18話 falsely dragged into romantic chaos(無実の修羅場)
【8次元世界下界/尾張国 清須城 広間】
信長、帰蝶、信秀と平手政秀が残った広間。
「今更ですが、親父殿は兤陽神の申し子だったのですな。目まで白い。最初、髷から先が真っ白だったので、ずいぶん傾いた親父殿だと思いました! でもよく考えれば、そんな生え方はあり得ない! 老人でもない」
「失敬な! ワシはまだ30代前半! この世界では、これが常識。また眼同様、髪色も契約した神の色に変わる。……そういえば、老人という言葉がでたが、8次元では髪色は年齢で変わらぬが、そちらの次元では年齢で髪色が変わるのか?」
信秀は眉間に皺を寄せた。
想像するだけで理解不能の気持ち悪さがあったのだろう。
「はい。範囲の大小はあれど黒から白に代わります。黒白混ざって灰色に見える場合もありますな」
「なんと!? それは兤陽神パーピリオー様、暝朧神バーバチカ様の歌術を同時に使える状態か!? 反対歌術は習得不可能……おっと8次元の常識で考えてはいかんのだったな」
「そうですな。我々も驚いております。ところで、我らを蘇生させた『蘇生回帰法』は親父殿しか使えぬのですか?」
「いや、ワシだけが使える訳ではないし、兤陽神と契約を結んだなら誰でもできるが、成功例は聞いた事が無い。あらゆる歌術で5節完全詠唱、すなわち5.7.5.7.7が可能なのは一色持ちのみと言われていた。ただし、こちらも成功率は恐ろしく低いがな」
苦しそうに信秀は言った。
「いた? 今は違うので?」
「倅、即ちお主ではない信長が、お主と同じ3色持ちの稀人でな。3色持ちなのに、1色持ちでも成功率が低いフルスペック歌術を成功させよった。そんな記録はこの世界に存在しない。倅が史上初で成功させたのだ。しかも何の触媒も無しにな」
この信秀は大量の触媒を用意して、それでもなお『蘇生回帰法』を失敗するのが本来の歴史。
今回成功したのは、時空神ファルファッラが手助けしたからだ。
それを補佐無し単独で成功したのだから、その才能がけた違いなのが理解できるだろう。
「8次元のワシは歌術の天才だったのですな。ふー……『火燎神ケレベック』」
信長がため息と共に神の名を唱えた。
「ちょ、ちょっと待てッ!! ……え?」
慌てて避難しようとした信秀が驚く。
信長の指先がぼんやり灯る。
葉巻大の大きさだけに、豆電球を指先で光らせているようだ。
「き、基礎術か!? 倅だったら屋根が吹き飛んでいたぞ!? しかし、その低威力もある意味すごいな。倅は制御が中々できず那古野の町を壊滅させてしまったのに」
「那古野を壊滅!? 歌術で!?」
「え、あの城下町を!?」
信長と帰蝶が、かつてファルファッラが信長を消し炭にした基礎術を思い出す。
巨大隕石クラスの基礎術を。
「何を想像したかはわからんが、たぶん間違ってないだろう。ちなみに帰蝶殿。8次元の其方も3色持ちでな? 信長が5節完全詠唱歌術を成功させて、真似したらウッカリ成功してしまったのだ」
「えっ。ウッカリ!? ……『水灑』は止めて『土壅神ボルボレッタ』」
室内なので水はやめて土壅神の名を唱えると、部屋の埃やゴミが集まって2cm程の山を作った。
「おぉ……!! 信じられん低威力だが、でもこれは便利だな。掃除が楽になろう」
信長と違って使い道がありそうな低威力の基礎術だけに、『これはこれで』と信秀は褒めた。
「ソウデスネ……」
「まぁ、8次元の帰蝶殿も犬山城を丘陵ごと大爆発させてしまったな。土壅神ボルボレッタ様の歌術で」
「犬山城を!?」
「大爆発!?」
3次元の日本では尾張と美濃の木曽川国境沿いにある、織田と斎藤が険悪な時代はこの城が最前線であった。
その重要な城を木っ端微塵にした事実に両者とも驚く。
「正直、当時、倅と帰蝶殿の隣にいるのは怖くて仕方なかったが、3次元のお主らが歌術が不得意で、ガッカリしたのは事実だが、反面、凄く安心しているのも事実。のう政秀」
「はい。若の歌術は幼き頃から制御が難しく、コントロールを教えるのは本当に苦労しました。……え? まさか、今度は威力を増大させる方向で教えろと?」
政秀が何かを察知し、嫌そうな顔をした。
どうやら3次元も8次元も信長は信長であり問題児だったようだ。
信長も己のうつけ具合は身をもって知っている。
自害させた記憶もあるので、そんな事はさせられない。
それで『さてどう提案したものか?』と悩んでいる時に、時間が止まった。
《はいストップ! 術のコントロールに関しては、全ての作戦と準備を整え暇になったらでいいわ。どうせ9日間の暇な時間ではタカがしれてるわ。歌の才能無いからねぇ》
《グッ! このッ!?》
《事実を陳列しないでください!?》
《うっさい! 私の言う通りの物を準備させなさい。『コレとコレ――中略――アレコレ』よ! 前回の結果が余りにもあんまりだから、ここだけ手助けしてあげるわ。本来ならこれらも自力で解明して欲しいけど、10日しか無いんじゃ仕方ない! これで前回の大失敗は防げるはずよ! だから触媒を集めさせなさい! 前回の失敗をなぞっても意味がないのよ!》
《……》
《返事ぃッ!!》
《はい!》
《承知!》
《じゃ再開!》
「え、ど!? あ……い、いや、訓練も必要だが、それより前に爺には、今から言う触媒を可能な限り集めて欲しいのだ」
思いのほか殊勝な信長の言葉に平手政秀は驚く。
8次元の信長のお陰で、精神が病んでは回復歌術で直し、8次元の信長が死ぬ前は、己に即死自害歌術を使おうか悩んだ程だった。
つまり、次元は違えど、信長は信長であり、面倒くさい奴であった。
ただ3次元の信長は、助けが無くては生きていけないので、さすがに大人しい。
「それは構いませぬが、触媒といっても様々で、術によっては入手が難しい物もあるのですが……」
《不揃いでいいわ。無いよりはマシよ》
「構わん。できる限りでいい。ファルから聞いてきた。そのうちの一つは我らを蘇生させた親父殿の杖だ」
「コレか? それは構わんが……コレは兤陽神の杖。暝朧神の加護を受けているお主ではただの棒だぞ?」
「わかっております。使うのは帰蝶です」
「はい。私が使わせていただきます」
「あとは必要なものだが四聖獣の像、朱雀に――」
「ちょっと待った! 杖が必要なのもそうだが、四聖獣の像など、術の無い3次元人なのによく知っておるな!?」
淀みなく必要な触媒が出て来る事に驚く信秀。
術が無い世界から来たとは思えない。
だが、これは誤解で、宗教が絶対の世界から来たのだから、呪物の知識は知っていても何ら不思議ではない。
「あぁその事ですか。恐らく朱雀、青龍、玄武、白虎ですな?」
「その通りじゃが、そこは次元が違っても一緒か。興味深い!」
3次元の四聖獣は明由来の幻獣だが、8次元の四聖獣の像とは火燎神、水灑神、風飄神、土壅神の使い魔だ。
ちなみに、兤陽神には応龍、暝朧神には麒麟がついている。
「続けます。それと光闇の宝玉、聖水、狼の毛や血肉、祝詞の巫女4人、あとは兤陽神の術の補助に使える物はあればあるだけ……」
そこまで言って信長は神界から見ていた復活の歌術の最中、触媒を四方から囲み補佐をしていたであろう4人の人物を。
「そう言えばあの4人は何者で? 親父殿の術を手助けできる人材の女子ですか?」
「えッ!?」
答えたのは信秀でも政秀でもない。
いや、一応『えっ』とは言ったのだが、彼女たちにかき消された。
襖を蹴飛ばし姿を現す4人の女。
「グエッ!?」
襖が倒され、政秀が巻き添えになって押しつぶされる、と同時に4人の美女が現れた!
「の、信様、それはあんまりにございます……!」
おっとり、のっぺりした緑の女が言った。
「そうですよ!? 命がけで愛する殿を復活させたのに!」
切れ味鋭い眼の持ち主の、のっぺりした赤い女が言った。
「酷いっす! いつ褒めてもらうかと楽しみにしていたら!」
腕白そうな、のっぺりした黄の女が激怒しながら抗議する。
「殿! 我ら四聖巫女! 命を懸けてあの術をサポートしたのですよ!?」
小柄だが武将の眼をした、のっぺり顔の青い女が苦言を呈する。
「ま、まて……!?」
「えっ!? に、人間!?」
信長と帰蝶が、この8次元で歌術を見た時以上に驚いた。
「そののっぺりした肖像画の様な顔は一体!? それに室内なのに色々おかしいぞ!?」
「倒した襖や平手殿はどこに行ったのです!?」
「室内で草鞋を履くな! ここは大広間だぞって部屋が狭い! 後他にも……も、もしやコレが2次元人!?」
突如信長と帰蝶は錯乱し、訳の分からない事を言う。
信長と帰蝶には、以前受けた『2次元』の生命体が3次元に現れた様にしか見えないのだ。
「肖像画? 何を言っておる?」
信秀が信長と帰蝶の錯乱に怪訝に突っ込む。
「えっ?」
《何言ってるの? 大丈夫?》
《ファル!?》
《顔でも洗ったら?》
信長と帰蝶は眼をこすると、現れた女たちは普通の顔に戻っていた。
ちゃんと政秀も潰れている(?)。
「あれ? 気のせいか? っと違う! 『信様』と言われても、知ってるじゃろうがワシらはこの次元の人間ではないのであって……!」
信長が、不倫をした亭主の様に慌てるが、本当に知らないので仕方ない――いや、記憶に引っかかる何かが危険信号をかき鳴らす。
「待った。今聞き捨てならない事を言ったわね? 『愛する殿』と? 全員ですか!?」
「そうです。我ら四聖の巫女。それぞれ火燎神ケレベック、水灑神ペタルデス、風飄神ペルホネン、土壅神ボルボレッタを司っております! 愛する殿の為に全てを捧げました!」
彼女らは四聖の巫女。
このカッコの中の名前は、史実の判明している名前と産んだ子である。(後書きにて釈明あり)
火燎神の巫女、坂茜(坂氏:織田信孝)
水灑神の巫女、瑞林葵(養観院:織田秀勝、相応院)
風飄神の巫女、塙直子(明鏡院:織田信正)
土壅神の巫女、生駒吉乃(本名同じ:織田信忠、織田信雄、徳姫)
要するに3次元の信長の側室たちであった。
これには帰蝶も黙っていられない。
信長を愛した記憶はあるが、あくまで記憶。
今の歴史で信長を愛する理由もないが、負けるのは何故か嫌だった――
【作者の言い訳】
「坂茜と瑞林葵は名前が不明なので、姓のみ正しい坂茜、戒名から文字を貰った瑞林葵は、ほぼオリジナルの名前です。今後も女性武将はそのパターンが非常に多くなると予想されますので、その都度後書きにて補足します」
【創造神パルヴァーネ様のお言葉】
「我のど、ドッキリ、四聖の巫女の画像、気に入ってもらえたかな? 苦労したのだぞ? 背景は上手くできないし、肝心の人物像がどうしても現代風の美少女になってしまうしな? 戦国時代風にするのに苦労したわ。……余計な事をするなって聞こえた気がするぞ!? 貴様、これを作るのにどれだけ時間をかけたと思っている!? 貴様の髪の毛、一本ずつピンセットで抜いてやろうか」




