第六十話 合流
「……わたし、できる」
ジウイは、自分の中に満ちていく光の感覚を確かめるように、ひとつ息を吸った。恐怖も戸惑いもあったが、それ以上に──自分にはできるという、確信があった。
彼女は立ち止まり、光の狼が吠える背後で、ゆっくりと左目を閉じ、そして開く。
その瞬間、ジウイの左目に刻まれた紋章が淡く輝き始めた。まるで瞳そのものが魔法陣となったかのように、緻密な光の線がうねり、走り、刻まれていく。次の瞬間──
「──浄化して!」
ジウイが叫ぶと、その左目から放たれた光が、一瞬で通路全体を満たした。怒涛のように押し寄せてきていた黒ずみの使節たちは、その光に触れた瞬間、苦悶の叫びを上げる。
黒い瘴気が焼かれるように弾け、消え、次々と使節たちの体から抜け落ちていく。
「……っ、うそ……光が……!」
「黒ずみが……!」
ミルフィとカイルがその眩しさに目を細めながらも、その光景に驚愕する。
ジウイの左目からあふれ出た光はまるで意志を持っているかのように使節たちを包み込み、ひとり、またひとりと、その意識を奪っていく。彼らの体から黒ずみが抜けたあとは、まるで糸が切れたようにその場に崩れ落ちていった。
狼のアニマがその横に立ち、もう襲いかかる者がいないことを確かめるように、低く一度吠えた。
ジウイは膝をついた。だがその表情に、怯えや迷いはなかった。ただ静かに、自分がすべきことを成したという、揺るぎない意志が宿っていた。
「……ありがとう、わたしの創造の力」
そう小さく呟いた彼女に、ミルフィが駆け寄る。
「ジウイ、大丈夫!?」
「うん……ちょっと疲れただけ」
ジウイは弱々しく笑うが、どこか誇らしげでもあった。
光の狼はジウイの横に座り、静かにその身を寄せるように彼女を見守っていた。
──そして、そこへ。
前方から倒れた使節団を越えて、王子とリューン、そして数名の近衛騎士が駆け込んできた。
「ジウイ!? どうしてここに……!」
リューンが叫ぶ。だがすぐに足元の倒れ伏した使節たちを見て、目を見開いた。
「今の光はあなたの力だったのですね」
ジウイは立ち上がり、光に包まれた狼を背にしてうなずいた。
「ごめんなさい、黙って来ちゃった……でも、来てよかったと思ってる」
リューンはそれ以上何も言わず、しばしジウイを見つめて──「……ああ」とだけつぶやいた。
王子が顔をしかめる。
「黒ずみは、当初謁見の間を中心に黒ずみを広げていたが、そこから半数以上が奥に向かった。ジウイの創造の力に引き寄せられたのだろう。」
リューンは頷いた。
王子の言葉に、場が一瞬静まる。
「だが中枢に残っている者がいるはずです。最初の爆発的な黒ずみの発生源──つまり、ガリエルを含めた使節団の残り……おそらく十人程度」
ジウイはアニマの背に手を置き、静かに立ち上がる。「中に行こう。きっと、まだ間に合う」
王子、リューン、ジウイ、ミルフィ、カイル、そして数名の近衛騎士たちは、黒ずみに浸されていく王宮の廊下を急いだ。光の狼が先導し、その身から放たれる浄化の気配が、周囲の黒ずみを押し返すように揺らめいている。
「……黒ずみの気配、濃くなってきてる」ミルフィが眉を寄せる。「でも、さっきまでの暴れまわる感じじゃない……隠れてる。何かを……狙ってるような……」
「待ち伏せ……」カイルが剣の柄に手を添えながら、警戒を強めた。
やがて、一行は謁見の間の前にたどり着いた。
扉は半ば開かれ、すでに中は黒ずみによって薄闇のように沈んでいた。だが、そこに人影はなかった。あれほどの黒ずみが噴き出した場所だというのに、まるで静まり返っている。
「誰もいない……?」王子が低く言う。「まさか……全員、消えたのか?」
「いや……いる」ミルフィが静かに首を振る。「この中に……確実に何人か潜んでる。黒ずみの流れが、停滞してる。普通なら拡がるはずの黒ずみが、あえて広がらないように抑えられてる。何かを……隠すために」
リューンが歩みを進め、剣を構えた。「ならば、こちらから探るしかないな」
ジウイはアニマを呼び寄せ、狼の目と鼻に意識を重ねるように、目を閉じる。
「……この部屋の中に、黒ずみの核がある気がする。中心になっているのは──ガリエルさん?」
その名に、王子が眉を寄せた。「あの様子……もはや、自我を保っているとは思えない。だが、利用されているとすれば……」
沈黙が場を包んだ。
そのとき、謁見の間の奥──玉座の背後にある巨大なタペストリーが、風もないのにわずかに揺れた。
光の狼が、低く唸る。
「……そこか」
王子の声と同時に、近衛騎士たちが扉の脇へ散開する。
ジウイの左目が再び淡く輝いた。
「準備して。ここから、本当の戦いになる」
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