初体験
僕の名前は霧島レイ。自他共に認める完璧人間さ。美しさとカッコよさの両方を兼ね備え、心技体まで鍛え上げられている。年下、同い年、年上、大人からお爺ちゃんお婆ちゃんまで僕の魅力に惹かれて、いやはや困ったものだよ。
そんな僕に、新しい刺激を与えてくれそうな子が今年入学してきた。見ず知らずの彼女は、遠く離れた僕の存在に気が付くと、まるで親の仇のように鋭い眼光を飛ばしてきた。それは今まで僕に魅了されてきた人々とはまるで違う眼差しだった。
そんな彼女に睨まれた僕は、初めて興奮と快感を覚えた。何故かは分からないが、彼女が僕に向ける敵意がたまらなく気持ちが良い。
「ミヤコちゃん……?」
「ミヤコ……そうか、彼女はミヤコというのか」
新入生を迎える挨拶を終えてから、早速彼女について調べさせてもらった。
彼女の名前は神木ミヤコ。小学校・中学校で何かと問題を起こした経歴がある。だが成績はまずまずといったところで、身体能力に至っては僕に勝るとも劣らない原石。
それだけしか情報を得られなかった。まぁ、名前を知れただけでも良しとしよう。
神木さんの教室は、一年四組。ちょうど階段を下りた先の教室。当然、階段から下りてきた僕の存在に、教室の彼女達は気付いてしまったようだ。教室の出入り口や窓に集まり、誰もが僕に好意を持った眼差しを送っている。可愛らしい雛鳥達だ。
だけど、僕の目当て。神木さんはその群れにいない。
「やぁ、新入生諸君。このクラスに神木ミヤコさんという生徒はいるかな?」
僕が尋ねると、皆一様に窓側の席へ視線を向けた。
視線を追っていくと、窓側の最前列。風に揺れるカーテンに、シルエットが浮かび上がっていた。
彼女だ。神木ミヤコだ。
カーテンに隠された神木さんのもとへ、一歩、また一歩と近付いていく。その度に、僕の心臓の鼓動が早まる。緊張しているんだ。定着していた僕の常識を打ち砕いてくれるかもしれない彼女に、僕は期待している。
「……やぁ」
緊張の所為か、ぎこちない声の掛け方をしてしまった。
すると、神木さんは自分の頭部を隠すカーテンを手で退かし、僕の顔を見上げた。
「うわぁ……」
酷く面倒くさそうに彼女は顔をしかめた。こんなにも分かり易い人間、世界中何処を探したって彼女以外いない。
彼女は、僕を【嫌ってる】人間なんだ。
まずい。頬が、緩む。嬉しくて嬉しくて、顔がニヤけそうだ。
「……気持ち悪い笑い方、するんですね」
「え?」
「アン―――先輩の、顔だよ」
「……ふむ。では、わざわざ取り繕う事も無いか。単刀直入に言おう。神木ミヤコさん」
「チッ……!」
「あ、舌打ち良い……!」
「は?」
「あ……ゴホン! 神木ミヤコさん! この僕と、お友達になりませんか?」
後ろで僕達のやり取りを眺めている彼女達は悲鳴にも似た歓声を上げた。これが当然の反応だ。
しかし、彼女は違う。
ガンッ!!!
握り締めた拳で、思いっきり机を殴った。瞬間、後ろの彼女達も静まり、尚も力強く握り締めたままの神木さんの拳の音が微かに聞こえる。
「アンタとは……アンタだけとは、仲良くなれそうにない……!」
神木さんは椅子から腰を上げると、僕の肩を掴み、手加減なしに僕を退かし飛ばした。
机を巻き込んで床に倒れた僕の心配などしていないのか、神木さんの足音はどんどん遠くなっていく。
産まれてから今日まで、自分にも他人にも嫌われた事が無かった。それは素晴らしい事だし、誰からも好かれる僕自身を尊敬してる。
そんな僕が、このザマ。
「最高だよ……神木ミヤコさん……!」
神木さん。恨むのなら、僕を嫌ってしまう自分を恨むんだ。
君が僕の事を嫌えば嫌う程、僕は君の事を好きになっていく。




