集まり始める人々
街の外門付近は、
異様な空気に包まれていた。
荷車。
毛布。
泥だらけの靴。
避難民たちが、
静かに座り込んでいる。
泣き声は少ない。
その代わり。
全員の顔に、
同じ疲弊が浮かんでいた。
「……こんなにいたのか」
レイが低く呟く。
エルドが頷いた。
「朝から増え続けてる」
ガルドが周囲を見る。
「教会は受け入れる気か?」
「上は揉めてる」
エルドが苦い顔をする。
「侵食地域の人間を、
中へ入れるなって声もある」
「だろうな」
レイは避難民たちを見る。
侵食を恐れるのは当然だ。
だが。
「……妙だな」
ガルドが横を見る。
「何がだ」
「侵食されてる奴が少ない」
本来ならもっと多い。
侵食地域から逃げてきたなら、
症状が出ていてもおかしくない。
だが。
避難民たちは怯えているだけだった。
その時。
小さな少女が、
レイを見上げる。
「お兄ちゃん」
痩せた子供だった。
レイは視線を下ろす。
「なんだ」
「黒い空、
見た?」
周囲の空気が止まる。
少女の母親が慌てて抱き寄せた。
「す、すみません……!」
だが。
レイは静かに聞いた。
「お前も見たのか」
少女が小さく頷く。
「空が割れてた」
周囲の避難民たちも、
不安そうな顔をしている。
その反応で分かった。
見たのは、
この子だけじゃない。
「どこの村だ」
「東の小さい村……
空が黒くなって、
みんな逃げたの」
レイの目が細くなる。
鐘楼だけじゃない。
他の地域でも、
亀裂が出始めている。
つまり。
「侵食は、
街一つの問題じゃなくなってるな」
ガルドが低く息を吐く。
「最悪だ」
その時だった。
後方で怒鳴り声が上がる。
「止まれ!」
騎士たちが剣を抜く。
避難民たちがざわついた。
門前へ、
一団が現れる。
魔族だった。
角を持つ者たち。
傷だらけの姿。
武器もまともに持っていない。
先頭にいた女が、
静かに口を開く。
「……戦いに来たんじゃない」
騎士たちの空気が張り詰める。
人間の街へ、
魔族が現れた。
本来ならあり得ない。
だが。
女は疲れ切った顔で続けた。
「逃げてきた」
レイの目が細くなる。
「どこから」
女は空を見た。
そして。
「魔王領からだ」




