巨大な黒い結晶
無数の黒い腕が、
通路を埋め尽くす。
侵食体は、
視界そのものを潰しに来ていた。
「うおっ!?」
エルドが咄嗟に後退する。
腕の数が多すぎる。
どこから来るのか分からない。
だが。
「落ち着け!」
レイが即座に叫ぶ。
「本体は動いてない!」
「え!?」
「腕だけだ!
核位置は変わってない!」
《解読》が、
侵食流を読み取っている。
この個体は、
空間転移型じゃない。
視界妨害特化。
つまり。
「本体は脆い!」
レイが通路奥を指差す。
「中央!
黒い流れが集まってる場所だ!」
エルドが目を凝らす。
見えない。
だが。
黒い腕の動きだけが、
わずかに一点を避けている。
「……いた!」
エルドが踏み込む。
腕が殺到する。
だが。
「右は偽物だ!
左だけ見ろ!」
レイの声が飛ぶ。
エルドが剣を振る。
黒い腕を突っ切る。
その先。
小さな核が見えた。
「そこかぁ!!」
剣が突き刺さる。
瞬間。
無数の腕が止まった。
次の瞬間。
侵食体全体が、
黒い灰となって崩れ落ちる。
静寂。
エルドが荒い息を吐いた。
「はぁ……っ、
はぁ……っ……!」
レイは立ち止まらない。
「上へ行くぞ」
二人は鐘楼最上階へ駆け上がる。
鐘の真下。
そこに。
巨大な黒い結晶が浮かんでいた。
「……でかすぎだろ」
エルドが顔を引きつらせる。
結晶は、
鐘楼全体へ侵食流を伸ばしている。
これが核だった。
レイは静かに結晶を見る。
「やっぱり、
街全体と繋がってるな」
壊せば終わる。
だが。
雑に砕けば、
結界ごと吹き飛ぶ。
その時だった。
下階から、
ラドスの叫びが響く。
「やめろ!!」
侵食した司祭が、
狂気じみた顔で笑っていた。
「あと少しだったんだ!!
もう少しで開けた!!」
レイは静かに聞く。
「何を開く」
ラドスの瞳が揺れる。
侵食で濁りながらも、
そこだけ異様に執着していた。
「世界の外だ」
空気が止まる。
レイの目が細くなる。
「外?」
「この世界は閉じている!
本当の魔力も!
本当の知識も!
全部封じられてる!」
鐘楼が軋む。
結晶が脈打つ。
だが。
レイは静かだった。
「だから世界を壊すのか」
「違う!!」
ラドスが叫ぶ。
「救うんだ!!」
狂気だった。
だが。
完全な嘘にも見えなかった。
レイは結晶を見る。
侵食。
門。
結界。
全部繋がっている。
そして。
「……方法を間違えたな」
レイは剣を抜く。
《解読》が、
巨大結晶の綻びを捉える。
一点。
そこだけ流れが歪んでいた。
「エルド。
下がれ」
「え?」
「終わらせる」




