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第5話 絡んでくるなら悪いけど容赦しない

 メルをおぶって歩き、近くの村、レイスール村へと辿り着いた。


 魔族と分かっては騒ぎになるだろうということで、メルには俺の外套を着させ、フードを被らせている。

 角を隠せば人間の少女に見えるし問題は無いだろう。 


 ――ポヨ……。


 レネには悪いが麻袋に入ってもらっている。


 俺は早くメルを休ませたくて、宿屋の場所を探そうとする。

 のだが、村の入口の所で門兵と老人の男性が何やら騒いでいるのが聞こえてきた。

 何やら物々しい雰囲気だ。


「村長! まだ王都からの救援隊は来ないんですか!? あんなバケモノが村に来たらお終いですよ!」

「待つしかあるまい……。むやみに村の外に出ようとすれば逆に危険だ。我々では到底太刀打ちできん……」

「でしたら、宿にカレイド冒険団が滞在していたでしょう! 奴らに助けを求めれば……」

「確かにカレイド冒険団と言えばA級の冒険者が集まる集団だが……。奴らは法外な報酬を要求する悪徳冒険団だと聞く。この村の蓄えでは……」

「で、ですが、そんな悠長なことを言っている余裕は……」


「あの、すいません」


 俺は鬼気迫る様子で会話している二人に向けて恐る恐る尋ねる。

 それに反応したのは老人の男性だ。

 呼ばれ方からして、このレイスール村の村長だろう。


「まさか、王都からの救援! ……いや、二人というのも変だな。旅のお方か?」

「え、ええ。連れが熱を出してしまいまして。この村で休ませていただけないかと……」

「ああ、失礼。そういうことでしたら宿へ向かわれるのがよろしいでしょう。それにしても、旅のお方よ。悪い時に来なすった……」

「何か、あったんですか?」


 先程のやり取りからしてただ事ではなさそうだが……。

 レイスール村の村長はひどく深刻そうな面持ちで話し始める。


「実は、最近この村の近くにシャドウが現れたのです……。目撃者の話によれば、なんとそれはケルベロスのシャドウだったと……」

「……ああ、ケルベロスのシャドウ。いましたね」

「まさか、あのバケモノに会って無事だったのですか! それは運が良かったと言うべきですが、ヤツが攻めてきたらと思うと……」


 なるほど。

 さっき揉めていたのはそれだったか。


「でも、ケルベロスなら倒しましたよ」

「…………旅のお方。今、何と……?」

「はい。この村に来る途中でそのケルベロスのシャドウに襲われたんですが、倒しました。なので安心していいかと」


 村長はその言葉を聞いて、目を大きく見開いた。


「そ、そんな馬鹿な! ケルベロスはA級冒険者がパーティーを組んでも苦戦する強敵ですぞ! それを倒したなどと……」

「そう言われましても」

「そうだ、魔法で探れば……。おい門兵。お前の気配探知魔法で調べてみるのだ」


 村長に命じられ、門兵の男性が魔法を使って確かめたのだろう。

 門兵の男は呆気に取られたような顔を浮かべて告げた。


「し、消失しています……。ケルベロスの気配が……」

「な……、んだと……」


 門兵と村長が揃って俺の顔を見てくる。

 そして、村長が半ば放心したような面持ちで呟く。


「なんということか……。あなたは村の救世主だ……」

「いえ、村の人たちのためになったみたいで良かったです。それに、ケルベロスを倒せたのはこの子のおかげですから」


 俺は背中に乗ったメルを見せる。

 「そんなことは無いじゃろ」とメルはか弱い声で呟いていた。


 と、こうしている場合じゃない。


「すいません、早く連れを休ませたいもので。失礼します!」

「ああ、せめて名前を――」


 村長の引き止めを振り切って俺は宿屋に向けて駆け出す。

 悪いが今はメルのことが優先だ。


 何にせよ、厄介事は解決できたみたいで良かった良かった。


「さすがぬし様。お人好しじゃの」


 メルが俺の首元で呟くのが聞こえた。


   ***


「すいません! ひと部屋お借りできますか?」


 俺は宿屋に駆け込み、主人らしき男性に声をかける。


 入口の広間でにいるガラの悪そうな男たちは冒険者だろう。

 くつろいでいたのを邪魔されて癇に障ったのか、ガンを飛ばされたが今はそれどころじゃない。


「え、ええ。ちょうどひと部屋なら空いて――」


 宿屋の主人が台帳を見ながら言いかけたその時、俺の背後から声がかかる。


「悪ぃなあニイちゃん。今日は俺たちカレイド冒険団の貸し切りなんだよ」

「は?」


 そういえばさっき門兵が、宿屋には冒険団が滞在していると言っていたな。

 その内の一人だろう男がそこに立っていた。


 男は大柄で生傷がそこかしこに見える。

 酒を飲んでいたのか、ひどい匂いだ。


「貸し切りってどういうことですか? 今、部屋は空いてるって――」

「うるせぇな。俺たちだけでこの宿は使ってるって言ってんだよ」

「……」


 話になりそうもない。

 他の男達も酒瓶を片手にニヤニヤと遠巻きに見ているだけだ。


 レネも怒っているのか麻袋が揺れているのが分かった。

 こっちは早くメルを休ませたいっていうのに。


「お? よく見たら後ろの女、かなりの上玉じゃねえか。嬢ちゃんを一晩貸してくれたら考えてやってもいいぜぇ。ゲヒャヒャヒャ!」

「ふざけ――」


 掴みかかりそうになって、それを遮ったのはメルだった。


「別にいいぞ」


「なんだ? 嬢ちゃんの方は話が分かるじゃ――」


 伸ばされた大男の手をメルがピシャリと払いのけて付け加えた。


「ただし貴様がぬし様に勝てたらじゃ。ぬし様が勝ったら宿を使わせてもらう。それでどうかの?」

「これはお笑いだ! 俺はA級冒険者だぞ! こんなヤツに負けるかよ!」

「A級か。品性は伴っておらんようじゃがの」

「……ッ! こいつ!」


 俺は激昂した大男からメルを遠ざけて正面から向き合う。


「相手は俺、でいいんだろ?」

「チッ、ガキが……。表へ出な!」


 大男は言って宿屋の入口からヅカヅカと出ていく。


「すまないメル。少しこの椅子に座って待っててくれるか?」

「くっく、やりすぎんようにの」

「ああ。なるべく早く終わらせる」


 ぐったりとするメルにそう告げて、俺も宿屋を出た。



 俺は宿屋の前の広場で大男と対峙する。

 周りを大男の仲間が取り囲み、ヘラヘラとした笑みを浮かべていた。


 大男が負けるなどとは微塵も思っていない。

 そんな様子だった。


「さぁ、いくぜぇ!」


 大男は先程馬鹿にされたのが悔しかったのか、怒りあらわにこちらへと向かってくる。


 メルの手前、早く終わらせようとは言ったもののどうするか。

 さすがにこんな村の中で黒炎魔法を使うのはマズいだろう。


 ――そうだ、ケルベロスを倒した時に会得した魔法なら……。


 俺は魔法の使用を念じ、青白い文字列を表示させる。


=====================

【禁呪・チートマジック一覧】

●強化魔法

・対象:スライム

・対象:自分自身(二倍強化(ダブルフォース)

●攻撃魔法

極大黒炎魔法(ヘルフレイム)

=====================


 そしてその中から一つを選択し、唱えた。


二倍強化(ダブルフォース)!!」


「ケケケ、くたばっちまいなぁ!!」


 俺は振り回された大男の拳を片手で受け止める。


「なぁっ!?」


 大男は攻撃を受け止められたことに驚愕の表情を浮かべていた。

 それも無理はないかもしれない。


 俺と大男の体格は倍近くの差があるのだ。

 強化魔法を使っていなければ吹き飛ばされているところだろう。


「フッ!」


 俺はがら空きになった大男の脇腹に拳を叩き込む。

 すると――、


「ボヘァ!!」


 大男は情けない呻き声を上げて、広場の外れの方まで吹き飛んでいった。


「た、隊長っ!」


 周りにいた男たちの内、何人かが吹き飛ばされた大男を追いかけていく。

 というか隊長だったのか、アレ。


「さあ、これで文句はないな?」


 俺が残った団員たちに聞くと、男たちは揃ってコクコクと頷く。

 これでメルに絡まれることもないだろう。



 俺は宿屋の中に戻り、椅子に座ったままでいるメルに声をかける。


「お待たせ、メル」

「……おかえり、ぬし様」


 メルは俺を見てそう言うと、楽しそうに口元を緩ませた。


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