第10話 魔王城、再建へ
「魔王城を建てる?」
「うむ」
魔族領に来て数日が経ったある日のこと。
メルは魔王城を再建したいと言ってきた。
「魔王城って言うと、アレか? 周りにコウモリとかがバタバタ飛んでる不気味な城みたいな……」
「何じゃ、人族の間ではそんな話で伝わっておるのか。そんなにおどろおどろしいものではないぞ、ぬし様よ。至って普通の城じゃ」
「ポヨヨ」
メルは膝の上に乗せたスライムのレネを撫でながら、苦笑して言った。
静かな森の中、石の瓦礫の上で俺とメルは隣り合わせに座っている。
角の生えた赤い髪。その奥にある、髪の色と同じく赤い、けれど宝石のように綺麗な瞳。
それに加えて妖精と見まごうような顔立ちを持つ魔族の姫が、やや下から俺の顔を覗き込んでいた。
「ぬし様が魔族の力になると言ってくれて余は嬉しかった。しかし、今のままでは魔族が安心して暮らすことができるとは到底言えんじゃろう」
「……ああ、確かにな」
魔族が静かに暮らせる土地が欲しい――。
メルが先代魔王の墓前で涙ながらに言った言葉だ。
獣人族が盗賊に捕まった先日の事件からも分かる通り、人族の中には魔族に敵意を持つ者、利用しようと画策する者が数多くいる。
そうした悪意から身を守るため、魔族たちにとって拠り所となるような場所、文字通り「拠点」が必要なのだと、メルは言っているのだろう。
「先代の魔王がいた頃はそういう場所は無かったのか?」
「いや、あるにはあったんじゃがの」
「へぇ。それは今どこに?」
メルは言葉を返す代わりに、チョイチョイと人差し指を下に向ける。
それは俺たちが腰掛けている物体を指していた。
「え? まさか、これ……?」
「ポヨ?」
メルに抱えられたレネも驚いたような声を上げる。
腰掛けていたそれは、確かに言われてみれば石柱のようにも見える。
それに、よくよく見回してみれば森の中では不自然なほど同じような石の瓦礫が転がっていた。
「ってことはここに魔王城があったのか?」
メルは頷き肯定の意を示す。
「……」
かつて人族が魔王を討ち倒した後、その居城を破壊したと聞いたことがあるが、これはその時の結果なのだろう。
辺りに散らばった瓦礫は魔王城が破壊された際の凄惨さを物語っていた。
「しかし、どうやって? 言っちゃ悪いが、ほとんど元の形が残ってないような」
「ふむ。そこは建て直すというよりも一から建てるのに近いかもしれんの。少し骨は折れるかもしれんが……」
メルのその発言に反応したのは頭から獣の耳を生やした獣人族の姉妹、タットとシリルだった。
「石材運びならお任せ下さい、姫様、ベゼル様! 僕たち獣人は力持ちですから!」
「確かに、私たち魔族にとって魔王城は必要なものですね。もちろんお役に立てればと思うのですが……」
いかにも少年らしいキラキラとした目を向けるタットとは対象的に、獣人族の族長でもあるシリルは困ったような顔を浮かべている。
「シリル、何か?」
「私たちが魔王城を建築するための材料を運ぶにしても、それを加工できる者がいないなと思いまして……」
「ふむ。その件じゃが、ドワーフ族に声をかけてみようと思う」
「ああ、彼らは確かに手先が器用ですからね。少々頑固なのが玉にキズですが。名案かもしれません」
シリルはメルの提案にポンと手を叩く。
「ドワーフ族はここにはいないのか?」
「実は先代の魔王が倒されてから魔族たちは散り散りになってしまっての。余は獣人族と共におったが、他の種族は別々のところにいてな。まあ、これも余の統率力の無さが原因と言えるかもしれんが……」
「そんな! 姫様のせいでは……。皆、自分の種族を守るのに必死なだけなのです」
なるほど。
逃げることのみを考えると大群では身軽に動けないからな。
恐らく、魔王城を破壊されて防衛拠点を失い、各種族ごとに行動しようということになったのだろう。
いずれにせよ、まずはドワーフ族の協力を取り付ける必要があるということだ。
「でも、今は魔王様ことベゼル様がいるんですから! きっとドワーフ族も協力してくれますよ!」
「ポヨヨ!」
タットが元気よく言って、レネもそれに応じてプルプルと震えている。
「ああ、そうじゃの。まあ、まずは奴らの長と話をしにいくとするか」
新たな魔族と会うことに若干の不安はあったが、メルも獣人族たちも人間である俺にとても良くしてくれた。
きっとドワーフ族も快く力になってくれるはずだ。
俺はそんな淡い期待を抱き、メルやタット、シリルと共にドワーフの住処へと向かうことにした。




