初陣
エルドの身体が硬直する。
黒い腕は、
既に亀裂から伸び切っていた。
侵食体が現れる。
前の個体より大きい。
全身の侵食も深い。
空間の歪みが、
教会全体を軋ませていた。
「う、あ……」
エルドの剣先が震える。
無理もない。
目の前の存在は、
普通の魔物じゃない。
理解できない“何か”だ。
だが。
「右へ半歩」
レイが静かに言う。
「……え?」
「早く動け」
反射的に、
エルドが右へずれる。
次の瞬間。
侵食体の腕が、
さっきまでエルドがいた場所を貫いた。
「っ!?」
エルドの顔が青ざめる。
「止まるな。
次は左後ろ」
エルドが咄嗟に動く。
空間が裂ける。
床が抉れた。
だが当たらない。
「な、なんで……」
「歪みを見ろ」
レイは侵食体を見つめ続ける。
「空気が揺れる場所がある。
そこへ来る」
エルドには見えていない。
だが。
レイは見えている。
空間のズレ。
侵食の流れ。
核を中心に、
全てが歪んでいる。
「右脚だ」
侵食体が踏み込む。
その瞬間。
「今」
エルドが剣を振る。
浅い。
だが。
侵食体の動きが止まった。
「……え?」
「そこだけ歪みが薄い」
レイが静かに言う。
「完全侵食してない」
侵食体が唸る。
だがさっきより遅い。
動きが乱れている。
「次は左肩」
「わ、分かった!」
エルドが動く。
恐怖は消えていない。
だが。
さっきより、
足が止まっていなかった。
侵食体が消える。
空間転移。
だが。
「真後ろ」
レイの声と同時に、
エルドが振り向く。
剣がぶつかる。
火花が散った。
「うおっ!?」
吹き飛ばされる。
だが致命傷じゃない。
レイは静かに侵食体を見る。
「……核が揺れてるな」
侵食体の胸元。
黒い亀裂が、
不安定になり始めていた。
リナが目を見開く。
「エルド押してる!?」
「いや」
レイは小さく首を振る。
「崩し始めてる」
戦っているのはエルドだ。
だが。
侵食体の構造は、
既にレイが読み始めている。
その時だった。
外の騎士たちが、
ざわめき始める。
「なんだ……?」
「新人が押してる?」
「あり得ないだろ」
エルド自身が、
一番驚いていた。
呼吸は荒い。
腕も震えている。
それでも。
見える。
次にどこへ来るのか。
「右から来る!」
エルドが先に動く。
侵食体より早く。
剣が振り抜かれる。
黒い核へ、
小さな亀裂が走った。
「■■■■■■!!」
侵食体が絶叫する。
教会全体が揺れた。
レイは静かに呟く。
「……戦えるな」




