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281. 口裏を合わせる

「ここ、本当に領主が住んでる城なのか? なんでこんなに他の城と雰囲気違うんだよ?」


イヒョンより半歩ほど遅れて歩いていたライルが、ぴたりと寄り添って囁いた。彼の震える声には、単なる好奇心を超えた、鋭い本能的な拒絶感が色濃く滲んでいるようだった。


「ブレサウン一帯は、エペリア大陸の中でも指折りの痩せた土地だ。巨大な山脈に阻まれて交易路も塞がれ、四方が斜面で農耕すら思うようにいかない土地だ。富を蓄える手立てがないんだ」


「じゃあ……領主がわざわざ俺たちを呼んだのって、俺たちから何か搾り取ろうとする魂胆じゃねぇよな? これ不安なんだけど。俺たちを叩いてもホコリしか出ないだろうに……」


「権力者が引き出せるのは、何も金だけじゃないだろう。情報にせよ、あら探しの種にせよ、使い道はいくらでもある。だが今の俺たちの見た目は、しがない旅の薬草商にすぎない。領主が、たかが余所者の懐を狙って精鋭の衛兵を六人も差し向けるとは思えない」


イヒョンは城塞内部の地形と衛兵たちの動線を注意深く観察しながら、言葉を続けた。


「やはり最も可能性が高いのは、ドルメアの失踪事件だけだ」


イヒョンとライルを護送する衛兵たちの足取りは、本殿ではなく、城塞の最も奥まった一角へと向かっていった。


城壁を越えてきた外敵を孤立させるために、意図的にくねくねと曲がりくねって設計された狭い道。その迷路のような道の突き当たりに辿り着くと、イヒョンの目の前に二階建ての石造りの建物が、重々しい実体を現した。


紺碧の蔓植物が血管のように密集して壁を這い上っており、小さな窓からは光すら差し込みにくいように造られたその外観は、通常の用途のための建物とは到底思えなかった。


入り口に辿り着くと、引率者の顎の合図と共に、分厚い扉が開かれた。


分厚い木に鉄板を張り付けた扉が開いた瞬間、冷え冷えとした夜気とは対照的な、じめじめとした蒸し暑い熱気が入り口からあふれ出てきた。


扉の両脇に立つ衛兵たちの視線は、鉛のように重かった。彼らの兜の隙間からぎらつく瞳には、余所者に対する原始的な殺気が、そのまま感じ取れるようだった。


イヒョンは彼らの敵意ある視線に屈することなく、建物の構造を解体するかのように観察した。


『まるで軍の兵営か、冷戦時代の秘密警察の施設のような感じだな』


彼の頭の中で、この空間の正体が瞬時に特定された。


城塞の警備を担う兵士たちが密かに寝泊まりすることもあり、今のように正式な裁判にかける前の者を捕らえて取り調べたり、領主が自らの手を直接汚すのが憚られる不純物を、音も立てずに処理したりする空間。


つまり、身元が不明確で不穏な噂の飛び交うこの時期に、逮捕も同然に連れてこられたイヒョンとライルにとって、ここは歓待のための応接間ではなく、血なまぐさい場所だったのだ。


「ここの雰囲気、マジで洒落にならねぇんだけど」


ライルがイヒョンの脇腹を肘でぐいと突きながら、蚊の鳴くような声で囁いた。危険を察知した彼の声は震えており、瞳は行き場を失ったまま闇の中をさまよっていた。


「静かにしろ。奴らを刺激するような怪しい行動は、絶対に取るな」


イヒョンの低く断固とした警告に、ライルは唾を呑み込みながら唇を噛んだ。


引率者に従って足を踏み入れた廊下は、息が詰まるほど狭く、真っ暗だった。天井にまばらに掛けられた油ランプは、しきりに真っ黒な煤を吐き出しながら、頼りなく揺れていた。


壁からは、じめじめと腐りかけたカビの匂い、饐えた油の匂い、酸化した鉄の錆の匂い、そして誰かの汗と血が絡み合って固まったような生臭い悪臭が、むっと押し寄せてきた。


――ギギギッ! ドスッ!


廊下の両脇に固く閉ざされた鉄の扉の向こうから、不快な物音が不規則に漏れてきていた。


重い木の椅子が石床を鋭く擦る音。分厚い革の鞭か、書類の束が机を叩きつける鈍い打撃音。


ついに廊下の突き当たり、最も奥まった暗い場所に位置する鉄の扉の前で、引率者の足が止まった。


「ここでしばらく待機しろ」


「承知しました」


イヒョンが感情の一片も混ざらない声で短く答えると、引率者は顎の合図で部下たちに指示を出し、二人を部屋の中へと乱暴に押し込ませた。


――ガンッ! ガチャン!


重い木製の扉が容赦なく閉ざされる音が、心臓を引き裂くように大きく響いた。


遠ざかる衛兵たちの軍靴の音が完全に消えると、部屋の中には、イヒョンの落ち着いた呼吸と、怯えて荒く息をつくライルの息遣いだけが、ぽつんと残された。


部屋は息が詰まるほど狭く、じめじめとしていた。


完璧な正方形をした灰色の空間は、まるで四方の壁がじわじわと迫り、喉元を締め上げてくるかのような奇怪な圧迫感を放っていた。片方の壁に穿たれた大人の手のひらほどの窓は、陽光を取り入れるためというよりも、外の世界の自由をちらつかせて閉じ込められた者の絶望を極大化させるための、悪意ある穴のように見えた。


漆喰が鱗のように無残に剥がれ落ちた壁面には、荒く冷たい石の質感がそのまま剥き出しになっていた。天井に吊るされた古びた油ランプが吐き出す黄ばんだ光が、傷だらけの机の上に、イヒョンとライルの影を怪物のように長く伸ばしていた。


――ギィッ。


ライルが古びた木の椅子にどさりと身を投げ出し、長い溜息をついた。


「あー……マジであのビール一杯が、ずっと喉の奥にちらついてる。泡がちょうどいい感じだったのに、匂いだけ嗅いで連れて来られるとか……」


「ライル」


イヒョンの低く冷ややかな声が、狭い部屋の中に重々しく響いた。その声に宿る鋭い気配に、ライルは本能的に、だらけていた背筋をぴんと伸ばした。冗談を受け入れる雰囲気ではないことくらい、勘の良い彼もすでに肌で感じ取っていた。


イヒョンがライルの隣の席へと近づき、奴の肩に重々しく手を置いた。


「よく聞け。これから俺が言うことは、俺たちの命がかかった本当に重要な話だ」


ライルの瞳が、緊張で強張った。


「おそらく俺たちはすぐに引き離されるはずだ。お前と俺をそれぞれ別の部屋に放り込んで、同じ質問を投げかけてくる。それは尋問の基本だ。二人の答えがずれる箇所、奴らはそこを鬼のように見つけ出して食い込んでくる」


「え? 別々に? いや、何でわざわざそんな面倒くさいことするんだよ?」


「最悪の場合、俺たちはあの地下深くの牢に投獄された後、くそったれな裁判手続きすらなしに、露と消えることになる」


「はぁ? さっきまで、口さえ閉じてれば大丈夫だとか言ってたじゃんか!」


ライルが仰天して声を上げた。イヒョンは唇を真一文字に引き結んだまま、首を振った。


「そうだった。だがこの建物の雰囲気を見て、この部屋に入って、はっきりと感じた。奴らは単純に情報を欲しがっているわけじゃない。何か恐ろしい事件の責任を押し付ける『もっともらしい容疑者』が必要で、タイミングよく転がり込んできた俺たちが、その的の真ん中に立ってしまったんだ」


「いや! 俺たちは何があったのかも知らねぇのに、何の容疑者だよ!」


「そうだ、お前の言う通りだ。だからこそ、徹底的に口裏を合わせなければならない」


ライルの肩に置いたイヒョンの手に力がこもった。


「絶対に、何があっても旅人ギルドの話は口に出すな。俺たちが試験中だということも、イストリルの村で経験した血なまぐさい出来事も、全部だ。あそこで俺たちがどんな連中と戦い、誰を救ったか……全部な」


「でもアニキ、俺たちはあそこで悪い奴らを捕まえたんだろ? むしろ褒美をもらうべきだろうに、それの何が問題になるんだよ?」


「ライル。ここは法よりも領主の疑念が先に立つ場所だ。ドルメアの村人が全員失踪した問題は、すでにこの領地全体を揺るがす非常事態のようだ。そこへ、たまたまその近くを通りかかった余所者が、折しも同じ手口の事件が起きていた別の村の一件を、英雄のように解決した?」


イヒョンはライルの目を見つめた。ライルがすでによく知っている、イヒョンのあの目。絶対にしくじってはならないという印。


「それは奴らにとって、英雄譚ではなく、事件の内幕を隅々まで知り尽くした『内通者』の自白にしか聞こえない。『なぜお前たちだけがその原因を知っていたんだ?』という問いに、しどろもどろの言い訳を並べた瞬間、俺たちはこの城塞の地下で一生日の目を見られないか、絞首台に上ることになる」


ライルの喉仏が大きく上下し、唾を飲み込む音がイヒョンにまで聞こえるほどだった。


「じ、じゃあ……一体何て答えりゃいいんだよ? 何か考えてる作戦はあるんだろ?」


「俺たちはただの薬草商だ。バルマリスを発ち、珍しい薬草を採るために山を越えた。ドルメアに立ち寄ったら村がもぬけの殻で、怖くなって逃げるようにブレサウンまで来た。それだけだ」


イヒョンは揺れるライルの視線を捉えながら、釘を刺すように一字一句噛みしめて吐き出した。


「イストリルでの戦闘のことは、絶対に口にするな。もし奴らが俺たちの足取りをしつこく問い詰めてきても、山を登るために身支度を整えた村『アクィラ』と『ルテオン』の話だけを繰り返せ」


息の詰まる沈黙が流れた後、ライルがびくりとしていた肩をぐっと開き、無理やり自信ありげな表情を作ってみせた。


「……分かった。それくらい単純な話なら自信あるよ。このアニキ、いや、俺を信じろって!」


その堂々たる戯言に、イヒョンの眉間はむしろさらに深く刻まれた。この男の根拠のない自信は、たいてい収拾のつかない致命的な失態を伴うものだった。


「ライル。お前がそうやって自信満々な時は、いつも手に負えない事故が起きてたのを忘れたのか?」


「……いや、今回はマジだって! 誰が口をこじ開けようが、鍵をかけたみたいに開かねぇから。マジで!」


イヒョンは深く重い溜息をつきながら、ライルの目をじっと見据えた。


「最後にもう一度念を押す。俺たちは平凡な薬草商で、バルマリスからアクィラ、ルテオンを経て山を越え、もぬけの殻のドルメアを通り、このブレサウンへ来た。これだけを覚えておけ。特にイストリル、そして奇妙な仮面を被った連中や、ペルトゥスという言葉は、絶対に、絶対に口にしてはならない」


「分かってるって。でもアニキ……」


ライルが不安そうに瞳をきょろきょろさせながら、唇を震わせた。


「もしあいつらが本当に極悪で、俺を拷問するか、混乱させて、適切な答えがどうしても思いつかなかったら……その時はどうすりゃいいんだ?」


イヒョンはランプの灯りに照り返って光る、冷ややかな瞳でライルを見つめた。


「思いつかなければ」


イヒョンの冷たい視線が、ライルの揺れる瞳を真っ直ぐに射抜いた。


「ただ、何も知らないと言え。険しい山を越えて、あまりにも飢えて疲れ果てて、記憶が全部飛んだと。できる限り間抜けな顔をしろ」


ライルが唾を呑み込みながら頷くと、イヒョンは念押しするように付け加えた。


「肝に銘じておけ。中途半端にでっち上げた嘘は、結局自分自身を縛りつける罠になるだけだ。奴らの巧妙な誘導尋問に引っかかって、辻褄の合わない言葉を吐くくらいなら、いっそ『知らない』で一貫して押し通す方が、はるかにましだ」


その時だった。


サッ、サッ。


廊下の向こうの暗闇から、奇妙な足音が聞こえ始めた。重々しく武骨に石床を踏みしめて歩いていた、先ほどの衛兵たちの規則的な軍靴の音ではなかった。


軽く、一定で、まるで薄氷の上を滑るように音もなく近づいてくる、不吉で異質な足取り。


固く閉ざされた扉の外で、足音がぴたりと止まった。


まだ扉の取っ手は回っていないというのに、部屋の中に漂っていた空気が突然凍りつくような、ぞっとする錯覚が走った。


ガチャン! ギギギギギッ!


やがて外から重々しい掛け金が外れる摩擦音が聞こえ、重厚な木製の扉が開いた。廊下のじめじめと湿った空気が、狭い部屋の中へとなだれ込んできた。


扉の前に立ちはだかったのは、先ほど彼らをこの牢のような場所へ押し込んだ、あの衛兵隊の引率者ではなかった。


濃紺の制服をきっちりと着こなした男。


目つきが鋭く吊り上がった彼は、片手に分厚い書類の束を握りしめたまま、部屋の中の二人を無感情に見下ろしていた。まるでまな板の上に載った肉の塊を品定めするかのような、獲物を値踏みするその傲然たる視線が、イヒョンとライルの息の根を締め上げてきた。


「こいつらか?」


男の声は、冬の間ずっと凍りついたままの鉄塊のように冷たく乾いていた。


「はい、そうです」


感情の欠片も感じられない、乾いた声。


「お前がイヒョンか? 珍しい容姿と名前を見るに、このエペリア出身ではないな」


「オリスビア出身です」


しれっと嘘をつくイヒョンに、ライルの目が一瞬丸くなった。


男はしばらくイヒョンとライルの顔を見比べると、握っていた書類の束を軽くトンと打ち、顎をしゃくった。


「ふむ。話には聞いていたが、そちら出身の者を実際に見るのは初めてだな。お前は立ってこちらへついてこい。そこの若い方は、この部屋で別に進める」


イヒョンが予見していた分離尋問が、まさにその通りに始まる瞬間だった。


彼らは尋問の基本原則を忠実に守っていた。


イヒョンは無駄のない動きで席を立ちながら、椅子に固まったままのライルへ、最後の視線を重々しく投げかけた。


揺るぎなく、重い警告。


『口を閉じていろ。俺の言った言葉以外は、徹底的に消し去れ』


その無言の強烈な圧力に、ライルは緊張しきって血の気の失せた顔で、慌てて頷いた。だが、擦り切れたズボンの端をぎゅっと握りしめる奴の手が震えているのまでは、隠しきれなかった。


いくら念を押しておいたところで、臆病でそそっかしいライルが、熟練して見える尋問官たちの前でも、しっかりと口を閉じていられるだろうか。


「行くぞ」


男の冷ややかな催促に、イヒョンは未練なく身を翻し、足を踏み出した。


血なまぐささとカビ臭さに染まった廊下の濃い闇の中へと連れ出されるイヒョンの背中の向こうで、ライル一人が取り残された部屋の扉が、鈍い音を立てて容赦なく閉ざされた。


これより先は、徹底的に隔離されたそれぞれの時間だった。



読んでくれてありがとうございます。


本業の都合により、小説の投稿時間が不規則となっております。

ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。


お読みいただき、楽しんでいただけましたら、ブックマークやコメントをお願いいたします。


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