10・出来る事
魔力が、効率よく循環するのが分かる。
指先に光輝が集結。
「光の矢!」
問題なく、正しく出現する光の矢。光の初等魔法だ。
才能があると言う事は、効率が良いと言う事。
僅かの魔力で発動し、通常よりも高火力。
輝く光の矢は、中等魔法レベルの威力に見えた。
魔物を模した練習用の的は、高密度な光の矢に焼き尽くされて、黒く小さく朽ちていた。
私は知っている。
シルリア・ルサキーノには光魔法の才能があるのだ。
回復魔法の才能はゴミカスレベル。
以前の私は、優れたヒーラーである両親に憧れて、人生の大半を回復魔法のレベルアップに費やしていたけれど、それは全くの無駄だったのだ。
今の私はちゃんと分っている。
時間の無駄。
リソースの無駄。
あんな稚拙なモノを他人様に披露していたなんて恥ずべき黒歴史。癒やしの教会でお粗末な癒やしをしてしまった方々にも、毎日の様に下手くそな回復魔法を施していたエルン様にも恥ずかし過ぎて、もう二度とお見せできないって思ってしまう。
エルン様の「シルリアの回復魔法が最高だよ」ってお世辞もいい加減申し訳なくなるし、疲れ目を抜本的に解決する何か良い方法があれば良いのだけれど。
とにかく、私の人生の大半は、タイパ最低で非効率な努力をしてきたのだった。
原作ゲームの知識を得て、私は無駄な努力を削除。
限りあるリソースを光魔法の修練に集中させた。
ゴミカスレベルの回復魔法に比べて、光魔法成長率率はほんっと最高だ。見る見る強くなっていくのが分かる。
ステータス画面を見る事が出来る聖女様の、より効率的な修行法の指示は的確で、私の光魔法のレベルはぐんぐん成長していった。楽しい。楽しい!
聖女フィリア・フィリンスは私との二人討伐を前提にしているので、私にも最低限のフィジカルを要求している。
だから基礎体力アップの為にとにかく校庭ランニングをさせまくる。走る時は、聖女様も必ず一緒だ。
聖女様は剣を取った。
主人公フィリア・フィリンスはスキルポイントの割り振りによっては、剣士にもなれるのだ。魔法系の攻略キャラだった時に取られがちの選択だ。勿論主人公様なので、剣の道を選んでもとっても強い剣士になれる。
私が後衛以外の何物でも無いので、前衛を引き受けてくれるらしい。
「アタシは救世の聖女なの。誰の手も借りずにこの手で倒すの。何もかも。カタキだって、この手で取るわ」
重く、深く、自らに言い聞かせる様な言葉だった。
剣を振るう彼女の背中は重い何かを背負って居る様に見えた。
私達はサクサクとレベルアップしていった。王城郊外、結界外の最弱モンスターからコツコツ倒していって、それから近くの森、段々と強い敵も軽く倒せる様になる。
魔物って、光魔法に弱くて最高。
私の魔法が攻撃の軸になったりする戦闘は本当に誇らしい。私の、光の魔法がお役に立てている。そんな実感がある戦闘は私にかつて無い昂揚をもたらしてくれた。
かつては毎日やっていた、エルン様の疲れ目をザコ魔力で癒やす回復の時間はほどんど消滅していった。
そもそもこんな拙い回復魔法を緊急事でもないのに他人に披露するってのがもう、今の私には恥ずかしくて仕方がない。光魔法なら何処に出しても恥ずかしくないレベルにやっとなれたのに。いつまで経っても一人前の出力にならないのが私の回復魔法なのだ。
だからやんわり回避していたのだけれど、今日はウッカリ逃げそびれてしまった。
「シルリア。君が頑張りたいのは分かる。努力しているのも分かる。でもね、どうか出来るだけ、僕の結界の中で過ごしてくれないか」
「大丈夫です。心配ありませんよエルン様。もう私、森の古樹精霊も倒せちゃうんです。最近光の高等魔法を……」
「そうじゃない。そうじゃないよ、シルリア」
「? ……まだ心配させる程度ですか、私の戦力。でもエルン様がそう仰るなら、出来るだけ気を付けますね」
「ああ、本当に頼むよ」
私は光魔法のより効率的な循環法について思考を割きながら、うんうんと軽く頷いた。早く、戦いたかった。ぐんぐん強くなる光魔法が楽しくて仕方がなかった。
エルン様が下さった癒やしの杖、何だか久しぶりに触れたなあ等と思いながら。
いよいよレベルが足りた。
恋占令嬢シルリア・ルサキーノはある時期に到達するか、それ以前でもレベル30になったらスキル進化イベントが確定で起きる。
聖女様の奇蹟というか祝福によって、スキル『恋占』が進化、って体だけど実質的にもう一つ追加って感じでスキル『先読』を獲得する。
追加スキルってのは攻略キャラが確定されるイベントと親友設定の恋占令嬢シルリアでのみ発生する。
つまり聖女の祝福とは彼氏と親友二人にのみ与えられるのだ。
「覚えたわね。さっすがアタシ。さ、発動よろ!」
何かもっとこう、神秘的な感じのイベントじゃなかった?
まあ、中の人が神秘的じゃないから仕方がないのか。
スキル『恋占』とは違って、常時発動ではないらしい。
因みに今、エルン様の聖女様への好感度はマイナス770となっている。いつ見ても下落している。
しばらく待っても何も起きない。
え、なに、魔法みたいに唱えるべき……??
「ええっと、スキル『先読』……?」
ちょっと照れながら唱えたら、ちゃんと発動した。良かった。
見えたのは、ゲーム画面みたいなの。
イベント選択画面っていうか。
そのイベント名とイメージ画だ。スマホ画面よろしくタッチして選べば詳細が見える。イベントの軽い説明、発動場所、発動条件、推奨レベル。時期限定イベントなら発動時期。
そういうゲーム画面的なモノが、ぱぱぱっと10くらい一気に浮んできた。
…………。
スキル『先読』っていうから、何かこう、もっと不思議ぱわー的なモノかと思っていたのに。
「…………、見えたのね? じゃあ、本編いくわよ。否竜都市フリーダの大魔「嘆きの竜核ゲヒリス」について詳細よろしく」
背筋が伸びる。
大魔とは地域を牛耳るボスの事。彼らには「嘆き」とか「怒り」とか「妬心」とか負の感情の名を冠している。
否竜都市フリーダってのは主人公到着時に消滅していた都市だ。
ゲームやってた頃は竜を否定する都市って何なの? ラスボス関係の歴史の深い都市なのか?? って思っていたけど。
実際は歴史の浅い都市だとシルリアの知識が教えてくれる。セイウォル否定派がヒトだけの力で運営しようとしている都市なのだ。初手で滅ぶけど。
そこに最初のボスが現れ、都市は蹂躙される。
否竜都市滅亡の知らせを受けて、救世の聖女は救援の声に応じて「嘆きの竜核」を撃破。
その惨状を見て、魔王の打倒を彼氏と誓うのだ。
つまり、学園パートで運命の人を選んだ後のイベントだ。だいたい2年半後。
私達はまだ1年生だけど。
いよいよ、やっちゃうらしいよ。本編を。
レベルは中盤楽勝程度に上がっている。
つまり最初のボスは軽く倒せる筈だ。
イベント画面を更にタップすると、『魔王討伐編第一章・嘆きの龍核ゲヒリスを始めますか?』と出てくる。多分押したら「嘆きの龍核」が出現してしまうのだろう。
これ、実際に起きるより前に始められるって事だよね?
イベント『先読み』って仕組みで発動するスキルなのだろうか? 確かに好きな時に発生はさせてたけど。
「問題は否竜都市へと行く手段だけど、アナタ転移履歴ある?」
「ないです」
「そうよね。アタシもないわ」
否竜都市フリーダは結構遠い。
この世界の一般的な技術こと馬車だと半年くらいの旅になる。今は特に何も起こっていないのだから、当然そんな旅をする許可なぞ降りない。
ならば転移魔法ってなるけど、転移履歴がないから無理。
学園パート3年間で色んな恋愛イベをこなしながら、こつこつと色んな都市に転移魔法で転移できる様になれる訳だけど、ショートカットする私達にはその経験が無い。
「でもお父様なら履歴あると思います」
「恋占令嬢パパ……ああ、死んだら見る顔ね。魔医者でしょ? 何で?」
あなたの所為ですよ、とは言えない。
王都で何も売って貰えないし、回復魔法の仕事もないし、薬も買って貰えない。
そんな事態に対策しないの、バカでしょう。
思い出した私は言ったのだ。
「王都で売れないなら王都以外で売れば良いじゃない」
この世界の人、現地にある物は現地で作って売るものって思っているみたいだ。その地にしかない物を余所に売るならともかく、何処にでもある物は現地生産・現地消費。飢饉時以外は。お父様の薬もそのカテゴリ。
たくさんの魔物に移動を制限された城壁都市ばっかだから、自然と皆そうなっていったのだろう。
高性能な転移魔法を使える人は大抵貴族で、彼らは転移魔法を主に領地の統治や視察に活用している。
貴族にとって使えて当然。
経済力の見栄を見せ合う場ではお金のかからない転移魔法はちょっと恥ずかしい、そんなポジション。
つまり転移魔法を活用した行商って発想がない。
や、皆無じゃないのかも知れないけど、著名じゃない。
転移魔法の遣い手になれるレベルの平民は、大抵最終的に貴族と結婚しているから、平民みたいに行商しないのだ。
だから多分、時代的なものなのか、文化的なものなのか、お父様みたいな頭のいい人も、全く思い付かなかった。
私の、現代日本人的には特に特別では無い発想に驚愕、感銘を受けたお父様は、即座に代金を支払って各地方都市への転移魔法履歴を買い取った。一緒に一回連れて行って貰ったのだ。
そうして冷遇の余波がない地で材料を購入し、王都自宅の施設で製薬、また別の都市で薬を売る。
それでやっと、我が家のピンチが何とかなった。
最近はお母様も連れ立って癒やし屋さんをしている。
お母様はもう、聖女と呼ばれた理由たるボランティアじみた低価格回復は止めてしまった。無限に見えた慈悲の心が王都の無慈悲に枯渇し、ごく普通の、腕前超級癒やし屋さんになったのだ。
王都中の冷遇はこれで何とかなった。
両親は、その反動の様に仲が更に睦まじい。
今まで以上にいつになく良い。
兄弟でも出来そうな勢いだ。
「───そんな感じで、お父様に頼めば転移出来ると思いますよ」
私はザックリとかいつまんで聖女フィリア・フィリンスに説明した。彼女はちょっと気まずそう。
「過去のアタシが迷惑掛けたわね。でもそのお陰で助かったでしょ?」
お前が言うな。
心の中で思わず突っ込んでしまった。
まあ、それは、そうなんだけど。
ちょっと強くなったから、本編の最弱ボスに挑んでみるのは腕が鳴るって思ってしまう。魔王討伐まではとてもついて行けないだろうけど、その内どこかのイケメンつかまえて攻略すると思うのだけれど、序盤くらいなら、私なんかでも頑張ってみようって思った。
成長するんだ。
「さあ、挑みましょう! 大丈夫、アタシ達なら楽勝よ!」
……それにしても男っ気無いなこの聖女。
楽勝だった。
レベリングし過ぎたのかも。
「いやゲームバランス!」
「現実の戦いに歯ごたえとか要らんのよ」
「それはそう」
すかさず「聖女様~!」と感謝されまくるフィリア・フィリンス。「お構いなく。だってアタシ、救世の聖女だから」とか言って胸を張っている。
いや、彼女、私の失言に気付いていないな?
「本当に、有り難うございました!」
私にも感謝の言葉が。
ボロボロの母子だった。
でも生きている。
否竜都市フリーダも、ちょびっと減ったけど原作みたく壊滅していない。
「ありがと、おねえちゃん」
努力して、強くなって、強敵を倒して、感謝された。
私でも、そんな仕事ができた。
出がらしヒーラーなんかじゃない。
わたし、光魔法で、人を救えた。
うるうると涙が滲む。
達成感でいっぱいだった。




