298. 真相
ライルの眼差しは、いつもの間の抜けた無力さや、散漫さではなかった。心から信じていた主人に裏切られて牙を剥いた、怒れる猟犬の眼光。まさに、それだった。
凄まじいまでに燃え盛る視線が、イヒョンの顔を、容赦なく突いてきた。
「……アニキ、迂回路だって。それ、どういうことだよ?」
「……」
イヒョンは、ポーカーフェイスを保とうと努めた。だが、理性を失う寸前のライルの表情の前では、背筋を伝って流れる冷や汗も、微細な表情の変化も、ついに完全には隠しきれなかった。
「本当に、迂回路があったんですか?」
「あー……その、だな。迂回路、な」
「知ってたの?」
「うむ……知ってはいた。だが、その道が、時間がずっと余計にかかるから……」
「つまり、山を早く通り抜けようとして、わざわざあの数えきれない氷壁やら絶壁やらを、無茶に這い越えたのか? 安全な平地の迂回路を、みすみす捨てておいて?」
「……」
「アニキ」
イヒョンが、ライルをまっすぐに見つめながら、慎重に声を低めた。
「……ライル、ひとまず落ち着け。落ち着いて、俺の話を聞いてくれ」
「いや、今、落ち着いていられるかよ?」
「ちょ……ちょっと待て。そうだ。迂回路があるのは、知っていた。だが、情報が足りない状況で、その迂回路の難易度を、正確に計算することができなかったんだ。俺の予測では、三日じゃなかった。天候や地形を考えると、あの時の計算では、半月は余計にかかると判断したんだって」
「いや、それでも、せめて相談くらいはすべきだろ! 俺、本当に悔しくて、やるせないんだよ。あの時、手の先も足の先も、全部凍って裂けて、ドルメアに着く前に死ぬかもしれないって、百回以上も思ったんだ。本当に、胸の奥底に恨みとして残るくらいだったんだからな! あの氷壁にぶら下がって、たった一本の縄だけを頼りに、体が宙にぶら下がった時! 豪雪の中で前が見えなくて、先を行くアニキの足跡さえ見失った時! あの氷の洞窟の中で、凍え死なないように、どうにか生き延びようともがいて、毎朝目を覚ますたびに、本気で神に感謝の祈りを捧げたんだからな! なのに、それが全部、迂回路がちゃんとあるのに、わざわざ買ってした苦労だったって思うと……うわあああ、くそっ!」
荒い息を弾ませ、涙まで浮かべるライルの顔を見つめていたイヒョンは、ライルに向かって、頭を深々と下げないわけにはいかなかった。
「ラ……ライル」
「なんだよ? 言いたいことでもあるの?」
「すまなかった。あの安全な迂回路が、本当にライサさんの言うとおり、たった三日ほど余計にかかるだけの道だとは……本当に、知らなかった。今さら知らなかったというのが、言い訳にならないのは分かっている。俺が状況を誤判して、予測を誤ったこと、その不覚、はっきりと認める。だが、決して故意ではなかった」
ライルが、荒く弾ませていた息を、ゆっくりと鎮めながら、イヒョンの瞳を、長いこと覗き込んだ。
「弁明の余地もない。心から、すまない」
ライルが、依然として腹の虫が治まらないとばかりに、唇を五寸も突き出しながら、テーブルの上の茶碗を再び手に取った。すでに冷めきった茶を、容赦なく一口飲み下すと、小さく呟いた。
「はぁ……たまに、本気で悪魔なんじゃないかって思うんだよな」
「……」
ライルは、茶碗を下ろし、長いこと頭を掻きむしっていたが、やがて、すべてを手放したかのような表情に戻って、小さな声で言った。
「でもまあ、山の頂上から見た景色は、とんでもなく最高だったよ。苦労した甲斐があったってことにして、今回は許してやるよ。俺は、器のでかい人間だからな」
応接室を漂う茶番を、じっと見守っていたブレサウンの領主、ルキウス・モントセラビウス子爵の肩が、微かに揺れた。
カレオストラの精鋭100名すら蒸発してしまった、あの地獄のようなドルメアを、自らの足で歩いて出てきたよそ者たち。その凄絶な生存記の裏側に隠された、途方もなく人間的で、そしてどこか間の抜けた、不協和音だった。
ライルの怒りが少し解けたのを見たイヒョンは、内心で長い溜息を吐きながら、椅子の背もたれに背を預けた。自分がライルの立場だったとしても、腹が立って当然だった。イヒョンもまた、命を賭けてタルコス山を越えたが、ライルにとっては、その苦痛がより大きかっただろう、という思いがした。
その小さな亀裂を皮切りに、応接室を重々しく押さえつけていた厳めしい雰囲気が、いくぶん和らいだ。
しばらくして、この光景を見守っていたライサの口元に静かに留まっていた淡い微笑みが、再び消えた。
ついさっきまで応接室を満たしていた茶番の温もりは、たった一瞬で蒸発してしまい、彼女の顔は、再び情報の最前線に立つ、冷徹な旅人のそれへと、完璧に戻っていた。
「ライルさんの激憤は、十分に理解できます。死線を行き来する瞬間ごとに、監督官の沈黙が、見殺しのように感じられたことでしょうから。ただ、一つだけは、明白に申し上げておきますね。お二人がこれまでなさってきたことは、本部の立場からすれば、たいへん大きな収穫だったのです」
イヒョンは、ライサの口から流れ出た意味深長な言葉に、神経が張り詰めた。
「どういう意味で、収穫だと?」
「イストリルとアクィラで起こった連鎖失踪事件は、此度の上級試験が始まる前まで、いかなる報告も上がっていないものでした。それ自体を、誰も知らずにいたのですよ」
その言葉が落ちると、子爵が顔を上げ、ライサを見つめた。
「アクィラとイストリル、と申したか?」
「はい、閣下。領地の境界線の向こうの出来事ですので、閣下は、この二つの村の惨状を、ご存じなかったはずです。タルコス山脈の東に位置する小さな村々ですね。そこでも、ドルメアと似た失踪事件が起きていました。その最中に、イヒョンさんとライルさんが介入して、積極的に解決なさらなければ、その一帯も、ドルメアとまったく同じ結末を迎えていただろうと、ギルド本部は判断しています」
ライサの顔を見据える子爵の瞳に、波紋が立つようだった。
「……この二人が、それを成し遂げたと申すのか? 国王陛下の、100名を超える精鋭部隊が、ことごとく失敗したことを……」
「はい、閣下。正確に申し上げますと、アクィラ村の失踪事件で、本格的にこの一件に介入し始めました。その過程で、アクィラだけでなく、イストリル失踪事件の真相までも、完全に突き止めたのですよ。そして、イストリルとアクィラで起こった出来事から推し量って、過去、ドルメアでも、まったく同じことが起こったのだろうと、結論づけました」
「その真相とは……何だというのだ?」
子爵の瞳が、一瞬、大きく見開かれた。
一年近くにわたってブレサウン領地を、漆黒の恐怖に陥れた、あの奇怪な失踪事件。兵を送るたびに、蒸発するように消え失せたその事件が、初めて報告されて以来、子爵は夜もろくに眠れぬほど、疲労に浸りきっていた。
だが、その破滅の真相がついに、ある程度明らかになったという言葉に、子爵は興奮を隠せなかった。
わずか一、二時間前、ドルメアから来た生存者二名が旅人ギルドの上級受験者であり、ただちに裁判と刑の執行を止めねばならぬ、というその断片的な情報までしか、ルプスを通じて伝え聞いていなかったのだ。だからこそ、子爵としては、この衝撃が巨大にならざるをえなかった。
「それだけではありません。最も大きな収穫は、こうしたことを企てる者たちに関する巨大な手がかり、すなわち背後の実体を、ある程度突き止めるにとどまらず、ある程度、反撃に成功したということです」
「いったい、どんな奴らが……!」
「私どもは、イヒョンさんとライルさんが村を発った後、イストリルを綿密に調査しました。そして、衝撃的な結論に到達したのですよ」
イヒョンの黒い瞳が、細くなった。ライサが放つであろう情報の価値が、この応接室の権力の構図をどう覆すのか、彼の脳が機敏に計算を終えていた。
「彼らは、人々を拉致して、『生体兵器』に作り変えているのです」
「何だと? そのような恐ろしいことが、そもそも可能だというのか?」
「はい、そのとおりです。実際に、イストリルで回収した生体兵器を精密に調査した結果、もとは平凡な市民たちであったものが、コルディウムによって強制的に変換された、という事実を、ギルドが突き止めました。具体的な方法はまったく分かりませんが、これまで消えた人々が、こうした兵器に作り変えられている、という事実だけは、明白です」
子爵の指の節に、白く血の気が滲んだ。きちんと指を組んでいた硬い手に、強い力が込められた。
子爵がゆっくりと首を巡らせ、再びイヒョンに視線を固定した。だが、今度は、昨日、過酷で荒々しい拷問官ルプスを通じて領地に転がり込んだ、危険極まりないよそ者を監視していた、あの冷ややかな軽蔑の視線ではなかった。
それは、数多の兵と精鋭100名を注ぎ込んでもなお、ただの一行の手がかりすら得られなかった領地の難題を、ひょっとすると完璧に解いてくれるかもしれない、最高の「価値」を持つ人物を、初めて目の当たりにした、冷徹な領主の視線だった。
「……イヒョン卿、そしてライル卿」
子爵の口ぶりから、骨の髄まで届く威圧感が引き、重々しい礼遇が滲み出た。
「我々が数ヶ月かけてできなかったことを……たった二人で成し遂げるとは。まことに驚くべきことであり、敬服する」
イヒョンは、胸元に刻まれた心臓の紋様の疼くような熱感と、染み込んでくる悲しみの気を、無感覚に抑え込みながら、丁重に答えた。
「その事件を解決しようという、大それた志があったわけではありません。ただ、目の前で平凡な人々が被害を受けるのが忍びなく、なすべき処置をしていたら、そうなっただけのことです」
「……ほう。謙虚さまで備えているな。領主として、私の軽率だった逮捕と投獄、そのすべての無礼について、もう一度詫びよう」
「いいえ、閣下。私どもは、ただ旅人としてなすべきことを、しただけです」
子爵の唇の間から、深い感嘆の混じった、短く淡い溜息が漏れ出た。
「そして、本部が最も高く評価する利得は、背後勢力の名を突き止めたということです」
「その勢力とは何だ? 統一戦争以降、そのような超越的な陰謀を企てうる反乱勢力は、すべて消え去ったと聞いていたが……」
子爵の表情が、硬くこわばった。
「インテルヌム(Internum)という組織です」
「インテルヌム?」
「はい、そのとおりです。彼らの最終目的が何であるかは分かりませんが、大陸全土に巨大な混沌を招くであろう、という点だけは確かです」
ルキウス子爵の深く沈んだ目が、ゆっくりとライサへと向かった。その目には、警戒心が音もなくこみ上げていた。
「インテルヌム。そのような名は、ただの一度も聞いたことがないぞ、ライサ。その組織について、さらに突き止めたことはないのか?」
「……はい、閣下。私どものギルドが、イヒョンさんとライルさんの足跡を密かに追跡しながら得た手がかりを総合しますと、事態はこうです」
ライサは、子爵の目を見つめながら、言葉を継いだ。
「インテルヌム。奴ら自らそう名づけて動いているようですが、組織の位置と規模、そしてその首魁に関することは、依然として霧の中に覆い隠されています」
子爵の眉間がしかめられた。
「本拠地すら把握できていない、ということか」
「はい。彼らを率いる者も、本拠地も、いまだにどちらも突き止められておりません。ただ、奴らが残した断片的なかけらは、存在します。それは、大陸全体で起こった事件を残らず調査せねばなりませんので、少々、時間がかかりそうです」
「どうしても、時間がかかるだろうな」
「ただ、最近起こったいくつもの大きな事件に、インテルヌムが介入したという、明白な証拠があります。ドルメア事件が起こる前、大陸中西部に位置するプルベラという都市で、巨大な事態がありました」
「プルベラ? そこはエセンビア伯爵の領地ではないか。ここからさほど遠くもない、交通の要衝だな。そこでも、市民たちが痕跡もなく失踪したのか?」
「いいえ。そこでは、都市そのものが侵攻される事件がありました。エセンビア伯爵が王都に上げた報告書によれば、そこにも、感情を統制された生体兵器が、大量に動員されたと記録されています。当時は、常識の範囲を逸脱した、とうてい理解しがたい報告だったために、王室の関心からも、次第に遠ざかりました。むしろ、その悲劇の後に結成された商人連合会が、大陸全体の、より大きな注目を集めたのです」
子爵の瞳が、記憶をたどるようだった。
「商人連合会か……それは私も聞いたことがある。いや、実のところ、商団の物流を開放し、自由貿易に加われ、という内容だったな。言うなれば、商人連合への加入要請を受けた、と見るべきだろうな。だが私は、当時、その連合会が単なる交易を超えた巨大な政治的目的を秘めていると判断して、加入を保留していたのだ。だが、それがこの一件と、間接的にせよ絡んでいるとは、驚きだ」
その瞬間、ライサがイヒョンへと首を巡らせた。
「商人連合会の誕生は、インテルヌムとは関係ありません。むしろ、ここにいらっしゃるイヒョンさんと、密接に関わっているのですよ」
背もたれに身を預けていたイヒョンの黒い瞳が、一瞬、大きく収縮した。冷静な顔を保とうと努めたが、容易なことではなかった。
『その事実すら、すでにギルドが把握しているというのか』
子爵の視線が、再びイヒョンに固定された。
「イヒョン卿が、商人連合会の結成を提案した者だと?」
ライサは、イヒョンを見つめながら、にっこりと笑った。
「はい、閣下。プルベラの二つの巨大商団を調整し、当時、伯爵代理であったニルバスを追放する力学関係の裏で、その武力と情報網の礎を設計した、総設計者。それがまさにイヒョンさんだ、という報告が、ギルド本部に入ってきました。新しい勢力は、いつでも関心の的になるものですから」
「それにしても、プルベラで、そのインテルヌムの痕跡を見つけたと申すのか?」
「はい、そのとおりです。ただ、最初の報告の当時には、調査が不十分だったために、すぐにコルディウムを追跡することはできませんでしたが、おそらく、大陸北方の禁じられた地に、奴らの根拠地があるだろうと、推定しております」
読んでくれてありがとうございます。
本業の都合により、小説の投稿時間が不規則となっております。
ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。
読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。
お読みいただき、楽しんでいただけましたら、ブックマークやコメントをお願いいたします。




