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19/24

第19話 雪の山へは、二人で行きます

北へ出発したのは、初雪の便りが届いた翌週でした。


二人だけの旅ではありません。

ノエさん、護衛四人、領地から合流する案内人。

荷馬車には食材、毛布、薬、燃料。馬にも、十分な飼葉を積みました。


ベラさんは、私の鞄へ乾いたパンを入れました。


「途中で誰かの食事を作って、自分のを忘れないこと」

「はい」

「はいだけなら、何度も聞いたわ」


私は笑い、胸のところへ手を置きました。


「ちゃんと食べて、戻ります」


公爵様は、その返事を隣で聞いていました。


馬車の中で、ポルは私の膝へ乗りました。

猫ほどに育った体は、思ったより重いものでした。

白い翼の裏には、月の欠けたような銀色の模様があります。


初日の昼、私は宿の厨房を借りました。

主人へ火の使い方と水の場所を聞き、持参した麦を煮ます。

宿の大鍋は、思ったより熱が残りました。

いつもの時間で煮ると、柔らかくなりすぎます。


公爵様は、私が皿を眺めているのを見ました。


「うまくいかなかったか」

「予定と少し違いました。粥としては、こちらのほうがよさそうです」


彼は一口食べました。


「今日は、その粥が好きだ」


私は、鞄から札を出す真似をしました。

彼が肩を揺らして笑い、護衛の一人が、驚いたようにこちらを見ました。


三日目、月見山のふもとへ着きました。

案内人のハンスさんは、白い羽を見せてくれました。

私の腕より長い羽根です。


「岩棚の奥から、時々、光が見える。生きていると思う。だが、近づくと獣が落ち着かなくなる」


その夜は、村の宿に泊まりました。

山へ入るのは、翌朝。天候が悪ければ、一日待つ約束です。


公爵様の部屋へ夜食を届けると、彼は窓の前にいました。

暗い山の向こうへ、雲が流れています。


「竜を助けたことは、後悔していない」


私は盆を卓へ置きました。


「でも、君まで危険な場所へ来させた」

「来ました。来させられたとは、思っておりません」


彼が振り返りました。

私は両手を前で重ねます。


「怖くなったら、伝えます。そのときは、どうするか一緒に考えてください」


公爵様は、深くうなずきました。


「約束する」


ポルが私たちの間へ来て、銀の鱗へ鼻を触れました。

その縁に、小さな光がともります。

山のほうから、同じ色の光が、一度だけ返りました。


公爵様は窓を開けませんでした。

駆け出すことも、しませんでした。

椅子へ座り、用意した粥を食べます。


明日のために、今夜の体を休める。

それを選んでくれたことが、私には、とても頼もしく思えました。

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