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第五九話 戦闘

「……なに、これ……!」

ミルフィは急に立ち止まり、目を見開いて壁の向こうを見つめた。


王城の奥、普段は静かな待機の間──そこにいたミルフィは、謁見の間の方角から溢れ出す、異様な気配に息をのんだ。まだまだ距離があり壁に阻まれているので目に見えるわけではない。


ただ、全身を駆け巡るような悪寒と、心の奥をざらつかせるような重苦しい感覚──それが“黒ずみ”の気配だと、彼女の能力が告げていた。


「ミルフィ? どうした?」

カイルが声をかけると、ミルフィは小さく震えるようにして言った。


「……黒ずみの力が、さらに広がってる。謁見の間から。……何がおきているの!」


ジウイとカイルの顔色が変わる。

「王子とリューンさんが……」

「行こう!」


カイルとミルフィは、覚悟を決めてジウイとともに廊下を駆けだした。


すでに城の奥にも、衛兵たちが不安げに走っている気配が伝わっていた。だがミルフィの言う通り、ただの騒ぎではない。王宮全体に染み渡るような、異様な重圧──まるで、そこに居るだけで魂が削られていくかのような気配だった。


「ミルフィ、黒ずみの位置は……!」

「……まだ、謁見の間を中心に広がってる……でも、ゆっくりだけど……拡大してる……!」


息を切らしながらミルフィは答えた。

その後ろで、ジウイは走りながらも、胸の奥から湧き上がる不安に抗うように、心の中に意識を集中していた。


──黒ずみを退ける力。自分にしかできない創造の力。あの時、鳥のアニマが奇跡を起こしてくれた。

「……守らなきゃ……!」


ジウイは祈るように、心の中で鮮やかに描き出す。敵を威圧する鋭い眼差しと、闇を貫くまばゆい光の毛並み。誇り高く吠え、仲間を守る意志を持つ──そんな存在を。

──光り輝く狼。


瞬間、ジウイの足が止まった。

「ジウイ?」

先を駆けていたカイルとミルフィが振り返る。


その視線の先で、ジウイの足元に淡く輝く紋章が浮かび上がっていた。複雑な光の輪郭が円形に広がり、その中に淡く脈打つような魔法陣が形成されていく。


「……来て、お願い……!」


ジウイの声とともに、魔法陣がまばゆい光を放ち、中心から眩い白銀の毛並みを持つ、狼の姿が飛び出した。


その体は大きく、鋭い双眸は知性と力を宿していた。足元には光が集まり、まるで大地に触れるたびに闇を浄化するかのようだった。


「……アニマ……!」


ミルフィが驚きと共に声を漏らす。

「今度は……狼……?」

カイルが息を呑む。


ジウイは少しだけ膝をつきながら、それでも口元を引き結んだ。

「……行こう。きっと、この子が道を切り開いてくれる……!」

その目は、恐れではなく、確信に満ちていた。


ミルフィの言った通り、謁見の間を中心に黒ずみは確実に広がっていた。その爪痕は王城の石壁すら蝕み、冷たい通路にも黒い模様が滲むように広がっている。


ジウイ、ミルフィ、カイルの三人がその異変に向かって走り抜ける最中、突如──


「来る……!」


ミルフィが叫んだ直後、彼らの前方、曲がり角の先から五つの人影が飛び出してきた。皆、大聖堂の使節団に連なっていた者たちである。だがその姿は既に“人”とは言い難かった。


目は濁り、肌には黒ずみが染み出し、手にはあの“黒い剣”が宿っている。黒い陽炎が、剣の形を保ちながら微かに揺れていた。


「創造の子……!」と、その一人が呻くように声を漏らした。


その言葉に、カイルの背筋が凍りつく。

「……狙いはやっぱりジウイか!」


ジウイの周囲ではなおも魔法陣がゆるやかに回り続け、先ほど召喚されたばかりの狼のアニマが低く唸り声をあげて彼の前に立つ。


「来るよ……!」

ミルフィの声が響くより早く、五体の黒ずみに染まった使節たちが一斉に駆けてきた。


その目には焦りにも似た色があった。

ジウイが“目覚めた”と確信したその瞬間、彼らの目的は即座に“排除”から“確保”へと転じたのだ。


黒い刃が振り下ろされる。

だが、白銀の狼のアニマが前へと跳び出し、その牙で一撃目を受け止める。


火花のような光が走る。黒ずみの刃と、創造の力から生まれた存在が、真っ向からぶつかった瞬間だった。


後方でカイルが剣を抜く。

「ジウイは下がってろ! ミルフィもジウイに付いててくれ!」


一瞬の迷いもなく、カイルと白銀の狼は黒ずみに立ち向かう構えをとる。

カイルと白銀の狼は、歴戦の相棒かのような連携で、カイルが敵の動きを止めて、白銀の狼の牙が敵を穿つ。

白銀の狼の牙は黒ずみを粉砕していく。

5人目を倒した時に、白銀の狼は光となって消えて行った。


ジウイの存在が気づかれたからか、謁見の間の方から再び怒涛の足音が響く。


曲がり角の向こうから、さらに二十人ほどの使節団の姿が現れた。その目は虚ろで、肌の端々からは黒ずみの揺らめきがにじんでいる。


「数が……多い……!」

カイルが叫ぶ。先ほどの五人とは比べ物にならない。しかも、その背後には、王城の騎士団の甲冑がわずかに見え隠れしていた。


「リューンさんたちだ!」

ミルフィが目を細めると、敵の列を縫うようにして、リューンを先頭とした騎士たちが突撃してくるのが見えた。

だが──その騎士たちに斬られることも恐れず、敵の使節団はまっすぐジウイを目指して殺到してきた。彼らにとって、ジウイこそが唯一無二の“標的”であることは明らかだった。


「ジウイを囲んで!」

カイルが叫び、ミルフィとともにジウイの左右に立つ。


ジウイは焦りと共に、しかし心を静めるように深く息を吸った。胸の奥に、もう一度強く、狼の姿を思い浮かべる。さきほど現れたアニマ──あれはまだ、消えてはいない。


「もう一度、お願い……守って……!」


その祈りに応えるように、新たに白い狼のアニマが、ジウイの背後にふたたび形を取る。牙を剥き、すっとジウイの前に立ちはだかると、黒ずみの使節団へと咆哮を放った。


後方から騎士団に追われながらも、突撃してくる黒ずみに侵された使節団は、もうカイルと狼の目前まで迫っていた。


読んでいただきありがとうございます。

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