本部命令
門前には、
重い空気が流れていた。
人間の避難民。
魔族の避難民。
本来なら、
同じ場所へ並ぶことすらあり得ない。
だが今は違う。
全員、
同じ空を見ていた。
黒い亀裂。
あれを見てから、
誰も以前と同じ顔をしていない。
ガルドが腕を組む。
「……問題はここからだな」
レイは小さく頷く。
魔族を街へ入れるのか。
それとも追い返すのか。
どちらを選んでも、
揉める。
その時だった。
「副団長!」
門上の騎士が叫ぶ。
「本部側の騎士団が来ます!」
空気が変わる。
ガルドの顔が険しくなった。
「早いな……」
エルドが小さく呟く。
「もう来たのかよ」
レイは門の向こうを見る。
遠くで、
騎士団の旗が揺れていた。
教会本部直属。
しかも数が多い。
「避難民を見たら、
絶対揉めるぞ……」
エルドが苦い顔をする。
少し離れた場所では、
リナが避難民の子供へ毛布を渡していた。
こちらの会話には入ってこない。
ただ、
門前の空気だけは気にしているみたいだった。
その時。
門の向こうから、
馬の足音が近づいてくる。
重装騎士たちだった。
先頭にいる男が、
門前を見渡す。
そして。
魔族避難民を見た瞬間、
露骨に顔をしかめた。
「……これはどういう状況だ」
冷たい声だった。
ガルドが前へ出る。
「避難民だ」
「魔族が?」
「人間側も被害を受けてる」
男はレイを見る。
その視線だけで分かった。
こっちを知っている。
「解読士レイ」
門前の空気が張り詰める。
「本部命令だ」
男は静かに告げた。
「同行してもらう」




