崩れた包囲
リナが侵食結晶を投げる。
黒い結晶は、
回転しながら教会入口へ飛んだ。
次の瞬間。
「っ、下がれ!!」
外で怒声が響く。
鎧の音が乱れた。
包囲が崩れる。
レイは目を開く。
「やっぱりな」
教会騎士団は、
侵食結晶を知っていた。
少なくとも、
危険性を理解している。
つまり。
「教会側は、
亀裂を把握してる」
リナが目を見開く。
「じゃあ隠してるってこと?」
「可能性は高い」
その時だった。
教会入口へ、
一人の騎士が踏み込んでくる。
若い男だった。
銀鎧。
短剣。
そして。
怯えている。
「動くな!」
声が震えていた。
レイは静かに男を見る。
視線。
呼吸。
剣先。
全部が不安定だ。
「……新人か」
男の顔が強張る。
「な、なんで分かる」
「足が止まってる」
新人騎士は無意識に視線を落とした。
その隙を、
レイは見逃さない。
「お前、
中を見たことあるな」
「っ……!」
「侵食体か?」
男の顔色が変わる。
図星だった。
レイは一歩前へ出る。
「教会は、
どこまで知ってる」
「しゃ、喋るな!」
新人騎士が剣を向ける。
だが剣先が揺れている。
レイは静かに言った。
「本当に魔王軍が原因なら、
お前たちはもっと堂々としてる」
「…………」
「でも実際は違う」
外の騎士たちも、
誰も踏み込んでこない。
恐れている。
侵食を。
門を。
そして。
“真実”を。
その時だった。
祭壇奥の亀裂が、
再び脈打つ。
空気が軋む。
新人騎士が青ざめた。
「ま、まずい……」
レイの目が細くなる。
さっきより強い。
魔力流が増えている。
そして。
「……もう一体来るな」
リナが息を呑む。
「分かるの?」
「流れが変わった」
《解読》が、
空間の歪みを拾っている。
侵食結晶。
門。
核。
全部が繋がっていた。
レイは新人騎士を見る。
「名前は」
「……え?」
「名前だ」
男は混乱した顔のまま答える。
「エルド……」
「エルド。
死にたくないなら聞け」
新人騎士の喉が鳴る。
レイは祭壇を見ながら、
静かに口を開いた。
「次に出てくる奴は、
正面から戦うな」
「は……?」
「右脚を狙え。
そこだけ歪みが薄い」
エルドが目を見開く。
「な、なんで分かる」
「解読した」
その瞬間。
黒い腕が、
再び亀裂から伸びた。
だが。
レイは動かない。
代わりに。
「エルド」
「っ!」
「今だ」




