第21話 呪いを解くために、あなたが望むもの
母竜は、二度目の粥を半分食べて、顔を上げました。
――小さき者を、守った人。
公爵様の胸が、強く光りました。
彼は膝をつき、片手を岩へ置きます。
私は近づこうとして、ノエさんに袖を止められました。
「彼が動けるか、先に聞いて」
名前を呼びました。
公爵様は顔を上げました。目は、はっきりしています。
「大丈夫だ。……いや、少し苦しい。近くへ来てほしい」
私は、隣へ膝をつきました。
ノエさんが反対側へ座ります。
母竜の銀の目が、胸の光を追いました。
――火が、まだ弱い。
その言葉に、ノエさんが首を振りました。
「人は、竜と違います。眠るときには、火を小さくするのです」
母竜は、私たちを見つめました。
信じたのか、わからなかったのか、すぐには読めません。
――消えてしまう。
その短い言葉の後へ、光景が流れ込んできました。
吹雪の中で、胸を押さえて倒れる公爵様。
動けない白い竜。
雪の裂け目へ落ちかけた、銀の卵。
公爵様は、自分が倒れる前に、卵を腕へ抱いていました。
私は彼の袖を握りました。
母竜が、命を失いかけた人の姿しか知らないのだと、ようやくわかりました。
「今は、食べられます。自分で、歩けます」
母竜へ、ゆっくり話しました。
「眠って、起きて、また食べる。それが、人の暮らしなのです」
母竜の瞳が、私から公爵様へ移りました。
――私は、オルナ。火を守ると、決めた。
公爵様は、自分の胸へ触れました。
それから、差し出していた私の手を見ました。
「おかげで、あの冬を越えられた」
声は低いまま、途切れませんでした。
「礼を言う。ポルも、元気だ」
ポルが母の頬へ前足を載せました。
母竜は、一度、目を閉じます。
「でも、俺は眠りたい」
公爵様は続けました。
「もう、倒れるまで立ち続けたくない。眠って、起きて……隣にいる人と、同じ朝を迎えたい」
握っていた袖の下で、彼の腕が、少し震えました。
「守りを、解いてほしい。今の俺の望みだ」
岩棚の外で、雪が落ちる音がしました。
しばらく、誰も話しませんでした。
母竜は、ゆっくり首を伸ばしました。
鱗の包みを公爵様の前へ置くと、大きな鼻先が、その欠けた縁に触れます。
――眠る。消えない。
言葉を確かめるように、二つずつ。
それから、母竜は公爵様の胸へ、細い息を吹きました。
銀の枝が、ほどけていきました。
皮膚の下から、雪のような光が浮かびます。
胸へ伸びていた線が、肩の端へ退き、最後には、古い傷だけが残りました。
公爵様が息を吸いました。
大きく、深く。
苦しさをこらえるためではない息でした。
私はその肩を支えました。
母竜は、まだ傷ついた翼を動かせません。
公爵様も、すぐに立ち上がりませんでした。
ただ二人とも、生きて、ここにいました。
ポルが母の首へ顔を埋めました。
そして、そのまま、眠りました。




