帰り道
「いい人達でしたね」
「……そうだな」
廉太郎の浮かない返事に、勤三郎は違和感を覚えた。
横目で窺う廉太郎の表情は険しい。
「どうかしましたか?」
「いや、ただ土方だけは敵に回したくないと思ってな」
「土方さんですか? 廉太郎さんは一度も土方さんに負けなかったのに?」
「確かに今日は負けはしなかったが、真剣となれば俺はあの男に勝てないだろう」
天然理心流は実戦に適した剣術だった。
『剣術は道楽か?』
土方のその言葉の意味が、今なら分かる。
あれは人を斬るための剣術。
真剣でこそ、その本領を発揮するのだろう。
「廉さん」
「何だ?」
「今日はありがとう」
「ああ……」
それからというもの、藤堂が千葉道場に通ってくる度に、二人は交流を深めていった。
そんな折、藤堂平助から清河八郎が浪士組を結成するため、浪士を募っているという話を耳にした。
文久三年一月のことである。
「それで、清河八郎は千葉道場に来ているのか」
「ああ、同志を集めるには手っ取り早いんだろうな」
清河八郎。
出羽国庄内藩領の出身で、千葉周作の玄武館で北辰一刀流を学び、幕府の学問所である昌平黌にも学んだ後、清河塾を開設した人物である。
安政の大獄以降、清河塾には山岡鉄舟をはじめ、後に相楽総三と深く関わることになる伊牟田尚平や益満休之助など、憂国の士が集まっていた。
「それで平助は、その浪士組に参加するの?」
「ああ、近藤さんや山南さん、試衛館の皆もな」
「そうか……寂しくなるね」
浪士組の話は、藤堂が近藤達に持ち掛けたものだった。
近藤は農民の出身というだけで、これまで幾度となく苦汁をなめてきた。
今回の浪士組への参加は、彼らにとって武士として正式に認められる絶好の機会なのである。
「今度会うときは敵同士かもな」
将軍警護を目的とした上洛であるからには、佐幕派として参加することになる。
藤堂や山南は尊王派だったが、山南は近藤の志に惚れ込み、共に行くことを決めた。
北辰一刀流には尊王攘夷派が多い。
だが、国を想う気持ちは尊王も佐幕も関係なく、皆同じなのだ。
たとえ藤堂が佐幕の道を選んだとしても、それを恨むことなど出来なかった。
「お互いに頑張ろう」
そう言って、二人は別れを告げた。
勤三郎が、近藤ら試衛館の面々が会津藩お預かりの新選組として京都の治安維持に当たっていると知るのは、もう少し先のことになる。
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「あの時の予感は的中しちまったって訳か……」
藤堂はポツリと呟いた。
だが、今の自分の立場を思えば、何とも複雑な気分になる。
「その相楽がな、今度は江戸で何やらやらかしそうだという噂だ」
「……」
「今日、平助……お前を呼んだのは、一言断りを入れたくてな」
「断り?」
改まって断りを入れられるようなことなど、何も思い当たらない。
「もし奴らと戦になったら、俺達はお前の仲間を斬らねばならん」
「何だ……そんな事か」
何事かと思えば、相変わらず律儀な連中だと藤堂は思った。
「何だ、そんな事かってお前……」
「左之さん、そんな事、今までだってやってきた事だろう?」
山南敬助の時も、芹沢鴨の時も、これまで何人の仲間を斬ってきたことか。
新選組は戦いで命を落とした者よりも、粛清された者の方が多い。
そして今、自分達御陵衛士がその対象となっているのだ。
「俺に遠慮する事なんてないんだぜ?」
「平助……」
「情けは無用。近藤さんにもそう言っておいてよ」
藤堂の言葉は、まるでこれから自分達の身に起こることを予感しているかのようだった。
「こんな湿気た話は止めようぜ!」
「そうだな! 今夜は朝まで飲み明かそうぜ!」
これが、三人で過ごす最後の時となる。




