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恋占令嬢、染色中  作者: 冬毛もこ
2章 前世、思い出しちゃいました
17/18

11・光的解決






竜主教会の教主様ことシャルル・リエール卿は、救世の聖女フィリア・フィリンスの要請に応じて割合さっさと圧力掛けるのを取りやめた。

私達ルサキーノ家が聖女様に屈服したと見なしたからだろう。私と聖女様の友達()付き合いはそんな風に見えているだろうから。

別にそんな事は無いのだけれど、勝手に思ってくれている分には、わざわざ誤解を解く理由も無い。


問題は、実際に冷遇してくれた王都の普通の市民の皆様。

ルサキーノを冷遇しろという教主様のご意向は私が入学してすぐに消えたというのに、王都民の冷遇はいつまで経っても消えなかった。


見下しても良いよ、酷い目に遭わせても良いよ、だって彼奴ら悪だから、とお偉いさんにお墨付きを貰っての冷遇って、やる方は楽しいのだろうね。

正義の名の下に悪の一家を成敗しているのだから。

反撃できそうなチカラのある家でもないから、お気楽に攻撃できるのもポイント高い。


一応は、直接的な攻撃はなかった。

普通に戦闘力も知られていたから。

両親は名の知れた英雄みたいなものだったから、戦闘力に冠する武勇伝だって普通に知られていた。

名門伯爵家・光輝なるリンリストの血を引く証となる筈の光魔法を使えず冷遇されていた天才ヒーラーと、ド田舎出身のケノーランド始まって以来の天才ヒーラーなんて言われた庶民が、未曾有の疫病を救った功績に一代限りとは言え爵位を貰って王の許しを得て結婚したって、当時の王都中の話題になったらしいから。


ド田舎生まれの庶民だとか、故・伯爵夫人の不義の娘に違いない癖に伯爵令嬢を名乗っていた寄生虫だとか、私の両親には心ない王都民にとって心置きなく見下せるポイントがあるので、リエール卿の冷遇許可に箍が外れた。


リエール卿は、ルサキーノを冷遇して欲しいなあという圧を放った。そして私が聖女の親友()となったので、圧を掛けるのを止めた。


でも、冷遇を止めろとは言ったりはしなかった。


もう圧なんてないのに、ルサキーノの冷遇は続いている。


「楽しいのだろうね。正しいと思っているみたいだし」


お父様は冷めた目でそう言っていた。

お母様はもうすっかり感心の失せた顔でティーカップを傾けている。その目は先日、全書防護都市ラヴェンダリアで購入した、太古の回復魔法に関する研究本に釘付けだ。「妬心の竜核」戦がある都市だ。後で履歴貰おう。



ルサキーノ家は割りとさっさと見切りを付けて、生活の糧やら食料・物資の購入を他の都市でまかなう事にした。

転移魔法を使えるからこそ出来た方法だ。

メイドのメイファ一家は仕事の一分野が減ったのに変わらぬお給金だから申し訳なさそうにしていたけれど、ルサキーノの冷遇に巻き込まれてしまったのだから当然の対応、ってのがお父様の考えだ。きっと、余所のお家で働くのももう難しいからね。


私達は、平気になった。

王都民に総無視されても。





その最中に、私ことシルリア・ルサキーノが聖女様と一緒に魔王配下の大魔「嘆きの竜核」を討伐し、否竜都市フリーダを救ったとの知らせが王都に響き渡ったのだ。


聖女様とその親友()は「妬心の竜核」も打ち破った。

「寂寥の竜核」も「怒りの竜核」も。


竜核が打倒される毎に地に満ちた魔物が減っていく。

大魔の襲撃により壊滅の危機に晒されていた都市が救われている。


それをやったのが冷遇されて当然の筈の、ルサキーノの一人娘だって知られ始めると、道行く時のヒソヒソ話の内容が段々と変わっていった。




「いや、殆ど救世の聖女様の功績だろう」

「ルサキーノだぞ? 所詮は庶民と寄生虫の子、アレの子らしく寄生してんだろ」

「いやルサキーノだぞ? アレとアレの娘がザコに生まれるか?」

「でもアイツの回復、糞ザコだったぞ?」

「いやいや光魔法のが得意だと」

「マジか。リンリストの光魔法か」

「あの寄生虫ニセ令嬢、本当にリンリストの血を引いていたのか」

「娘が光魔法使ってんだから、そうなんだろうね。父親は土臭い庶民だし」

「えーあのウワサ嘘だったんだねー。酷ーい。かわいそー」

「寄生虫とか言いだしたの誰だよ最低だな」

「オレらすっかり騙されてたな。悪い事したわ」

「でもま、ルサキーノだし、許してくれるっしょ」

「貴族ぶっても所詮ほぼ庶民だしな」

「ワシらと大差ない、か弱きお家じゃからな」

「反撃能力ゼロ貴族で良かったー」

「優しい優しい慈悲深ヒーラー様とかバカ程チョロいしね。ちょっとシュンとしてみせればイチコロよ」

「ワタシ達が買ってやらないと生きていけないお家だもの、ワタシ達が謝るフリしただけで尻尾振って元通り!」

「あーかわいそ。俺ら並みのよわよわで」



お母様の善意は売り切れだバーーーーカ!

多分、リンリストの血を引いていないとかいう疑惑の所為で、お母様の自己肯定感は生まれた時からずっと低めだった。お祖母様はお母様生んですぐに亡くなったらしいからね。お父様がリンリスト家から連れ出さなければ今頃生きていた不明なくらいだ。


私が「嘆きの龍核」を倒したと聞いた時。

攻撃手段が光魔法と聞いた時。

お母様はその場に立っていられなかった。


心配して駆け寄った私を抱き締めながら、お母様は震える声で言っていた。


「お母様は売女じゃなかった。

 わたくしはリンリストだった。

 汚物じゃ、なかった。


 でももう今更だわ……」



自分に自信が無いから、超級ヒーラーなのに価格設定が格安で、だから聖女と呼ばれつつ何処か軽く見られてて。

そして同業者からひっそり恨みを買ってたんだと思う。

自分より腕が良いのに非常に安い価格で癒やす同業者って、やってらんないだろうからね、ってのが娘視点外からみた現代人たる私の意見。

んで、リエール卿の冷遇指示が来てこれ幸いと、お母様が癒やし屋さんの仕事を出来ない様に仕向けまくった。お客さんも忌避したけど、同業者だって誰も助けてくれなかった。色々な手段で癒やしの教会から弾き出した。

こんな競争相手、排除できる機会に排除したいだろうからね。癒やし屋さん達にとってはね。


もう、どうでも良い事だけど。



私はさっさと足を速めたけれど、その日に限って立ち塞がる人達があった。


「いや~流石だねルサキーノのお嬢さん。大魔っての? 倒したんでしょ。すごいね~えらいね~」


とっても軽いお言葉だった。

取り囲んで、わいわいと何か言っている。

多分賞賛モドキ。

意図が露骨すぎて私の感情は段々と無になっていく。

私の冷め切った顔に慌てて媚びてくる王都の方々。

その中心人物っぽいふくよかが過ぎる老齢の男性がまくし立ててきた。


「もう良いでしょ。ご両親に伝言なさい。また安く買ってあげると。回復も薬もね」


ニコニコと言う。当然と言った顔で、私の「有り難うございます」を待っている顔。

誰が言いますか。


「両親はすでに他の都市で回復魔法も魔法薬も売っています。王都ではもう商売する気はないと聞いてますね」

「は? 他の都市??」

「私達には転移魔法があります。王都で商売する必要性も義理もありません」

「必要性だと! 生意気な。今まで誰のお陰で生きてこれたと思っている!」

「両親の技術、他の都市では高く評価されています。我が家は以前より裕福に過ごせているんですよね。王都の方々に縋っていた頃よりも」

「バカを言うな! 穢れた不義の娘を聖女と言ってやったんだ。王都民に安く奉仕するくらい、当然の事だろう」「そうだそうだ! マイシャー野郎だってオレらと同じ平民上がりの癖に偉そうに魔法薬だなんて言っているんだから、安く融通して当然なんだ」

「他の都市ですって? あなた達の回復魔法も魔法薬も、全部王都で安く買ってあげるってんだから、あんた達こそ感謝すべきなの!」

「他の都市で? 生意気に高い値段で売りやがって。お前らの仕事なんてランチ代以下で当然なんだ! 頭を下げて喜んでワシらに売るべきなんだ!」

「嘘吐き寄生虫令嬢の娘! お前もお前の父も同罪だ!」

「リンリストを騙るウソつきの子の癖に生意気なんだよ」


とある罵声に私はスッと目を細め、指先に光の魔法を収束させた。光魔法を使える人は本当に少ない。光魔法を扱える数少ない一族が、お母様の生まれた家であるリンリスト伯爵家。

思わず罵声が漏れる。


「その年齢、もう人生も集大成だろうに、晩年にやる事がこれ?? 生き様が透けて見えるわ」


お母様は光魔法を使えなかったけれど、私は使える。

リンリストの血を引いているから。

お母様からの血を、引き継いでいるから。

シルリア・ルサキーノが光魔法を使えるのは知っていたけれど、使えるのにはそんな背景があるとは知らなかった。

シルリアは回復魔法の才能の方こそ欲しがっていたけれど、今この場面、光の才能こそ有用。


「聖女様と共に大魔を四体、倒した功績のある光魔法です。言うまでも無くリンリスト伯爵家由来の光魔法です。紛う事なく母は、リンリストの令嬢だという証明です。私の光が、証明したんです。私の母を寄生虫呼ばわりした無礼者はどなたです? ……あなたですか。ご身分は?? 平民の方。へえ。ご存じでしょうが私、男爵令嬢です。平民だった父が、あなた方を疫病から救って勝ち得た、男爵位を持つ貴族の娘なんです。男爵令嬢を取り囲み、罵倒しましたよね平民の方。男爵夫人たる母を、寄生虫呼ばわりしましたよね平民の方」


私は別に平民だからと見下す気はない。だって私の自認も平民みたいなものだから。

でも敢えて、殊更に身分を持ち出し蔑んだ。

一番、相手に利くと思ったからだ。


隆々とした腕力で私を殴って黙らせる素振りの平民の方。


けれど私の手には煌々と輝く光魔法。

いつだって放出できる臨戦態勢。

大魔を屠れる出力のモノ。

大魔に比べて、いや、比べる段階にもない、無力なヒトの集団だ。きっと魔法で楽々一掃できる。


彼らは無力。

私みたいな小娘如きの言葉に何にも言えない。

大の大人の集団が、身を縮込ませて俯いている。

けれど私は手を緩めない。

声を掛けられた時点で今の事態を見越していた。

それだけの悪意が見え透いていたから。


「すでに最寄りの警察騎士派出所に使い魔を飛ばしております。ああ、いらした。騎士の方、お疲れ様です」


私は警察騎士の方に貴族の令嬢らしい挨拶を、取り囲んだ平民の方々に見せつける様に、敢えてきっちりと優雅にして見せた。

騎士の方々は私の事を、聖女様の功績と共に知っているので、恭しげに礼を尽くして下さる。


騎士の方々に丁重に接されているルサキーノの娘。

その光景に王都民の方々は呆然として、それからややあって顔から血の気が引いていく。

トドメとばかりに私は懐から録音機能のある魔法具を取り出した。王都民の顔、土気色。


「貴族に対する不敬罪かと思われます。ご確認お願いします」


そして魔法具から流れる寄生虫呼ばわり。

騎士の方々、ドン引き。


「大恩あるルサキーノの方々に対して何て態度だ」

「ですが騎士様。教主様のご意向が……」

「いつの話だ。あ、いや、知らぬ事だな」

「聖女様の御親友となられたと知らぬのか」

「聖女様と共に各地を救って回り、強力な光魔法で聖女様を支える英雄とも言える御方だぞ!」

「いえ、その。英雄は畏れ多いです。聖女様こそ英雄で、私はその、付き添いの様なもので……」


レベル差でゴリ押し続けているから、何とか勝ちまくっているだけで、同レベル帯だとシルリアなんかステ負けしまくり。全てはレベル上げしまくったお陰……!

シルリア自体は特に強くもなんともないのだ。

死ぬほど鍛錬して、頑張ってレベリングしまくったお陰以外の何物でもない。

運良く? 同レベル帯の光魔法使いが居ないから良い感じに見えるだけ……!

自分内比較では得意の光魔法でも、聖女様が光魔法にスキル割り振った世界線で比較するとボロ負けするし……。実際のフィリア・フィリンスは剣聖聖女って感じだけど。


そんな実情なんて知らない警察騎士の方々は謙遜だと思われたみたい。


「聖女様の付き添い、それが出来る実力の者がどれだけ居ると思われるのですか。自信を持たれて下さい」

「お可哀想に、こんな無礼な平民共に常に囲まれていた所為で、自尊心を押し潰されておられるのです」

「どうぞ退避をルサキーノ嬢。これからは下賤な者どもとの接触はなるべくなさらない様に願います」

「仰る通りですね。その様に致します。お気遣い有り難うございます」

「貴婦人の尊厳を護る為に我ら騎士は居るのです。どうぞ後処理は我々にお任せ下さい」

「有り難うございます。後はよろしくお願いしますね」



以降、不快な接触は皆無となった。


聖女様の御親友()の尊厳の為に、教主様テコ入れで不敬庶民の一斉検挙がなされたとのこと。

冷遇を煽動したのはリエール卿の癖にぬけぬけと大々的に、ルサキーノ家の尊厳を護ったアピール活動に活用してのけた。

お父様はいよいよ王都政治に呆れかえって、枯れた愛想も尽き果ててしまった様子。お母様はもうすっかり無関心。

取り敢えず、メイドのメイファ一家が私達の所為で不利益にならない状態になったのは良かった。



ケノーランド王国では王政秩序を護る為に、王侯貴族に対する不敬罪にはとても重い罪が科される。

彼らはきっと悲惨で過酷な牢獄生活。

いつか朝日が拝めると良いね。







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