第4話 小さな竜は、焼きりんごの皮が好き
台所へ白い泥棒が入ったのは、三日目の夜でした。
焼きりんごを取り出して、少し冷ましていたときです。
窓枠から、何か丸いものが落ちました。
白い尾。小さな角。畳まれた銀の翼。
「……竜?」
白いものは私を見上げ、口を開きました。
「きゅ」
それから、りんごを見ました。
いかにも、そちらへ話しかけていました、と言いたそうな顔です。
私は手を伸ばしかけて止めました。
初めて見る生き物に、人の料理を食べさせてはいけません。
焼いたものを高い棚へ置くと、小さな竜は絶望したように、その場へ座りました。
厨房の見習い、ティムが駆け込んできました。
「ポル! また抜け出した!」
「この家の竜なの?」
「ご主人様の、お客さんです」
お客さんは、私の靴の上へ片足を載せました。
公爵様が厨房へいらしたのは、すぐ後でした。
ポルは見つかったことを悟り、尻尾をそっと自分の前へ巻きました。
「昨年の冬に、卵を救った。春に生まれて、ここにいる」
公爵様は、竜を抱き上げました。
その手つきは、驚くほど慣れていました。
冷血と呼ばれる方が、逃げようとする小さな足を掌で支えています。
「この種類の竜は、果物を食べられるのでしょうか」
「生のものは食べる。熱を加えたものは、薬師が確かめた範囲だけだ」
ノエさんの記録には、月竜へ与えた食材がありました。
りんごは、蒸したものも問題がなかったと。
私は今日の一つを、調味料を加える前に取り分けていたので、そのまま見てもらいました。
種を取り、温度を確かめて、小さな皿へ。
ポルは果肉を一口食べました。
そして、皮へ顔を近づけます。
「きゅっ」
くしゃり、と薄い皮をかみ、翼を一度だけ広げました。
「お気に召したようです」
私が言うと、公爵様の肩から力が抜けました。
「このところ、冷たい果物を残していたんだ」
ポルは皿を抱え込むようにして食べました。
あの小さな手にも、五本の指があるのですね。
公爵様にも、別の焼きりんごをお出ししました。
人用には、ごく少量のバターと砕いた麦を添えてあります。
彼は厨房の隅へ座り、皮の端まで召し上がりました。
「甘いな」
「お砂糖は使っておりません。火を通すと、もともとの甘さが近くなるのです」
ポルが、自分の皿と公爵様の皿を交互に見ます。
そして、空の皿を私へ押しました。
「この方まで、おかわりですか」
公爵様が、笑いました。
それは一瞬でした。
すぐにいつもの静かなお顔へ戻りましたが、私は見てしまったのです。
目元の小さなしわと、少し幼くなる頬を。
その夜、ポルは食事室の窓辺で眠りました。
眠る前に、小さく歌うような声を出します。
遠くで鳴る、細い笛に似ていました。
公爵様は、その声を聞きながら、ご自分の胸へそっと手を置きました。
私が尋ねる前に、彼は手を下ろしました。
まだ、聞かれたくないことがあるのかもしれません。
私は空の皿を重ねて、次のりんごを、二つ選びました。




