煙の先
朝になっても、
煙は消えていなかった。
森の奥。
廃道のさらに先。
細い煙が、
ゆっくり空へ伸びている。
エルドが窓から外を見る。
「……どうする?」
「普通なら近づかない」
リナが即答した。
追手の可能性もある。
避難民同士の争いかもしれない。
今は、
誰を信用していいか分からない。
だが。
レイは煙を見たまま呟く。
「火を使えてる」
「え?」
「逃げてる最中なら、
普通は目立つ火を避ける」
つまり。
あそこには、
少し落ち着ける状況がある。
エルドが腕を組む。
「避難民か?」
「かもしれない」
短い沈黙。
リナがため息を吐いた。
「……行くんだね」
「情報が欲しい」
レイは立ち上がる。
今の三人には、
世界の状況が見えていない。
街は封鎖され始めていた。
空の亀裂も広がっている。
避難民が増えているなら、
他の街も危ない。
小屋を出ると、
朝の空気はかなり冷えていた。
三人は廃道を進む。
昔の避難路。
所々に、
古い結界跡が残っている。
レイは歩きながら、
小さく違和感を覚えていた。
「……妙だな」
「何が?」
エルドが聞く。
「結界の向き」
リナが首を傾げる。
「向き?」
「普通、
外から守る形で組む」
だが。
この廃道の結界は違う。
「……内側から逃がす形になってる」
二人の顔が変わる。
昔も。
ここを通って、
誰かが逃げていた。
その時だった。
森の奥で、
何かが倒れる音が響く。
三人の動きが止まる。
かなり遠い。
だが。
煙が上がっている方向だった。
エルドが小さく呟く。
「……嫌な予感しかしないんだけど」
レイは静かに前を見る。
煙はまだ、
消えていなかった。




