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木屋町ホンキートンク Ⅰ  作者: 鴨川 京介
第2章 驚くことが多すぎて、ちょっと放心してきます。
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28 買い物と昼食と引退報告

 取り急ぎ朝食を済ませた後、とりあえず、すっからかんの俺の口座に入金をまた200万円ほどして、それ以外の金は愛ちゃんを擬人化して呼び出し預けた。さっそく動き出すそうだ。手元に携帯はあるんだけど、あやかしの姿で、いろいろと動いてくれているようだ。携帯に呼びかけたら返事するんだけどね。やっぱり実体があった方が動きやすいんだろうな。


 俺はボディバッグにタブレットを入れて、少し買い物に出かけ、食料を買い込んだ。突発的な動きが又あるかもしれないんで生鮮食品は少なめで、レトルトやインスタント食品を中心に買い込んだ。ネットで買ったものも丸々残ってるんで、当分大丈夫だろう。ご飯の真空パックなんか段ボールひと箱あるからな。


 買い物帰りに、偶に行く回転ずしへ行ってみた。

 最近仕事しているときよりも、食事が不定期になっている。

 外に出た時は外でご飯食べとかないと、次いつ食べれるかわからない。


 いや~。こんなはずじゃなかったんだけどな。

 予定通りなら、今頃仕事が終わってその余韻に浸りながら、まだ部屋でゴロゴロしてる頃だろう。

 そういえばあの最後の企画書、どうなったんだろう。

 仕事を受けれないってことも含めて一度電話しておいた方がいいだろうな。


 スマホを取り出し、クライアントに電話をかけようとして、その電話帳に記載されている内容にびっくりさせられた。

 普通電話帳は電話番号はもちろんだが、相手の名前、ニックネーム、住所、勤め先などのプロフィールがあるんだが、このスマホの電話帳にはその先が記載されていた。

 調査報告として、銀行口座の預金残高から、浮気相手のキャバクラのおねーちゃんの電話番号まで…。


 何度でも言う。怖え~よ。


 この情報、俺にどうしろっていうんだ。

 これが2,000人分以上か。

 こんな情報俺が持ってることを相手に知られたら、一瞬で人間関係が崩壊してしまう。

 中には名前だけ見ても誰か覚えていない人も大勢いる。


 住所録は名前だけ表示するようにしておこう。


 それで十分だ。もともと10人ほどの電話番号と名前しか登録していなかったからな。


 …べ、別に友達がいないわけじゃないぞ。本来なら個人用と仕事用に分けておくべきなんだろうが、俺はこの一台で両方とも兼ねている。仕事を経て友達になった奴らも多いからだ。そんな連中に、後から別に個人の電話を教えるなんてことはしないからな。掛けてくるのも仕事の時に教えた携帯だろうから、おのずと1つの電話に絞られてくる。

 そして俺の仕事柄、スマホの中の登録の削除は頻繁にしている。現場で雇ったアルバイトやディレクター、ADやケータリングサービスの連絡先など、その場でしか使わない電話番号がすぐに溜まって行ってしまう。はじめのころは追加するだけで放っておいたんだけど、これがすごい勢いでたまっていく。年間で20も現場をこなせば、それだけで2,000ほど増える。おまけに弁当が足りないとケータリングサービスに電話しようとしたら、ケータリングだけで数十の電話番号が出てくる。これでは使えない。一度間違ってかけてしまって、それに話している途中で気づいたからよかったものの、大阪の現場で九州の小倉でやっていた時のケータリングに電話かけてたことがあった。今じゃ笑い話だ。


 また長考してしまった。せっかくの赤出汁がすっかり冷めちゃった。

 とりあえず腹ごしらえを済ませてしまおう。

 勘定を払って店を出た。


 店を出てから、クライアントに電話をかけた。今掛けとかないとすぐに忘れちゃうからな。

 相手が電話に出て、すぐに前回の企画書の話となった。


 「ハルさん、あの企画書通ったよ。」

 このハルというのは俺の本名だ。姓ではなく名前だ。波瑠と書く。


 「おぉ、よかったじゃない。でも、俺、今回は実施パスな。」


 「えぇ?どうして?」


 「う~ん、ちょっと他で忙しくなっちゃってな。企画の仕事も当分受けれそうにない。」


 「おいおい、それは困るよ。結構充てにしてた物件あったのに。」


 「悪いな社長。でもあんたも気づいてると思うけど、もうそろそろ大阪のイベント業界ってやばいぞ。」


 「…。今更職替えできんよ。社員もおるんやから。」


 「まあ、そうだろうな。俺は抜けさせてもらう。また機会があれば、仕事抜きで酒でも飲もうや。」


 「そうだな。今回の仕事がハルさんの引退記念か。近々飲もうよ。」


 「今バタバタしてるし、もう少ししたら引っ越しもするんで落ち着いたら連絡するわ。」


 「え?引越すの?…夜逃げ?」


 「あほー。人聞きの悪いこと言うな。事務所兼住居ってのを探そうと思ってな。従業員も雇わないといけないだろうし。」


 「おぉ。ようやく会社設立か。結構長かったな。もう15年か。」


 「そうだな。長かった。同じ業界でリベンジできたらよかったんやけどな。」


 「へー。次どんな仕事するん?」


 「それは今は内緒かな。また落ち着いたら電話するわ。」


 「おお、頑張ってな。楽しみに待ってるわ。」


 電話を切るまぎわ、少しいたずらを思いついた。


 「それじゃな。キャバクラ『ピクシー』のねねちゃんにもよろしくな。」


 相手の返事を待たずすぐに電話を切った。

 さっき見てしまったネタを使ってしまった。

 反省はしているが、後悔はしていない。キリッ。


 …うん、レティのこと言えないね。


 さて一度部屋に帰ってノートパソコン持っておばあさんに会いに行くか。


 部屋に戻ると、愛ちゃんも帰ってきていた。う~んっと。俺愛ちゃんに鍵なんて渡して無いよね。どうやって部屋に戻ってきたの?


 「私の体は魔素でできておりますので、わずかな隙間でもあればそれで十分です。」


 うっぷ。また神経えぐるな。愛ちゃんは無限収納の能力もあるんだから、その気になれば盗み放題なんじゃ…。

 あぁ、黒い笑顔だ。にっこり微笑んでるよ。寒気が少しした。

 この辺りは確かにレティと姉妹だ。


 そういえばもうすぐクリスマスなんだな。

 今年も終わりか。


 ……。


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