綻びの核
巨大結晶が脈打つ。
鐘楼全体が、
低く軋み続けていた。
レイは剣を構えたまま、
結晶を見上げる。
侵食流。
結界流。
空間干渉。
全部が複雑に絡み合っている。
普通なら、
解析不能だった。
だが。
「……見えた」
《解読》が、
結晶内部の流れを捉える。
一点だけ。
不自然に噛み合っていない場所。
綻び。
そこを崩せば、
術式全体が止まる。
エルドが息を呑む。
「本当にやれるのか……?」
「失敗したら、
鐘楼ごと吹き飛ぶ」
「今それ言う!?」
レイは無視した。
集中する。
侵食流が暴れている。
しかも。
結晶自身が、
術式を修復し始めていた。
「自己修復……?」
レイの眉が動く。
結晶が生き物みたいに、
流れを組み替えている。
ラドスが笑った。
「無駄だ」
侵食した司祭の顔は、
もう人間のものじゃなかった。
「それは完成へ近づいている!」
「完成したらどうなる」
「門が開く!」
空が軋む。
鐘楼の上空で、
黒い亀裂が広がっていた。
だが。
レイはそこより、
結晶を見ていた。
「違うな」
「……何?」
「これは門じゃない」
ラドスの表情が止まる。
レイは静かに続けた。
「これは鍵だ」
空気が凍る。
《解読》が、
結晶構造を読み切り始めていた。
「門を開く術式じゃない。
門へ接続するための固定装置だ」
ラドスの顔から笑みが消える。
「なぜ……
そこまで分かる……」
「構造が歪すぎる」
レイは剣を握る。
「門そのものじゃない。
何かを“繋ぎ止める”側の術式だ」
つまり。
この先に、
まだ本体がある。
その瞬間。
結晶が大きく脈打った。
侵食流が暴走する。
「レイ!!」
エルドが叫ぶ。
レイは踏み込んだ。
狙うのは一点。
綻びだけ。
剣が振り下ろされる。
次の瞬間。
巨大結晶へ、
亀裂が走った。
「っ——!?」
鐘楼全体が揺れる。
黒い侵食が逆流し始めた。
ラドスが絶叫する。
「やめろぉぉぉ!!」
だが遅い。
綻びから、
侵食流そのものが崩れていく。
結界流との接続が切れた。
鐘楼の術式が、
一斉に消え始める。
「成功したのか……!?」
エルドが顔を上げる。
その時だった。
空の亀裂が、
最後に大きく脈打つ。
そして。
亀裂の奥で、
巨大な“何か”が動いた。
レイの表情が初めて変わる。
「……まだ終わってないな」




