手合わせ2
「近藤さん!山南さん!」
「おお、平助!よく来たな。その御仁達が山南さんの言っていた?」
近藤が平助の後ろにいる三人に目を向けると、廉太郎が一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。
「竹内廉太郎と申します。右にいるのは弟の哲次郎、左にいるのは渋谷勤三郎です」
「渋谷勤三郎です。お世話になります」
「ああ、畏まらなくていいよ。ここでは気軽にしてくれ」
近藤もまた、試衛館を継いだばかりだった。
その気さくな人柄は、勤三郎達の緊張を和らげた。
「ねえねえ平助、この人達強いの?」
「総司、お前いきなり失礼なこと言ってんじゃねえよ!」
「失礼じゃないよ。どうせ戦うなら強い方がいいじゃん」
気怠そうに横から顔を出したのは、沖田だった。
沖田は渋谷よりもさらに背が高く、手にした木刀をブンブンと振り回していた。
「こら総司、彼らは道場破りに来た訳ではないのだぞ」
「えー、違うの? なんだ、つまらないの」
そう言うと、沖田は踵を返し、いかにもつまらなさそうに道場へと戻って行った。
その様子を、三人はただ唖然と見送っていた。
「すまん、総司は年の割には幼いところがあってな」
少々手を焼いているのだと、近藤は頭を掻きながら苦笑した。
「さあ、こちらへどうぞ。仲間を紹介しましょう」
屋敷の中へ通されると、そこには山南の他に二人の男がいた。
「こちらは井上源三郎さん。同じ天然理心流の門弟です」
「はじめまして、竹内と申します」
「皆は源さんって呼んでるぜ」
藤堂が近藤の紹介に付け加える。
仲間が増えたことが嬉しいのか、藤堂はどこか楽しそうな様子だった。
「で、こっちが土方歳三。まあ……一応門弟といったところか」
「一応ってなんだ、一応って。最近はちゃんと通って来てるだろうが」
「お前は仕事があるだろう。家に迷惑を掛けてはいかん」
「土方殿は武士ではないのか?」
近藤と土方の会話を聞いている限りでは、土方は何か商いをしているようだった。
廉太郎が土方に問いかけると、近藤が口を開いた。
「ああ、コイツは日野で石田散薬を売っているんですよ」
「石田散薬?」
近藤は部屋の隅に置かれた箱を指差した。
薬箱には、傘に丸印の紋が付いている。
「では、土方殿も商いをしておられるのですな」
「……も?」
土方は廉太郎の顔を見て、眉間に皺を寄せた。
「俺も実家は小金宿で商いをしているんです」
「あんた、商人なのか?」
「はい。今は両親に任せていますが、将来的には家を継ぐことになるかと」
廉太郎は長男だ。
今は哲次郎について世話を焼いているが、いつかは家を継がなければならない。
「なんだ……剣術は道楽か?」
土方は不敵な笑みを浮かべながら、挑発するように廉太郎に毒を吐いた。
土方にしてみれば、剣術をやりたくても思うようにならない自分の境遇に嫌気が差しており、その苛立ちから出た嫌味だった。
「道楽かどうかは、貴殿自身で試してみてはいかがかな?」
いつもなら、そんな挑発に乗るような廉太郎ではないのだが、この時は珍しく土方の挑発に乗った。
同じ商人としての意地なのだろうか?
土方と廉太郎は、道場で一試合することになった。
「廉さん……」
「心配するな、無茶はせんさ」
土方は自慢の赤い紐の防具を身に着ける。
他の男達とは違い、人一倍洒落っ気だけは強かった。
「さあ、来い!」
「ああ、いくぜ!」
廉太郎は冷静だった。
この試合、熱くなった方が負ける。そう判断したのだ。
土方は低い脇構え、廉太郎は八相の構えを取っていた。
土方が廉太郎の右脇を目掛け、木刀を振るう。
廉太郎はそれを避けるつもりでいたのだが。
「……くっ!」
土方の木刀は、人よりも太くて長い。
本物の刀と同じ重さの代物だ。
思っていたよりも速い太刀筋に、廉太郎は避けきれず、咄嗟に木刀を袈裟懸けに振り下ろして土方の木刀を弾いた。
(強い……!)
土方の太刀筋は乱暴で荒いが、実戦的であり、油断すればやられる。
しばらく二人の熾烈な打ち合いが続いた。
そして、土方が見せた一瞬の隙を突き、廉太郎の面が入った。
「一本!」
勝者は廉太郎だった。
「くそっ、負けた!」
土方は心底悔しそうに面を外すと、その場に倒れ込んだ。
すると、沖田が上から土方の顔を覗き込んだ。
「もう~、土方さんが油断するからだよ。僕なら絶対負けないのに」
「総司! だったら今度はお前が相手してみろ!」
「いやいや、土方殿。俺も暫くは動けませんよ」
二人とも、今の一戦で力を使い切っていた。
「じゃあ沖田さん、僕の相手をしてくださいよ」
「君は……渋谷とか言ったっけ?」
「はい! 渋谷勤三郎です」
「いいよ、相手してあげる。だけど、ちょっとは楽しませてよね」
そうは言っても、さすがは天然理心流の塾頭である。
渋谷は何度挑んでも、一度も勝つことができなかった。
日が高く昇る頃、今度は二人の男がやって来た。




