西通り
教会の外へ出た瞬間、
空気が変わった。
街全体がざわついている。
鐘の音。
怒鳴り声。
避難する住民たち。
空には、
薄い黒い亀裂が広がっていた。
「西通りはどこだ」
レイが聞く。
副団長が前方を指した。
「商業区を抜けた先だ」
「被害状況は」
「まだ不明だ。
だが先行部隊が接触してる」
レイは周囲を見る。
騎士たちの動きが硬い。
恐怖が広がっていた。
侵食体。
正体不明。
普通の魔物じゃない。
だからこそ、
戦場が崩れやすい。
「エルド」
「は、はい!」
「お前は前衛」
「え!?」
周囲の騎士たちも驚く。
新人だ。
普通なら後方へ回される。
だが。
「一度見た奴の方がいい」
レイは淡々と言う。
「侵食体相手は、
経験がある方が強い」
エルドは緊張しながらも頷いた。
副団長が静かに聞く。
「俺はどう動く」
「副団長は左側を抑えてくれ」
「理由は」
「一番強いからだ」
副団長の目が少し細くなる。
レイは続けた。
「侵食体は、
突破できる場所へ集中する」
「弱い場所を狙うのか」
「ああ」
なら。
一番崩れたらまずい場所へ、
一番強い人間を置く。
単純な話だった。
その時。
前方から轟音が響く。
石壁が吹き飛ぶ。
「っ!」
騎士たちが足を止める。
煙の向こう。
黒い影が見えた。
三体。
侵食体だった。
しかも。
「……速いな」
前に見た個体より、
侵食が深い。
空間歪曲も強い。
既に先行騎士が二人倒れていた。
「下がれぇぇ!!」
騎士の怒声。
だが遅い。
一体が消える。
次の瞬間。
別方向で血が舞った。
「ぎゃあああ!!」
隊列が崩れる。
恐怖が一気に広がった。
「止まれ!」
副団長が叫ぶ。
だが混乱は止まらない。
その瞬間だった。
「全員動くな!!」
レイの声が響く。
空気が止まる。
レイは侵食体を見ていた。
三体。
歪み方が違う。
動き方も違う。
だが。
「右の個体はフェイントが多い!
正面を見るな!」
騎士たちが反応する。
「左の奴は転移距離が短い!
囲め!」
「中央は副団長!」
指示が飛ぶ。
その瞬間。
崩れかけていた戦線が、
少しだけ整い始める。
副団長が踏み込む。
侵食体の腕を弾く。
「……見えているのか」
レイは答えない。
《解読》が加速していた。
三体同時。
空間歪曲。
侵食流。
核位置。
脳へ情報が流れ込み続ける。
負荷が重い。
だが。
「まだ読める」
侵食体が再び消える。
その瞬間。
レイは叫んだ。
「エルド!
右後方!!」
「っ!」
エルドが咄嗟に振り向く。
そこへ。
侵食体の腕が現れた。




