13話 ただいま&おかえり
【8th dimension/神界】
「ただいま……」
信長と帰蝶が首を竦めてコソ泥の様に神界に帰還した。
つまり死んだのだ。
対ウェアウルフ今川家に対し策を練ったが、通用しなくて鎧袖一触にされて殺され帰還したという事だ。
「おかえり」
ファルファッラがにこやかに出迎えた。
「ッ!!」
信長も帰蝶もファルファッラの笑顔が恐ろしい。
魔神の顔の方がまだマシだ。
あまりの恐怖に、信長が帰蝶を盾にしつつ、背後に回ろうとするが――
「ぐぺぇッ!?」
帰蝶が信長をブン殴って襟首掴んで逆に盾にした。
「別に罰したりしないわよ? 私の事を何だと思ってるの?」
「だ、第六天魔おうぶぺぇっ!?」
神速のビンタが信長を張り倒した。
信長は死ぬほど痛い重体に陥ったが、神界では死ねないので、無駄に死ぬほど苦しむ事になった。
「仕方ないわねぇ。特別サービスよ!!『死せる血と 腐肉と化した 生ある火 鳳凰となり 羽ばたき給う 鳳凰再臨法! 火燎神ケレベック!!』」
「ちょッ!? その歌術はッ!? バーバチカにして止めて止めて待って待ったギャァァァァッ……」
ファルファッラが完全回復歌術の中では、最悪の痛みを伴う歌術を唱えた。
他の属性神も完全回復歌術はあるが、火燎神ケレベックが一番エグイ。
何せ『治すよりリセットした方が早い』がこの歌術の肝なので、即時復活が可能な『鳳凰再臨法』は戦術的には有用だが、一度殺してから蘇らすやり方なので、本当に死ぬほど痛い。
「ァァァ……ぅぅううウウガァア熱ッッッチィィィ!!」
信長が炎の中から蘇り、火事から命からがら逃げ出した住民の様に飛び出して倒れた。
熱くて痛いが、体力も怪我も完全に治っている。
なお神界で死ぬことは不可能なので、生きたまま灰にして回復させるので限りなく死ぬほど熱い。
「貴方たちはまだ英雄の魂になってないのだから、初回で突破できるとは思ってないわ。だから死ぬのは別に良いわ。何度でもやりなおして経験しなさい。まぁ死ぬほど痛い経験もするけどね。だけど余計な手を煩わせないでくれる?」
「はい……」
新品艶々になった信長が、身をもって『口は災いの元』を学び、やはり『言霊』の概念はあるんじゃないかと思いなおすが、これは『言霊』と言うよりは『失言』の類だろう。
「ま、ウェアウルフの今川義元に一発で勝てるとは思ってないわ。それに貴方たちの戦略は悪くない。やろうとした事も理解できる。良い線いってたと思うわよ? 感染者を治療し、死体のフリ。隙をつこうって寸法ね。大量出血の異常を察知した義元も昼間に来たから勝機はあった。そこを不意打ちで討ち取る。倒せる可能性はあったと思うわ。ただ相手が一枚上手だったわね」
(本気で褒めてるのかしら)
(そのようじゃな。汚いとか言われると思ったが)
「良くない事を考えてる?」
「いえ!」
「決してそんな事は!」
「そういう事にしておきましょう。貴方たちの3次元世界、つまり戦国時代では卑怯、卑劣は正義なのよね。でもこの8次元世界は武士道、騎士道がある。卑怯、卑劣は許されない風潮があるの」
「卑怯卑劣がダメはともかく、ブシドー? 武士どー?」
「キ、キシドー? 何ですかソレ」
信長も帰蝶もイマイチ、ピンとこない。
両方とも知らなくて当然だ。
武士道の名前は江戸時代が初出だが、概念は相当に遡って存在するが、時代によって解釈は変わる。
武芸の鍛錬や礼節などは、どの時代もだいたい共通だが、決定的に違う概念に変わる境目がある。
鎌倉期では御恩と奉公、給料があるから働くという、3次元の社会人と似た概念だ。戦では名乗るのも常識であり、その常識を破ったのが源義経である。
戦国時代では処世術で、何をしても生き残れば勝ちであり、アホな主君は容赦なく見捨てられる。近江の大名六角義賢は家臣に『勝手な事をするな』と誓わされた。
信長も将軍足利義昭に『命令は俺の許可を得よ! 操り人形が自我を持つな(意訳)』と上司、しかも将軍の自由を奪った。
これが江戸時代になると徳川家康が朱子学を取り入れ、絶対服従、主君に対する忠節が美徳となったので反逆など絶対に許されない。
「騎士道まで説明すると『文字数稼ぎ』に取られかねないので、私からは説明しないわ。でも3次元人の貴方達は最近ようやくやっと『AI』が便利になったって聞くし、それらを駆使して各自調べてね。『武士道と騎士道の違い』とかで調べたら良いと思うわ。私の言葉を読んでいる人は、その機械で出来るはずよ。面倒な人は、だいたいなんとなくそこはかとなく武士道と似てる部分もあれば違う部分もあるとだけ覚えておけばいいわ」
(また誰かに向かって話しておるな)
(えぇ。でっかい独り言みたいで気味悪いですね……)
3次元の現代人でもスマホをヘッドセットで通話している人をみると、一瞬ギョッとするだろう。
正直、不審者にしか見えないからだ。
そりゃ信長達がソレに似た事をするファルファッラを見たら、気味が悪いのも当然だ。
あと何度もしつこいが、コチラは8次元空間である。
3次元の常識は通用しないので気を付けて欲しい。
いいね?
「さて反省会ね」
「反省? あ、あぁそうだな」
下界では、また信秀が、信長復活の儀式の途中で停止している。
失敗した歴史にはもう用は無いので次である。
あまりにも真っ当な言葉がファルファッラから出てきたので、信長も帰蝶も拍子抜けしてしまった。
てっきりお仕置きでもあるかと思っていたので、声がひっくりかえってしまった。
「さっきも言ったけど、武士道、騎士道を無視した死んだふり作戦。普通の相手なら通用したでしょうね。あの8次元世界では最低最悪の手段だしね」
「そうなのか? 親父たちは何も言わんかったぞ!?」
「まぁ織田家は滅亡寸前だったからね。手段を選んでいられなかったのでしょう」
「滅亡寸前!? そうなの!?」
下界に降りても知らなかった事が今明かされた。
「えっ? じゃ、じゃあ斎藤家は?」
「今川家と組んでるわ。『大事な娘を死なせた織田家が憎い』ってね」
「えぇ!?」
これも知らなかった情報だ。
「先に教えてくれ!?」
「英雄の魂に育てるのに余計な情報は与えない。ま、死んだ時はヒントや情報を与えても良いわよ?」
「グヌヌヌ……いや、何でもないです……」
思わずうなり声をあげてしまったが、どんなにイチャモンつけても絶対に勝てない相手なので、子犬の様に大人しくなる信長であった――
【時空神ファルファッラ様のお言葉】
「はい。コピペ用よ。AIで調べなさいな」
武士道と騎士道の違い




