裏切り
幼い頃、親しかった幼馴染のリリと離れ離れになった。今思えば、言葉だけでも再会の約束を結べば良かったと思う。もう二度と会えなくても、結んだ約束が喪失感を紛らわせてくれただろう。
しかし、アタシもリリも、泣いたまま何もしなかった。
その後のアタシは、自分でも酷いと思う生活を送っていた。友人は作らず、家族ともマトモに話さず、一人で過ごしていた。リリとの別れをいつまでも引きずっていたのもあるけど、一番の理由は、親しい人間との別れをもう二度と体験したくない恐怖。
人間、いつまでもずっと一緒というわけにはいかない。様々な出会いがあるように、様々な別れもある。そして大抵、別れてしまえばもう二度と再会する事は出来ない。そんな風に拗れた考えが根付いたアタシは、別れを恐れるあまり、人との関係を避けた。
そんな毎日を送っていれば、気に入らない人間も現れる。
名前も知らない同級生。
学校の教員。
両親。
嫌われ、厄介者扱いされて、果ては全寮制の高校にほっぽり出した。家を出る時、笑顔で見送られたよ。
『元気でね』
『頑張って』
あの言葉にはきっと【二度と帰ってくるな】という思いが込められていた。ロクに話さないアタシも悪いけど、実の娘を面倒がる親も親だ。
入学式当日。通学路の途中で、同じ新入生の子達が登校していくのを見た。新しい制服に身を包み、少女と女性の狭間にいるような容姿と雰囲気。初日からジャージで登校するアタシとは裏腹にキラキラとしていた。
学校に着き、玄関へ向かっていくと、見覚えのある姿を見つけた。
リリ。間違いない。背も雰囲気も変わってるけど、彼女が羽田リリであると分かる。きっとそれは、理屈では説明出来ないアタシの直感からくる気付きだ。
「リ―――」
およそ十年ぶりに口にする名前を言いかけた時、アタシの喉がそれを遮った。
リリが目を向ける先。まるで恋をした少女のような眼差しで捉えたのは、上級生の女子。背が高く、イケメンで、女と男の両方の雰囲気を併せ持っていた。
言葉を失い、立ち尽くしていると、あの上級生の女子と目が合った。アタシを見て驚いたような表情を浮かべると、リリと同じような眼差しでアタシを捉えた。
ごちゃつく頭の中が静まり返ると、ある一つの言葉が浮かんだ。
【裏切られた】
幼い頃、泣き別れた幼馴染との再会で待っていたのは、酷い裏切りだった。




