第七八話 旅のつづき(最終話)
時は流れ、季節は巡る。
かつて王都で壮絶な戦いが繰り広げられたあの日々が、懐かしい記憶になりかけていた頃――。
世界の片隅、とある辺境の小さな村に、ひとりの少女が腰を下ろしていた。
陽光が差し込む草原の中、彼女のまわりには、子供たちの笑い声が満ちている。
「見て見てー! ぼくのアニマ、早く飛べるんだよ!」
「わたしのネコ、今しゃべったよ!? ほんとにしゃべったよ!」
「ジウイお姉ちゃんの魔法、すごい~!」
笑い転げる子供たちの頭の上を、透明な羽をもつトカゲのようなアニマが飛び跳ねていく。
ジウイは笑顔で彼らの様子を見守りながら、スケッチブックを膝に乗せ、ページをめくった。
「はい、みんなアニマは今日の夜には消えちゃうけど、それまでちゃんと仲良くするんだよ!」
「はーい!」
相変わらず「創造の力」は封印したままだが、もとのギフト――「描いたアニマに命を吹き込む」力は、今でも健在だ。
それだけで、子供たちの目を輝かせるには十分だった。
草陰からのんびりとした足音が近づいてくる。
「よぉ、また子供たちに囲まれてるのか。人気者はつらいなぁ」
カイルが小さな包みを手にして歩いてきた。中には村のパン屋で買ったらしい焼き菓子が入っている。
その後ろから、ミルフィもゆっくりと歩いてくる。肩に小鳥型のアニマを乗せて、柔らかく笑っていた。
ジウイが旅立つと告げた時、カイルとミルフィの二人は当然とばかりに同行することになっていた。
それから三人で世界の広さを知るための旅を続けているのだ。
ジウイは軽く背伸びをして、子供たちに「ちょっと休憩ね」と声をかけると、草の上に腰を下ろした。
彼女の視線は、やがて静かにスケッチブックへと移っていく。
サラサラ……と、筆が走る。
描かれるのは、銀髪の初老の男性。
その目は優しく、でもどこか悲しげで。
かつて、命を懸けて未来を繋いだ大切な仲間――リューンの姿だった。
もちろん、それはただの絵にすぎない。
命は宿っていないし、もう声を聞くこともできない。
けれどジウイには、今でも彼がすぐそばにいるような気がしていた。
「リューン……私たちは、幸せだよ」
そっと呟くその言葉は、風に乗って空へと溶けていく。
その静寂を破るように、突然カイルがしゃがみ込み、真剣な表情でジウイを見つめた。
「なぁジウイ。俺たち、こうして旅してきて、騒動も落ち着いて、絆も深まったしさ……そろそろ結婚しないか?」
ジウイは無言でカイルの顔を見たあと、眉をぴくりと動かした。
「いや、結婚せんが!?」
「ええ……即答……」
横でそれを見ていたミルフィが吹き出しそうになるのをこらえて、苦笑いを浮かべる。
「カイル、そういうのはもっと、雰囲気ってもんがあるでしょう」
「いや、ほら、俺なりにタイミング見計らってたんだけどさ……。でも、そんなに強く否定しなくても……」
「旅はまだ続くんだから、気まずくなるようなこと言わないでよね」
三人の間に笑いが広がる。
どこか緩くて、優しくて、そして確かに繋がっている温かさが、そこにはあった。
遠くでは子供たちが再びアニマを追いかけ、声を上げている。
空は青く、風は穏やかで。
世界は、今日も静かに、でも確かに進んでいく。
彼女たちの旅もまた――続いていくのだった。
――完。
こちらで、この物語は一旦完結です。
続きも構想はありますので、シリーズものとして投稿できたらと思っています。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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