22. 感情のホール
イヒョンの周囲を取り囲むように、円形に並んだ七つの扉。彼はゆっくりと歩みを進め、一つ一つの扉をじっくりと観察した。
それぞれの扉は独自の光を帯びており、扉の前には感情を象徴しているらしい文様が刻まれていた。
彼は一つの扉の前に近づいた。
その扉全体は深い藍色の石材でできており、表面にはただ一つの文様が精巧に刻まれていた。
青い円の中に冷たく傾いた三日月が位置し、その中では水滴が落ち、空虚な響きを残すような文様だった。
イヒョンはその扉の前で足を止め、長い間視線を離せなかった。理由はわからなかったが、まるで見えない力が彼を扉の方へと引き寄せるようだった。ほかの扉の前では何の感情も湧かなかったのに、この扉は強烈に開けてみたいという衝動を呼び起こした。
イヒョンは扉の前でしばらく目を閉じ、耳を澄ませた。扉の内側から、かすかに雨の降る音が聞こえてくるようだった。
彼は慎重に扉へと手を伸ばした。
不思議なことに、扉の重さはまったく感じられなかった。指先が触れた瞬間、扉は抵抗もなく滑るように自ら開いた。
彼は一瞬、深く息を吸って止めた後、扉の向こうの空間へと、慎重に一歩を踏み出した。
[青い雨の大聖堂]
扉をくぐると、まるで別の世界に足を踏み入れたような感覚がした。静寂と沈黙だけに満ちていた扉の外の空間とはまるで異なる世界が広がっていた。
イヒョンが足を踏み入れた場所は、巨大な大聖堂の内部のようだった。厳密に大聖堂かどうかは確信できなかったが、神聖で荘厳な気が漂う空間は、そう呼ぶしかないような場所だった。
天井はまるで突き抜けたように見え、空からは絶え間なく細やかな青い雨が音もなく降り注いでいた。
その何千、何万もの水滴が、灰色の石造りの床や柱だけが残るような建物に当たって生み出す、かすかな波動が空間全体を包み込んでいた。まるで悲しみの聖歌が響き合うように、その音は深く、切なく広がっていった。
空気中には濃い水の霧が満ち、ほんの数メートル先すら見分けるのが難しかった。目を細め、力を入れて見つめなければ、わずか数歩先がかすかに見える程度だった。
初冬の朝のような冷たい空気は、息を吸うたびに肺の奥深くまで染み入り、吐き出すときには細く白い息となって散っていった。
イヒョンは、水滴が落ちて静かな波紋を起こす床に慎重に足を踏み出し、ゆっくりと前に進んだ。足が床に触れるたびに、静かな波紋が水面に広がり、その音は大聖堂の中で不思議な響きとなって反響した。
何千、何万もの雨滴が起こす波動は、まるでシロフォンを軽く叩くような音に聞こえ、その波紋がイヒョンに触れるたびに、胸の奥深くから切ない感情が少しずつ込み上げてくるようだった。
大聖堂の内側の中央には、荘厳な石造りの祭壇が鎮座しており、その真ん中には巨大な銀色の鏡が置かれていた。
鏡の高さはイヒョンの身長をはるかに超え、縁からは青い光の霧が染み出すように広がり、境界が曖昧にぼやけていた。
何かに取り憑かれたように、イヒョンはゆっくりと祭壇を登り、鏡の前に立ち止まった。そして、その中を覗き込んだ。
不思議なことに、鏡には彼の姿が映らなかった。透明な鏡の内側は、まるで巨大な水槽の中を覗き込むような感覚を与えた。
しばらくすると、澄んでいた鏡の表面に静かな波紋が揺れ動き、イヒョンの過去の場面が映像のようにゆっくりと浮かび上がってきた。
手術室で亡魂となった患者を見下ろす自分。
診察室でイヒョンから悪い結果を告げられた患者の泣き声と、それを悲しく見つめる自分と周囲の人々。
冷めきったコーヒーが半分残ったマグカップと、誰もいない彼の執務室。
そして、白いシーツに覆われ、冷たい遺体安置所に横たわる妻と娘を見つめる自分。
その場面たちは音もなく流れていったが、イヒョンの胸を静かに震わせていた。
彼が抑え込んでいた感情、忘れたと思っていた痛みと恋しさが、一つ一つ浮かび上がってきた。
イヒョンは慎重に鏡へと手を伸ばした。指先が触れた鏡の表面は冷たく、なんの反応も起こらなかった。それでも彼は手を引かず、黙って鏡の中の自分と向き合った。
鏡の中のイヒョンは、悲しみに濡れた眼差しで外の彼を見つめていた。イヒョンは黙って雨に打たれながら鏡を眺めた。彼の肩の上には、涙のような何千もの雨滴が音もなく流れ落ちていた。
長い間、鏡の中を見つめていたイヒョンは、ついに踵を返し、青い雨が降る大聖堂を後にして、隣に佇む薔薇色の扉へと歩みを進めた。
その薔薇色の扉は、温かな光を放っていた。
闇を押し退けるような柔らかな光が扉から穏やかに流れ出し、その光が触れる場所には温もりの痕跡を残した。
古風なアーチ型の扉は深紅の木材で作られており、その表面は精巧で繊細な文様で満たされていた。扉の枠には、穏やかな花模様と蔓が刺繍されたように彫刻されており、その蔓に沿って細い金の線が刻まれていた。きらめく金の線は、蔓と花模様をさらに優雅で生き生きと輝かせていた。
前の扉と同じく、扉の中央には文様が刻まれていた。
闇の中で燃えるような赤い心臓の文様。その心臓を包む紫色の曲線は、まるで互いに手を伸ばす存在のようで、心臓の上に咲く小さな炎は、決して消えない情熱を象徴しているようだった。
イヒョンが扉に近づくと、その向こうから柔らかな息遣いや心臓の鼓動のようなリズムが、かすかに伝わってきた。扉の向こうには、温かな感情が生き生きと息づく空間が存在しているような感覚がした。
イヒョンが手のひらを扉に当てると、温かいぬくもりが手のひらを伝って広がり、扉は静かに、柔らかくスルリと開いた。
扉の隙間から染み出すように香りが穏やかに広がり、その香りは一瞬にしてイヒョンの記憶の奥深くを揺さぶった。
遠い昔、窓を開けると漂ってきた妻の香水の匂い。
真冬に彼を温かく包み込んだ妻と子の体温。
そして、幼い娘が胸に抱かれて笑いながら囁いた、「愛してる」という言葉。
イヒョンはゆっくりと、その扉の内側へと足を踏み入れた。
[薔薇色の図書館]
扉の向こうには、見るだけで涙がこみ上げそうな温かな風景がイヒョンを待っていた。
彼は淡いピンク色に染まる柔らかなカーペットを踏みしめ、ゆっくりと中へ進んだ。
その場所は巨大な図書館を思わせたが、単に本を積み上げた空間ではなかった。愛の記憶が大切にしまわれた、感情の記録庫のような、穏やかな温もりが漂う場所だった。
壁に沿って天井まで伸びる本棚は、まるで薔薇の木で丁寧に作られたかのように見えた。本棚には、手で丁寧に書き込まれたノート、子どもの絵本、妻と交わした手紙、そして無数の愛の痕跡が整然と並べられていた。
本棚の間には、柔らかな布で覆われた小さなソファが置かれ、丸いテーブルの上には茶杯と燭台が愛らしく佇んでいた。窓際には、陽光が優しく降り注ぐ、ふかふかで長いビロードの椅子が置かれていた。
窓には淡いピンクのレースのカーテンが優雅にかけられ、その向こうから柔らかな陽光が室内に染み込んでいた。陽光は塵一つない澄んだ空気の中を流れ、服の襟を掠めるだけでなく、胸の奥深くまで温もりを届けてくれた。
空気中には、古い本と木から漂う穏やかでほのかな香りが満ち、名もなき平穏さが溶け込んでいた。
まるで遠い昔に失った心の安息の地を再び見つけたような感覚だった。
さらに奥へ足を進めると、小さな暖炉がイヒョンの視界に入ってきた。
暖炉では薪が静かに燃え、温かなぬくもりを放ち、その前に置かれた椅子は、まるで誰かを待つように佇んでいた。
イヒョンはこの空間に宿る穏やかな温もりと雰囲気に浸りながら、これまで自分がこんな温かさを失って生きてきたことに気づいた。
図書館の中心部と思われる、丸い形の温かな空間にたどり着いたイヒョンの目に、彼の身長よりも少し高い鏡が映った。
赤い木材で精巧に作られた滑らかな枠の中に、澄んだ静かな湖のような穏やかな鏡面が収まっていた。
イヒョンはゆっくりと鏡の前に立ち止まった。
手を伸ばそうとして一瞬止まった彼の視線が触れた鏡の中には、微笑む自分がいた。
妻と娘の手を握り、公園を散歩する姿。心を込めて用意した食事を共にしながら笑いと会話を交わす妻と娘。春の午後ののどかな陽光の中で眠りに落ちた娘の穏やかな顔。そして、妻と肩を並べて窓の外に落ちる雨を眺めていた自分の姿。
彼は鏡を見つめながら、愛した人々の顔を一つずつ思い出した。
イヒョンの瞳がわずかに震え、胸の奥深くからは熱い何かが込み上げるような感情が染み込んできた。
しばらく息を整え、胸を落ち着かせたイヒョンは、再び鏡の中を深く見つめた。
鏡の中に、幼い娘を胸に抱く自分の姿が浮かんだ。
子は彼の首に腕を回し、囁くように何かを話しかけ、イヒョンは優しく微笑みながら娘の頭を愛おしげに撫でていた。
次に、妻とキッチンで向かい合って笑い合った、平凡なある夕暮れの場面が広がった。
彼女は調理台の向こうからイヒョンに味見用のスプーンを差し出し、イヒョンはふざけて顔をしかめた。すると彼女は笑い声とともに彼の腕を軽くポンと叩いた。
どれもが眩しいほどに愛らしい記憶だった。
突然、鏡の中にエフェリアの姿が浮かんだ。
セルノ村で病に苦しむ人々が震える手でイヒョンの腕をつかみ、涙を流していた場面。その傍らでセイラがベッドに横たわり、切実な眼差しで彼を見つめていた瞬間。そして、リセラが温かな微笑みを浮かべながら、慎重にイヒョンの手の甲に手を重ねていた姿が、次々と鏡に映し出された。
鏡の中のイヒョンは微笑んでいた。時には黙って誰かを温かく抱きしめ、時には静かに肩を貸して誰かを支えていた。
そこには、誰よりも温かかった彼の姿があった。
感情を失って生きてきた彼が忘れていた、だが本来持っていた愛を与え合い、受け取る瞬間が鮮やかに映し出されていた。
イヒョンが鏡に手を置くと、鏡の中のイヒョンは穏やかで柔らかな微笑みを浮かべ、外にいる彼と手を合わせた。
指先から温かなぬくもりが伝わり、鏡からほのかな光が広がり始め、やがて明るく燃え上がった。
鏡から炎のように迸る光は、舞い散る花びらのように柔らかく広がり、イヒョンの体を温かく包み込んだ。
イヒョンは一瞬、深く息を吸い込んだ。
彼の胸の奥深くに温かなぬくもりが染み込み、心臓の内側から何かが砕けるような音が響いた。そして、長い年月凍りついていた心の奥底から、忘れていた春が蘇るように、一輪の輝く愛の感情がゆっくりと花開いた。
鏡から流れ出てイヒョンを包んでいた花びらは、光の粉に変わり、彼の手と腕を伝って柔らかく流れ、胸へと染み込んでいった。そして、イヒョンの胸には、闇の中でも燃え上がる赤い心臓の文様がゆっくりと刻まれた。
その文様は、まるで太初からそこにあるべきだったかのように、イヒョンの胸に深く根付いた。文様が胸に刻まれると、イヒョンは心の奥底から何かが激しく鼓動するのを感じた。
イヒョンは独り言のようにつぶやいた。
「……そう、僕は愛する方法を……そして愛される方法を忘れていたんだ。」
再び目の前がぼやけ、意識が遠く霞むような感覚が押し寄せ、周囲のすべてが明るい光とともに消えていった。
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イヒョンの目の前にはマリエンが立っており、彼はマリエンの深い瞳を見つめていた。
彼女は震える両手でイヒョンの手をぎゅっと握りしめていた。
「イヒョン、あなたを……信じます。」
マリエンの声は依然として切迫感で震えていたが、イヒョンはその言葉の中に自分への信頼を感じ取ることができた。
イヒョンは黙って頷き、彼女を見つめる彼の目にはもはや迷いは見られなかった。
マリエンは荷車に横たわるカレンにそっと毛布をかけてやり、額に浮かんだ汗を慎重に拭いながら、不安げな眼差しでイヒョンを見上げた。
「大丈夫でしょうか……?」
「この危機を乗り越える方法はただ一つだけです。」
イヒョンは短く息を吸い、決意を固めた表情で荷車に乗り込んだ。
「急いで家に戻りましょう。」
ドランが素早く荷車に飛び乗り、手綱を握った。イヒョンは後ろの席でカレンの状態を絶えず確認しながら叫んだ。
荷車が急に動き始めた。
神殿の前に立っていた数人の視線が彼らの後を追ったが、イヒョンはもう他人の視線など気にも留めなかった。彼の顔には、カレンの命を救うという熱い意志だけが燃え上がっていた。
ドランの家に向かって、荷車は通りを駆け抜けた。
イヒョンの胸の中では、再び熱い炎が燃え上がっていた。
『まだ遅くない。』
読んでくれてありがとうございます。
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