手合わせ3
「何だ何だ! アイツら新しい食客か?」
「違うよ原田さん、俺と同じ北辰一刀流の仲間さ」
「平助が連れて来たのか?」
「そうだよ、新八さん……何? 今、吉原の帰り?」
原田と永倉はよくつるんで酒を飲みに行く。
二人とも、まだ酒が抜けきっていないような顔をしていた。
「いや~まあ、そんなところだ」
「全く、しょうがねえな」
「酒と女は男の甲斐性って言うだろう」
永倉は悪びれる様子もなく、そう言ってのけた。
「あっ! あんなところで鼠が相撲してる!」
「えっ!」
「隙あり!」
「痛っ~!」
「あれは何をやってるんだ?」
原田は沖田と勤三郎の手合いを見て、呆れた顔をしていた。
「ああ~あれね。総司の奴……さっきから渋谷君を茶化してばかりいるんだ」
それに素直に引っ掛かる勤三郎。
そんな勤三郎の反応が、沖田には可笑しくて堪らない。
「もう~沖田さん、ずるいです!」
「騙される方が悪いんだよ」
初めは真面目に手合いをしていた二人だったのだが、次第に飽きてきた沖田が、勤三郎をからかって遊び始めたのだ。
「何やってんだか……」
「見ていて飽きないけどね」
「よし! 俺も仲間に入れて貰おう」
永倉は木刀を手に取ると、沖田達の元へ向かって行った。
藤堂と原田は、井上が淹れた茶を啜りながら、その様子を見て笑っていた。
勤三郎にとって、剣術の鍛錬がこんなにも楽しいと思えたのは初めてだった。
笑いながら日の本の行く末を語り合う。
それは山南の言う通り、思想の違いを越えた交流だった。
ただ、時折近藤が口にする「御上」という言葉に、廉太郎の表情が険しくなるのを、勤三郎は見逃さなかった。
「それより、あの男強いな」
原田が廉太郎を見ながら言った。
廉太郎は背も高く、体格もいい。
商人で終わるには惜しい男だった。
「竹内廉太郎さん。あの人強いよ、土方さんがまだ一本も取れないんだ」
「へえ、あの土方さんが」
「弟の哲次郎さんや渋谷君も悪くないけど、三人の中じゃ廉太郎さんが一番かな」
藤堂は廉太郎に一目置いていた。
そんな廉太郎でさえ、近藤からは五本に一本取れるかどうかというほどだった。
三人は日が暮れるまで、剣を振るい続けていた。
「今日はとても有意義な時を過ごせました。感謝いたします」
「もっとゆっくりしていっても良かったのですぞ」
「いえ、明日も朝から稽古があります故、今日はこれにて失礼いたします」
近藤は三人を食事の席に誘ったが、廉太郎は丁重にそれを断った。
意外だったのは沖田だ。
「そんな~! どうせなら泊まってっちゃえばいいのに!?」
最初はやる気がなさそうにしていた沖田だったが、生真面目な渋谷をからかうのが楽しくて仕方がないらしい。
「こら総司、無理に引き留めるでない。皆さんが困っているではないか」
「だって、久しぶりに平助以外に遊び甲斐のある奴を見つけたのに!」
「そんな言い方をするな。失礼だろうが……」
遊び甲斐のある奴というのは、もちろん勤三郎の事だ。
まるで玩具のような扱いをされても、勤三郎は嫌な顔ひとつせず、総司に礼を言った。
「沖田さん、僕……沖田さんの事、大好きですよ」
「……えっ?」
突然の渋谷の言葉に、今度は沖田が狼狽する番だった。
「沖田さんの剣は真っ直ぐで曇りがない。僕も貴方のような人になりたい」
瞳をキラキラと輝かせながら沖田を見つめる渋谷に、沖田は明らかに動揺していた。
沖田は幼い頃から近藤に可愛がられ、剣の腕も立ったため、他の門弟から煙たがられ、時には嫌がらせを受けることもあった。
そんな経験もあってか、沖田の性格には年齢の割に幼く、子供じみたところがある。
だからこそ、自分を好きだと言ってくれたことは、沖田にとって凄く嬉しいことだった。
しかし、その言葉を素直に受け取ることが出来なかった。
「あの……渋谷君?」
「はい……何でしょう?」
「褒めてくれるのは嬉しいんだけど……大好きとか、男には言わない方がいいと思うよ? 気持ち悪いから」
「……!」
冷ややかな視線を向ける沖田に、渋谷はようやくその言葉の意味を理解し、顔を真っ赤にした。
「すっ、すみません! そういうつもりではなくて、沖田さんの剣が好きっていうか、いや、沖田さんの事も好きですが……」
おどおどと言い訳をする渋谷の姿が可笑しくて、沖田はクツクツと腹を抱えて笑っていた。
「総司、いい加減渋谷君をからかうのはよさないか」
「だって……今時いないよ? こんな騙されやすい人」
「そこが勤三郎の良い所なんですよ」
羞恥心から落ち込んでいる勤三郎の頭を優しく撫でながら、廉太郎が擁護に入った。
屈託がなく、素直で人を疑わない。
しかし、それだけに騙されたり、人に流されたりしやすいところもあり、廉太郎はそれを心配していた。
「勤三郎は俺達にとって可愛い弟分なんで、あまり苛めないでやって下さい」
哲次郎も勤三郎の味方だった。
良い友を持ったものだと、勤三郎は心が温かくなるのを感じた。
「また、いつでも遠慮なく来るといい」
「ありがとうございます」
三人は近藤達に頭を下げると、踵を返して試衛館を後にした。
その帰り道、勤三郎は廉太郎と哲次郎に笑顔で話し掛けた。
何故、今
渋谷総司や竹内廉太郎
そして、藤堂平助
試衛館の話しをしているのかは
後の話しで明らかになる事でしょう
歴史的説明が多い箇所もございますが
出来るだけわかりやすく
私なりの考察や想像を含めたお話しになればと思います




