282. 取り調べ
濃紺の制服の男に従い、狭くじめじめとした廊下を歩いてきたイヒョンは、先ほどとさして変わらない、別の部屋へと案内された。
部屋の構造は、先ほどと完全に同一だった。
天井から吊るされ煤を吐き出す油ランプの位置、締め付けるような石壁の圧迫感まで。
壁面の漆喰の剥がれ方のパターンさえ除けば、先ほどライルと一緒に閉じ込められていたあの部屋だと言われても信じるほどだった。
イヒョンをこの部屋へと乱暴に押し込んだ男は、何も言わずに身を翻し、外へと出て行った。
ドンッ! という音と共に背後で扉が閉ざされ、重々しい鉄の閂がかけられた。
遠ざかる足音を耳で追いながら、イヒョンは目を細めた。
『ライルの方へ行ったようだな』
一番弱そうに見える者から調べようとしているように見えた。
イヒョンはゆっくりと椅子に腰を下ろした。
両手を机の上に行儀よく置いた彼は、目を閉じ、指先の関節一つ一つの感覚を鋭敏に呼び覚ましながら、呼吸を整えた。まるで外科手術を控えてスクラブ室で手を洗いながらマインドコントロールをしていた頃のように。感情を去勢した外科医の冷たく乾いた理性が、目の前の状況を精密なスキャナーのように読み取り始めた。
『これほど落ちぶれた、取るに足らない辺境の領地で、これほど体系立った分離尋問とはな』
これは単純で粗野な抑圧の仕組みではなかった。
誰かが人間の心理を執拗に掘り下げる論理と体系を備えて、この閉鎖的なシステムを設計したという明白な証拠だった。犯罪心理学の最も基礎的な骨格である「クロスチェック」を活用する者。彼はおそらく、鞭や焼きごてのような原始的な強圧よりも、論理的な矛盾という罠を精巧に仕掛け、イヒョンの平静が自ら崩れるのを待つ可能性が高かった。
『注意しなければ。これから扉を開けて入ってくる相手は、俺の筋肉の震え一つ、呼吸の微妙な間合い一つからも何かを読み取ろうとするだろう』
イヒョンは頭の中に、仮想の人物を作り上げ始めた。
『名前: イヒョン。出生地: オリスビア。現在の居住地: エセンビア伯爵領のバセテロン。職業: 薬草商。主な取扱品: 傷口の消毒効果に優れたベラの葉、消毒薬剤、抗生薬剤。主な取引先: バセテロン、コラン、プルベラ、そしてカレオストラなど、大陸中部から南西部一帯』
彼は頭の中の記憶を一つずつ取り出し、ここ数か月エペリア大陸を横断しながら経てきた数多の情報の断片を、改めて整列させた。
ライレンの干潟、バルマリスの賑わう歓楽街と裏路地、イストリルで漂っていた吐き気を催す血の匂い、そしてドルメアの背筋の凍るような感覚まで。彼は、それら生々しい真実の上に、精巧に織り上げた「旅の薬草商の足取り」という完璧な嘘の殻を被せた。
荒唐無稽な嘘は些細な圧力にもガラス窓のように容易く砕け散るが、真実という堅固な骨格の上に巧みに肉付けした嘘は、よほどの尋問官でもない限り、その穴を見つけ出すのは難しいはずだった。
頭の中で、薬草商イヒョンという仮想の人物の造形が、完璧に完了した。
イヒョンは閉じていた目を、ゆっくりと開いた。ランプの黄ばんだ炎が、石壁の上に彼の落ち着いた影を揺らめかせていた。
コツ、コツ。
しばらくして、固く閉ざされた扉の外から、再び足音が聞こえ始めた。
この足音は衛兵のものではなかった。今度は床を踏みしめる重さからして違った。はるかに重く、より傲然とした品位が滲んでおり、うなじを冷たく撫でるような致命的な気配を帯びた足取り。
足音が扉の前で止まった瞬間、部屋の中の空気が重く沈殿するようだった。
――ギギギギギギッ! ドンッ!
扉が開く音は、予想していたよりもはるかに暴力的で重かった。古びて錆びついた蝶番が悲鳴を上げて扉が大きく開き、じめじめと粘つく廊下の空気を連れて、一人の男が部屋の中へと足を踏み入れた。
濃紺の制服を着たその男の手には、分厚そうな黄ばんだ書類の束が握られていた。
――バサッ! ドスッ!
男はイヒョンと目を合わせることすらせず、その分厚い書類の束を、イヒョンの目の前にある傷だらけの机の上へと、投げ捨てるように置いた。
紙の間から立ち昇った白っぽい埃が、黄ばんだランプの灯りに乗って宙へと散り、息の詰まるような心理戦の重々しい序幕を告げた。
部屋の中の静寂が、沼のように粘りけを帯びて長く延びた。
――コツ。コツ。コツ。
机を叩く男の指の音だけが、時計の秒針のように部屋の静けさを破っていた。その規則的な打撃音は、駆け出しの容疑者たちの脆い神経を蝕むために、意図的に調律された拍子だった。
沈黙は、尋問官が繰り出せる最も鋭い刃の一つだった。普通の人間は重苦しい静寂に耐えられず、自らの潔白を証明しようと、聞かれてもいないことをべらべらと喋り出すものだから。
男は粘つくような眼差しで、イヒョンが自ら崩れて隙をさらすのをじっと待っていた。
『待て。先に口を開いた方が負けだ』
イヒョンは呼吸の間隔を一定に保ち、瞬きの回数すら制御しながら、木偶のように男の視線を正面から受け止めた。
一分。二分。
永劫にも感じられた対峙の末、男の指の動きが、ついに止まった。坑道のように深く暗い彼の瞳に、光がよぎった。
「……珍しい薬草か。あの険しさで名高いタルコス山脈を突っ切ってきた理由にしては、ずいぶんと薄っぺらい言い訳だな」
男の湿った泥のような声が、再び部屋の中に響いた。
「だが俺の勘は、少し違う話をしているようだ」
「……」
「話す気はないというわけか。よし。ならば一つずつ始めてみようか。お前は先ほど、ドルメアが『幽霊のようにもぬけの殻だった』と言ったな」
彼の上体が、机を越えてくるかのようにぐいと傾いた。彼から漂う体臭と、獣のような威圧感が、イヒョンを覆い尽くさんばかりに押し寄せてきた。
「そうだ、その幽霊村で、お前は正確に何を見たんだ? 床にべっとりとした血だまりか? 打ち破られた扉か? それとも、獣の足跡でも見たか?」
罠だ。
イヒョンの頭の中に、警告灯が灯った。ここで下手に惨状を描写したり、うっかり具体的な手がかりを投げ与えたりすれば、そのまま疑念を招くことは明らかだった。
イヒョンは目つき一つ揺らさず、乾いた声で答えた。
「何も見ませんでした」
「何もだと?」
男の眉間が、傷跡と共に歪んだ。
「はい。何もなかったからこそ、なおのこと奇怪で恐ろしかったのです。血の一滴、争った痕跡一つなく、村人たちが蒸発するように消えていました。竈には冷めかけたシチューがかけられたままで、家畜たちは飼い葉桶に頭を突っ込んだまま、主人を待っておりました」
イヒョンは、自分が目撃した骨組みのある真実だけを、巧みに切り取って投げ与えた。
「あのような静けさは、どこでも見たことがありません。それゆえ、私の連れも恐怖のあまり発作を起こしかけたほどです。私たちは振り返りもせず、このブレサウンへ向けて逃げてきたのです。それが私の知る全てです」
男の眉間が、ぴくりと動いた。薬草商の生存本能という、完璧な名分。矛盾一つ見つけようのない、非の打ち所のない供述だった。
「……口はよく回るな」
男は椅子の背もたれに荒々しく身を預けると、机の上に投げ出しておいた分厚い書類の束の上に手を置いた。
「お前の口から出たその言葉が真実なら、実にありがたいことだがな」
――スッ。
彼は書類の束の一番上に被さっていた革のカバーを、ゆっくりと剥がした。
「だがな。今お前がそうやって平然と舌を回している間、隣の部屋にいる若い連れの方は、少し考えが違うようだったが」
イヒョンの呼吸が、ごくわずかに止まった。
その瞬間、男の口角が、生臭く残酷な捕食者の曲線を描いた。
「うちの同僚たちは、あの臆病そうな坊やの口を割らせるのに、道具まで持ち出すまでもないほどでな。お前がここでこしらえた三流小説が、隣の部屋から聞こえてくる坊やの口から出る話と、たった一節でもずれていたら……」
男は書類の束の中から何かを取り出し、机の中央へすっと押し出した。
男の口からライルに関する話が漏れ出た瞬間、イヒョンの瞳がごくわずかに揺れた。
『これはブラフだ。ライルが臆病だとはいえ、そう簡単に全部吐くはずがない』
「……お前は時間を稼ぐつもりのようだが、俺がこの世で時間の無駄が何より嫌いな人間だってことを、まだ知らないらしいな」
男の声が、先ほどより一オクターブ深く低く沈んだ。それは、すべてを呑み込む巨大な嵐が吹き荒れる直前、周囲の空気すら押し潰してしまう不吉な静けさに似ていた。
「ドルメアはもはや、人の住む土地じゃない。お前もその両目でしかと見てきたんだから分かるだろう。あそこは息づく者たちの墓場、呪われた幽霊村だ。だが、たかが薬草を売って小銭でも稼ごうというだけの理由で、あの過酷なタルコス山脈を生身で越え、あの恐ろしい墓場のような場所にわざわざ立ち寄ってから、この遠いブレサウンまで自らの足で辿り着いた? そんな話をこの世界で納得できる人間など、誰一人としていない」
「……」
男が机の上へと、ゆっくりと上体を傾けた。
彼の巨大な体躯が油ランプの灯りを呑み込み、イヒョンの視界を真っ黒に塗り潰した。机の上に置かれた彼の両腕から、荒々しい筋肉が太い縄のようにねじれながら、威圧的に盛り上がった。
「お前のその図々しさが、いつまで、どの瞬間まで持つのか……俺が直々に確かめてやらなければならないようだ」
ルプスが席から半ば立ち上がると、着ていた重い灰色の革の外套を脱ぎ、古びた椅子の背にぽんと掛けた。そしてシャツの袖を、ゆっくりと、実に精巧で手慣れた仕草で捲り上げ始めた。
イヒョンの冷ややかな視線が、ルプスの前腕に釘付けになった。
それは平凡な人間の腕というより、何十年もの間、風雨に晒され続けた古木の根を無理やり削り出して作った恐ろしい鈍器に近かった。黒ずんで盛り上がった血管の上に、鋭い刃物で切られた白い傷跡と、荒れた石床に容赦なく擦り潰された痕跡が、勲章のようにびっしりと刻まれていた。
ルプスが、扉の前に直立不動で立っていた兵士に短く顎をしゃくった。
兵士が何も言わず頭を下げて外へと出て行くと、続いて鈍い音を立てて扉が閉まり、外から重い鉄の閂がかかる音が聞こえてきた。
ガチャン! ドンッ!
これでこの狭くじめじめとした部屋に残ったのは、イヒョンと尋問官、そして危うく揺れながら真っ黒な煤を吐き出す油ランプ一つだけだった。
イヒョンの背筋を、冷たい脂汗の一筋が音もなく伝い落ちた。指先の毛細血管が収縮し、冷たく強張っていく生理的感覚が、はっきりと感じられた。
証人のいない完璧な孤立空間。合法と違法の薄っぺらな境界線が完全に消え去った、この地下の密室で、男はもはや文明的な取調官という煩わしい仮面を脱ぎ捨て、内に秘めた暴力性を露わにしようとしていた。
「さて、もう一度訊こう」
ゴキッ! ボキッ!
尋問官が両の拳を固く握り、そして開くと、太い骨の節々が擦れ合い、獣の骨が折れるかのようなぞっとする破裂音が、部屋の中に満ちた。
「お前の本当の正体は何で、隠している本当の目的は何だ? 少なくとも、俺の拳がお前の顎をぶち砕く前に、俺が納得できるようなもっともらしい言い訳を吐いた方が身のためだぞ」
警告を終えた男が、再び椅子に深々と腰を沈めた。今度は先ほどの荒々しく威圧的な動きとは違い、逃げ場のない獲物を隅へと追い詰めた老練な猛獣のように、限りなくゆったりと、余裕に満ちた動作だった。
「……俺がこのうんざりするコグニトルの仕事をやり始めて、もう5年になる」
イヒョンは口を開く代わりに、ランプの灯りの下で光る男の目を、真っ直ぐに見据えた。その男の瞳には、年月の残酷な風雪に削られてもなお残る、岩のような硬さと残忍さが宿っていた。
「その前は、領地東側のドブのような鉱山で働いていた。日の光一筋も差し込まない真っ黒な穴の底で、古びたつるはし一本を握りしめて、毎日ただ石を砕く仕事だ。俺はそこで、実に15年も過ごした」
男は机の上に置いた手を軽く振った。手の甲の太い血管が、まるで生きて息づく寄生虫のように蠢いた。
「鉱山という場所は生き地獄だ。いつ崩れるか分からない坑道、体力の限界、怪我。そして、どこの馬の骨とも知れない、借金に追われて流れ着いた連中。ふふ、そんな輩がまともに働くはずもない。事故に見せかけられて、死体すら見つからないまま深い土の穴に埋められた者が、数えきれないほどいる」
男の傷だらけの唇が、めくれ上がった。
「だが、そんな阿鼻叫喚の地獄を15年、どうにかこうにか生き延びて耐え抜けばな……ぞっとするほど人の腹の内を見透かす目が身につく。目の前の奴が今、命を懸けて真実を吐いているのか、それともただ生きるためにちんけな嘘をでっち上げているのか、というのがな」
「……」
「だからこそ、偉大なる子爵閣下は、卑しい出の俺をこのコグニトルの座に据えたんだ。俺のこの汚れて呪われた目で、領地を食い荒らすネズミどもを、一匹残らず選り分けろとな」
男は机の端に押しやっていた羊皮紙の書類を、再び自分の前へとすっと引き寄せた。無骨で太い人差し指が、紙の上をトン、トン、と一定の拍子で再び叩き始めた。
その乾いた摩擦音は、まるでイヒョンの命綱を締め上げていく処刑台のカウントダウンのように、不吉に響いた。
「それと、ここでもう一言だけ付け加えておこう」
「……お聞かせください」
「俺もお前に負けず劣らず、この領地周辺の険しい山という山を歩き尽くしてきた男だ。このブレサウン領の山勢が、どこが険しくて、どこに足を踏み入れれば死ぬのか、目を閉じていてもすっかり知り尽くしているということだ。だがな」
彼の上体が、蛇のようにするりと、イヒョンの方へと滑り寄った。
獣の匂い、血の匂い、そして古びた革の饐えた匂いが、イヒョンの嗅覚を容赦なく圧迫してきた。
「俺の人生で、たかがちっぽけな珍しい薬草を数本余計に採ろうというだけの理由で、自分の命を張ってタルコス山脈を越える気の触れた薬草商なんぞ……ただの一人も見たことがない」
男の瞳に、明白な殺気が滲んだ。
「あの険しい山を越える連中というのは、たいてい間者か、極秘任務を帯びた軍人か、さもなければ、堂々と歩き回れない指名手配犯くらいのものだ」
完璧だと思われたアリバイの核心部に突き刺さった、最も鋭く現実的な問題だった。
狭い密室の中、イヒョンの沈黙の上に、男の荒い息遣いだけが重々しくのしかかった。
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