逃走
「同行してもらう」
男の言葉で、
門前の空気が凍った。
避難民たちも、
ただ事じゃないと察している。
ガルドが静かに聞く。
「……拒否したら?」
「本部命令への反抗と見なす」
冷たい返答だった。
レイは小さく息を吐く。
予想通りだ。
侵食を止めた。
術式を読んだ。
空の亀裂を見た。
教会側が放置するはずがない。
「行くよ」
レイは短く答えた。
エルドが顔を上げる。
「レイ!?」
「ここで揉めても、
避難民巻き込むだけだ」
男が小さく頷く。
「賢明だ」
そのまま、
レイは本部騎士たちに囲まれ歩き出す。
両手には拘束具。
だが。
完全な罪人扱いではない。
周囲も、
まだ様子を見ている状態だった。
門横の搬入口を通り過ぎる。
避難民用の裏通路。
荷車が何台も並び、
人の出入りも多い。
その瞬間。
横を歩いていたガルドが、
小さく呟いた。
「手ぇ出せ」
レイだけが反応する。
一瞬。
ガルドの指が拘束具へ触れた。
小さく金具が鳴る。
外れた。
だが、
見た目では分からない。
ガルドは前を向いたまま言う。
「三秒後、
左の荷車倒れる」
「雑だな」
「急に考えたからな」
レイは少しだけ口元を緩める。
そして。
三秒後。
大きな音が響いた。
荷車が崩れる。
木箱が散乱し、
避難民たちが悲鳴を上げた。
「なっ——」
本部騎士たちの視線が逸れる。
その瞬間。
レイは拘束具を外し、
裏通路へ滑り込んだ。
「レイ!」
エルドが叫ぶ。
だがすぐ、
リナが腕を引いた。
「走る!」
三人はそのまま、
狭い裏路地へ駆け出す。
背後で怒声が響いた。
「逃げたぞ!!」
本部騎士たちが動く。
だが。
ガルドが通路の前へ立っていた。
「どけ、副団長!」
「避難民が混乱してる。
今走れば潰れるぞ」
「貴様……!」
短い沈黙。
やがて男が低く告げる。
「副団長ガルド。
本部命令違反の疑いで拘束する」
周囲の騎士たちが息を呑む。
ガルドは抵抗しなかった。
ただ一度だけ、
レイたちが消えた路地を見る。
そして小さく呟いた。
「……借りだからな」




