裏路地
夜の裏路地を、
三人は走っていた。
石畳は濡れている。
細い通路が、
複雑に入り組んでいた。
エルドが息を切らす。
「はぁっ……
はぁっ……!」
「まだ追ってくる?」
リナが後ろを見る。
遠くで、
怒声が響いていた。
だが。
「まだ距離ある」
レイは短く答える。
ガルドが時間を稼いでいる。
そのおかげだった。
エルドが苦い顔をする。
「……大丈夫かな」
「誰が」
「副団長だよ」
レイは少し黙る。
本部命令違反。
しかも、
解読士逃亡の補助。
軽くは済まない。
リナが小さく呟く。
「たぶん、
最初から覚悟してた」
短い沈黙。
レイは足を止めない。
ガルドは現場騎士だ。
だからこそ。
あの門前で、
避難民を見捨てられなかった。
エルドが前を見る。
「で、
これからどうする?」
「街は出る」
レイは即答した。
「もう戻れない」
教会本部側へ、
完全に目を付けられた。
次に捕まれば、
たぶん終わる。
「でも行く場所あるの?」
リナが聞く。
レイは少し考える。
その時だった。
遠くで、
また黒い空が揺れた。
亀裂。
まだ消えていない。
しかも。
「……増えてるな」
エルドが顔を青ざめる。
空の裂け目が、
前より広がっていた。
「これ、
街の外も危なくない?」
「危ない」
レイは静かに答える。
だからこそ。
人が逃げ始めている。
人間も。
魔族も。
その時。
路地の奥から、
小さな物音がした。
三人の動きが止まる。
レイが静かに前を見る。
「……誰だ」
数秒の沈黙。
やがて。
壊れた木箱の陰から、
小柄な魔族の少年が現れた。
痩せている。
服もボロボロだった。
少年は怯えた目で、
レイたちを見る。
「……あんた、
解読士か?」
レイの目が細くなる。
少年は震えながら続けた。
「魔族を……
追い返さなかったって、
聞いた」




