11話 The curse of the werewolf(ウェアウルフの呪い)
【8次元世界下界/尾張国 清須城 広間】
「あっ!?」
信長が短く叫んだ。
「どうしました、信長様」
帰蝶がこの次元の礼儀に倣って諱で確認するが、信長はそれに気が付いた様子もない。
むしろ帰蝶の言葉に振り向いた信長の眼光に、帰蝶が照れて顔をそむけてしまった。
「? あー皆の衆、これは重要な事なので確認させて欲しい。親父殿らにとって常識でも、我らは知らぬ。逆も然り。いいですな? 当たり前でも何も知らぬ赤子に聞かせるが如く話してください」
信長の雰囲気が一変した。
何かに可能性を見出し、案がいくつか思いついたのだ。
「まずウェアウルフの呪い。これは解呪可能ですか?」
戦国時代にも(勘違いだが)呪法が存在する。
それを避ける手段がある。
ならばこの次元でも可能かもしれないと踏んだのだ。
「いえ、解呪出来たと言う記録は聞いた事がありませぬ。ただ可能性が無い訳でもありませぬが問題点が……」
この次元の平手政秀が答えた。
政秀は術学者でもあるが、そんな話は聞いた事がない。
だから悩んで信秀に、信長を復活させる提案をしたのである。
可能性があるとすれば、やはり『信長』しかない。
「問題点? 何だ? 詳しく聞かせよ」
「この呪いは強力すぎます。必然的に解呪は5.7.5.7.7の5節完全詠唱になりますからな。単独で出来なければ、解呪に必要な供物、歌紋術式、祝詞が必要ですが、補助に何が必要か? それが分かりませぬ。今から調べても間にあうかは不明の上、5節完全詠唱を使える信秀様が、蘇生歌術で大幅に精神力を削られました。この回復期間は10日そこらでは間に合いません」
政秀が断言した。
「分かった。意外に詳細な情報だ。助かる」
(助かる? 何か方策が?)
政秀が疑問に思うが信長の言葉は止まらない。
「次。義元は歌術で人狼になったと言われましたが、いつからウェアウルフなのですか? 最近の話で?」
「いや、己の術力、満月の力と太原雪斎の術力で真祖に至ったと聞いている。その力で家督を奪ったのが18歳だ」
「ッ!! 今の義元の年齢は!?」
信長と帰蝶は、今が何年か知らない。
和暦があるのかも不明だ。
「25歳前後だと思うが……?」
「義元に噛まれてウェアウルフになった者に嚙まれても、眷属になるのでしたな!?」
「なる。故に厄介極まりないのじゃ。こちらの戦力が減るだけならともかく、相手は増やしていけるのだからな……」
「それなら! 今頃、日ノ本全員ウェアウルフじゃないとおかしくないですか? 勝家以外に噛まれた者も15日後には呪いに負けるのでしょう?」
「あ、あぁ。そうなるな」
「仮に今、義元が1人噛んでウェアウルフが2人になります。今度は2人で噛んだら仲間が4人。これを続けていけば、ひと月もあれば日ノ本は義元の天下のはず。感染人数に限界値があるなら別ですが、何故なってないのです!?」
とあるネコ型ロボットのシークレットツールに『物を倍にする薬品』がある。
5分毎に2個→4個→8個と増えていき、2時間15分で1億3421万7728個となり、2026年現在の日本の人口を超える。
「聞いた事は無い……! 信長の言う通りじゃ。何故そうなってない!?」
ようやく家臣たちも異常を理解した。
この仮説が事実なら、信長達が来る前に、全員ウェアウルフになってないとおかしい。
それか義元が手を抜いているか、仲間の制御が必要なのか、それとも他に何かあるのか?
しかし元の次元の今川義元は海道一の弓取りとして名を馳せ、そんな温い戦いなどしない。
感染という超強力な武器をあえて抑えている。
《ファル! 貴様ら神の悪戯かなにかじゃ無いだろうな!?》
《そんな事して神に何の得があるのよ! アンタ達に英雄になって貰わないと困るのが我々よ!? ……でも今のクレーム以外は褒めてあげるわ。その調子で打開策を考えなさい》
《珍しく褒めましたね》
《考え方は合ってると見て良かろう》
12歳の信長ではあるが、記憶の流入で物の考え方を自然と学んだ信長でもある。
ズバズバと3次元人ならではの疑問をぶつけていく。
「次に勝家!」
「は、はい!」
「噛まれたと言う事は、超至近距離で戦ったのじゃな? で、刀剣類は効かないからさっきワシの質問に驚いた。そうじゃな?」
「はい……!」
「最初から術だけで戦ったのか?」
「噛まれた身で言うのも何ですが、某は刀剣槍も得意です。術も合わせて変化前なら何とか倒せると踏んだのですが、力及ばず……」
「変化前? 常時変化しているのではないのか? 変化前なら歌術や武器が通じるのか!? あ、さっき親父殿が『人間形態の義元には善戦できても、変化されたら手も足もでぬ』と言っておりましたな? その変化を義元は自由自在にできるのか?」
「あっ! 奴が変化するのは日没後です! ウェアウルフは夜間限定の形態です!」
勝家は8次元の常識として、無意識に情報を省いてしまっていた。
「成程。日の入り後じゃないと変化できないのだな!? さっきも聞いたが変化前なら武器や術が効くのだな?」
「そうです。夜よりマシと言う程度ですが、某の場合は日の出と共に術と刀で戦いました。先ほど刃物は効かないと言いましたが、防御なら夜でも役に立ちます。お互いの属性が弱点属性でしたので、あとは反射神経の勝負。それならば、と踏んだのですが、結果はこのザマです。日没までに決着をつけられませんでした」
もう一度袖を捲った腕には嚙み痕がしっかり残っている。
「日の出から日の入りまで戦ったのか!? うん???」
信長は義元への問題とは別の問題に気が付いた。
戦国時代でも何日間と戦うこともあるが、集団で交代しながら戦うのが基本だ。
そんなブッ通しで戦うなど兵が持たない。
だが、勝家の言い分を聞くと、半日ずっと戦っていた事になる。
だとすると、とんでもない事実が浮かび上がってくる。
「では、例えば味方の武将に体力回復の歌術など、援護を受けて戦ったのだな?」
「はい。流石に援護なしでは一日中動くのは当然、戦うのも無理です。義元はウェアウルフの能力として昼までも人間形態でも体力は衰えませんでした。夜は人狼ですが昼でも超人といって良いでしょう。我等精鋭でも歯が立ちませんでした」
「何と!! 精鋭!?」
信長は驚いた。
8次元人たちは、義元の能力に驚いたのだと思ったのだが、信長が驚いたのはそこではない。
「一応、聞きますぞ? 勝家が嚙まれた時、一体敵味方、何人の戦だったのです? 精鋭とは何人で!?」
「精鋭5人対8人でした」
「……は? 5対8!?」
「お、多すぎでしたか……? あ、我等が5です」
「少なすぎじゃ!!」
5人噛まれた、と言う時点で何となく嫌な予感はしていたが、的中してしまった。
3次元の戦国時代では、どんなに少なくても数百人単位、村同士の喧嘩でも数十人単位。
最大値となれば、両軍合わせて30万人の大坂冬の陣があるし、数万単位の戦も後年には頻発する。
信長が桶狭間で戦った戦力も2500対25000だったとも言われる。
「だ、だが、やっと嚙み合わないすれ違いの原因がわかったぞ! この次元では少人数、いや、少数精鋭で戦うのが基本か!!」
「そ、そうですが……それが何か……そちらでは違うのですね!?」
「あぁ。我らの次元では術は使えぬからな。必然的に数千人単位の合戦が普通じゃ。万を超える事もザラじゃ」
「数千!? まん!? そんな途方もない人数を集めて戦いをするので!?」
勝家は想像を絶する人の大群を思い浮かべ、気分が悪くなった。
想像だけで人ゴミ酔いをしてしまった様だ。
「戦いは数の次元だったからな。少数が勝つ場合もあるが、基本はより多く揃えた方が勝っていた。だがこの次元は術の力に優れた者だけが戦力となるのだな?」
「そうです。庶民の術では、仮に使ったとしても炊事や洗濯程度でしょうな」
「何と!! ……ん?」
信長は頭を抱えたが、それはそれで幸運である事にも気が付いた――
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作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)大先生だ!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)
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