元織田家――

 木下秀吉、佐々成政、前田利家、池田恒興、毛利良勝、服部一忠の6名。

 皆、完全に義元の眷族となり、主の為に死ぬのも厭わない存在となっている。

 3次元では義元を討ち取った毛利良勝、服部一忠が眷族になっているのは、何の皮肉だろうか。

 彼らは義元の忠犬として、猛犬の様に牙をむき出しにして威嚇している。

 勝家をかつての上役として尊敬していた心は完全に消えていた。


「ありがたき幸せ。しかし結局は噛まれ呪いに感染しました。織田の殿には自害を命じられ、その理不尽な扱いに武士道を捧げるに値せずと判断し、我等5名、このまま10日目を迎え眷族に迎え入れて頂きたくこうして参った次第です」


「武士道か。難しいなぁ。主君への裏切りはトップクラスの不忠だが、主を守る為に戦った貴殿らに自害を命じるのもあまりに理不尽。まぁ清須城でウェアウルフに変身されては、信秀もたまったモノではないから仕方ない話ではあるがな」


「所で、そちらの5人の女人は?」


 太原雪斎が訝しげに見やる。

 信長と勝家の話より、何の為に居るのか分からない帰蝶らを警戒しているようだ。


「こちらは信長様……この次元の信長様に使えた織田家の四聖の巫女と供物に貢物でございます」


「ほう。織田家の四聖の巫女か」


 この世界では、どの家も巫女を抱えている。

 ところで何故四聖の巫女なのか?

 六属性あるのに、織田家に光と闇の巫女は居ないのか?


 巫女とは、必ず女性が就くジョブであるが、実は六属性揃う事は稀である。

 就きたいから就けるジョブではない。

 全ては高レベルの最低限の歌術の才あって開けるジョブである。

 更に適性があっても、既に就任済みの巫女の実力を超えねば意味が無い。

 同属性が2人以上居ても、あまり意味が無いし、ならば空席の属性を狙うのもあるが、属性神との契約は相性だ。

 闇の相性が無いのに闇の巫女には就けない。

 故に四属性を揃えただけでも、大変な労力があったはずなのだ。


「今川では涼春、瀬名の2名しかおらぬ。やはり信長の人材発掘力だけは(●●●)素晴らしいな」


 どこか懐かしそうに義元は言う。

 それもそうだろう。

 義元も信長に見いだされた武将なのだ。


「で、貢物はともかく供物か。ウェアウルフだから生贄なのか? 我等も元は人間。人を食料としてはみておらんぞ? 喰い千切っても吐き捨てるし、噛みはしても食わんぞ? 何か誤解をしているのか?」


 義元からの圧力が増す。

 椅子に座る姿は変わらないのに、気温が下がっていくのは気のせいではないだろう。

 水灑(すいさい)神ペタルデスの神気が溢れているのだ。


「いえ、この供物は幸福の使者でもあります。この次元の信長様が見出し育てていた者。この者は祝福の歌術に長けた者」


 これは帰蝶の事だが、そういう設定でここに連れてきている。

 これからやる事を考えれば、そんな設定である方が望ましいのだ。


「今川家に臣従する証に祝福の役目として連れてまいりました。まずは四聖の巫女よ」


「はい!」


 4人が同時に答え歌術を唱え始めた。


『炎熱よ 防壁となり 守護をせよ 炎壁防御陣! 火燎(かりょう)神ケレベック!』


『砕氷よ 防壁となり 守護をせよ 氷壁防御陣! 水灑(すいさい)神ペタルデス!』

 

『竜巻よ 防壁となり 守護をせよ 風壁防御陣! 風飄(ふうひょう)神ペルホネン!』


『岩盤よ 防壁となり 守護をせよ 地壁防御陣! 土壅(どよう)神ボルボレッタ!』


 四聖の巫女が防御歌術を唱え、帰蝶を守るシールドを張る。

 帰蝶も四聖の巫女が唱えるどさくさに紛れ、歌術を唱える。

 それと同時に、信秀から借りた杖が強烈な閃光を放ち、供物として偽った触媒が光に包まれ消えた。


「? ……ッ!? 防……陣!?」


 義元の行動は早かった。

 危機を察知した、と言うよりはもう条件反射の領域で危機を感じたのだ。

 何せ、なんの歌術を唱えているのかわからない。

 四聖の巫女が同じタイミングで唱え始めたので、周囲にはこう聞こえていた。

 

挿絵(By みてみん)


 これなら『防壁となり 守護をせよ 〇壁防御陣』だけは聞こえただろうが、もう1人同時に唱える者がおり、何か良く分からない歌術に聞こえたのだ。

 しかも神気が桁違いだ。

 詠唱の歌も圧力が違う。


挿絵(By みてみん)


『邪なる棘 蝕む悪鬼を 探知せん!!』


 帰蝶は四聖の巫女とは別種の歌術を唱えていたので、訳が分からない歌術に聞こえてしまう。

 これは人であってもウェアウルフであっても変わらない。

 耳の良し悪しではない。

 これは絶対音感の領域である。

 絶対音感のアビリティを持つ者ならば、どんな音でも脳内で瞬時にバラバラに分解できるが、アビリティの無い者は最低でも、沢山の音が聞こえる、良くて、1人に絞って音を拾えれば上出来だろうか?


 ただ、それでも義元は歴戦の経験から、織田家の仕掛けに気が付き、爪を伸ばしてシールドに突き刺した。


「ハァッ!!」


 中央の者、即ち帰蝶は冷や汗をかきながら集中していた。


「チィッ!! 届かんかッ!? ッ!? 抜けん!?」


 爪は帰蝶の喉元まで迫って止まった。

 四聖の巫女が、気力を振り絞って術の圧力を高め、義元の攻撃を止め、尚且つ、動きを止めたのだ。

 人間形態なら、まだ術は多少効く事に賭け勝ったのだ。

 ただ、普通の人間では、この神気の嵐に立ち向かえない。

 さすがはウェアウルフ義元と言った所だが、その隙に帰蝶の歌術が進む。


『払い給うは!』


「4節目だと!?」


「4節目!?」


 義元の驚きに、雪斎が反応し驚愕する。

 この世界、3節が人の限界で、4節で突出した才能と杖や武器の補助で到達する領域なのだ。

 確かに杖を持っているが、それでも滅多にお目にかかれる術ではない。

 この時点で光の神気が溢れ、この場にいる者の動きを止めていた。

 別に拘束の歌術ではないが、滅多に見られない4節目故でもあるだろう。


『女神の奇跡ッ!!』


 帰蝶の目から、鼻から、口から、耳から血が一筋流れるが、術の奔流に巻き上げられ、上空へ散っていく。

 帰蝶の顔と共に、かつての恐怖が蘇るの匂いが充満する。


「5節ッ!? 完全詠唱歌術……!! ッ!? き、貴様、斎藤帰蝶か!?」


「斎藤帰蝶!?」


 5節まで唱えた所で顔を覆っていたヴェールが取れ、若いが身に覚えのある顔と匂いが現れた。

 義元も雪斎も、その他今川群の者達が恐怖に固まる。

 3次元の信長は無害そうだったが、何次元の帰蝶かわからない斎藤帰蝶は極めて危険だ。


「ぜ、全員伏せろ!!」


 雪斎が慌てて命令するが、帰蝶が残忍な顔で否定する。


『ムダよッ! この歌術からは逃げられないッ! 魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)ッ!! 兤陽(こうよう)神パーピリオォォォッ! ハァァァァッ!!』


 その瞬間、帰蝶の左目が爆(は)ぜて失せた。

 左目から大量出血しながらも術を完成させた帰蝶は、地面に転がり落ちたが、杖を頼りに立ち上がる。

 歌術の成果を確認しなければならないのだ。


 帰蝶の5節完全詠唱歌術が炸裂し、織田、今川関係なく、光輪が全員の頭上からスキャンする様に下がる。

 神界で帰蝶と信長が受けた、あの時は健康診断と一緒だ。

 だが魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)はただの健康診断ではない。

 同時に修復し治療するのだ。


「グッ! グァァァッ!?」


 苦しむ悲鳴を上げたのは、ウェアウルフの呪いに感染した者、そして真祖である今川義元も同様だ。

 人間には必要ない異物、病魔、状態異常を検知し元に戻す魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)の5節完全詠唱歌術だ。

 義元といえど例外ではない。

 何なら強力な呪詛でもあるウェアウルフ化の解呪は、激烈な痛みを伴う治療も同然である。


「帰蝶! よくぞ耐えた! 今度は上手くいったな!」


「グゥッ……! あ、後はたのみます!!」


 今度は上手くいったな――


 12話の信長セリフ『どうじゃ? 想定外(●●●)も起きたが、これなら希望が持てそうか? 勝てると思うか?』の『想定外』とは、帰蝶が、フルスペックの魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)を何の補助も無く発動させ成功させたからだ。

 当然、勝家らの呪いは苦痛を与えながらも解けた。

 だが、帰蝶は術の反動で、四肢爆散に等しい神圧を受け、事切れたのだ。

 触媒も供物も無しでは当然の結果であったが、その血を使って咄嗟に『死んだフリ』作戦を決行し、惨殺されたのが、Take2を失敗した歴史。

 だが大きな収穫があった。

 治療は出来たのだ。


 だからこの歴史では違う。


 信長は――腰の刀を抜いて――大上段から――刀を一閃――


「カァッ!!」


 信長の斬撃が、四聖の巫女の術に絡まり、魂魄聖輪光(こんぱくせいりんこう)に苦しみ動けぬ義元の腕を切断した――


「グッ!?」


「死ねッ!!」


 返す刀で――義元の首を狙う――刃は義元の口に滑り込み――顔を上下に両断した――

【時空神ファルファッラ様のお言葉】


13話の話を覚えているかしら?


『ま、ウェアウルフの今川義元に一発で勝てるとは思ってないわ。それに貴方たちの戦略は悪くない。やろうとした事も理解できる。良い線いってたと思うわよ? 感染者を治療し(●●●)、死体のフリ。隙をつこうって寸法ね。大量出血の異常を察知した義元も昼間に来たから勝機はあった。そこを不意打ちで討ち取る。倒せる可能性はあったと思うわ。ただ相手が一枚上手だったわね』


この時は、本当に本気で褒めたのよ?

だって、教えたとはいえ、基礎術がクソなのに5節完全詠唱を成功させ治療したんだから。

その後、爆散して死んだのは精神力と肉体の鍛錬不足。


ただし、3次元人の特性なのか、肉体を犠牲にしながら無理が出来るのも発見したのよ。

気合と根性って奴かしらね?

ならば、死ななければ何とかなる、って事で、100年の再教育を課したって訳ね。

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