第14話 竜の呪いは、贈り物でした
古書の続きを見つけたのは、ノエさんでした。
「同じ言葉を、別の方言ではこう書いているの」
食事室の卓へ、三冊の本が並びました。
ノエさんと領地の寺院の司書が、十日かけて照合したものです。
――心の火が弱まるとき、守り手はこれを起こす。
公爵様は、本を見つめました。
「眠るときも、火は弱まるのか」
「人間の魔力は、眠りに入る前に変化する。月竜の守りが、その変化まで危険と受け取っている可能性がある」
竜は長く眠る生き物ですが、その間、体の中の魔力は人のようには静まりません。
人間を守った例が珍しいため、術の記録はほとんど残っていないのだそうです。
私は公爵様の襟元を見ました。
あの銀の枝は、敵意を持って食い込んだのではない。
倒れかけた人を起こすために、残されたものなのかもしれません。
「だったら、傷の光が弱いと、食べられる理由も」
ノエさんが、私の料理帳を開きました。
「濃い魔力を含む食事は、守りを強く反応させている。そういう傾向があるわ。あなたが魔力の偏りを抑えた食事なら、余分な刺激が少ない」
それは、料理で呪いを解いている、ということではありませんでした。
ずっと鳴り続ける鐘の周りから、大きな音を一つずつ減らしているようなものです。
「止めるには?」
公爵様が聞きました。
「術を施した竜へ、事情を伝えるのが、一番確実だと思う」
ノエさんは、簡単にできるとは言いませんでした。
公爵様も、うなずくだけでした。
その午後、領地から返事が届きました。
寺院へ手紙を出した際、北の案内人にも、白い竜の目撃情報を頼んでいたのです。
月見山の奥。
秋になると月麦を食べに降りる竜が、今年はまだ一度も姿を見せていない。
ただ、岩の近くへ落ちた大きな白い羽と、巣穴から出入りする小さな獣が見つかっている。
ポルは、封筒の北の紋章へ鼻を寄せました。
「きゅ」
公爵様が、ポルを抱き上げました。
「母親が、動けずにいるのかもしれない」
私は、月麦の鉢を見ました。
この小さな竜は、温かいものならよく食べます。
けれど、大きな竜が同じ料理を食べられるとは、まだわかりません。
調理書を借りたいと、ノエさんへお願いしました。
月竜へ捧げた食べ物の記録があれば、読むところから始められます。
その夜、料理帳に新しい頁を作りました。
一番上へ、母月竜、と書きます。
公爵様のお夜食から始まった帳面に、ずいぶん大きなお客様が加わりそうでした。




