ベランダ
寮に帰れば、静かで冷たい部屋が待っている。三棟ある寮はそれぞれ学年で分けられ、ちょうど向かいにある三年の寮は、来年には一年の寮になる。部屋は二人部屋と一人部屋があって、私は一人部屋。誰かとシェアハウスするのは気まずいから一人部屋で良かったけど、ずっと一人なのは寂しい。我ながらワガママな悩みだ。
お風呂に水を貯め、その間に軽く掃除機をかけ、お風呂に貯まった水を焚く。沸くまでの三十分の内に晩ご飯を食べ、歯磨きをしてからお風呂に入る。この繰り返しを三年間ずっと続けるかと思うと、何故か気分が落ち込む。
「……変わり映えしない日常は心を蝕み、やがて怠惰にする」
浴室で呟いた自分自身の言葉に、私は共感せざるおえなかった。
お風呂から上がり、ベランダに出た。涼しい春の夜風は、お風呂上がりの体を心地良く冷ましてくれる。そう思ってるのは私だけじゃなく、他の人もそうらしい。いくつかの部屋で、お風呂上がりと思われる子達がベランダに居る。
その中には、ミヤコちゃんの姿もあった。ミヤコちゃんの部屋はこの一年の寮ではなく、向かいの三年の寮にある。どうやら部屋が残ってなかったらしい。
三年の寮に居るというのに、ミヤコちゃんはベランダに置いてある椅子に座ってのんびりとしている。一匹狼の彼女は、三年の寮に居ても尚、たじろぐ事はない。その強さには憧れる所がある。
しばらくミヤコちゃんを眺めていると、急にミヤコちゃんが慌てて椅子から腰を上げた。部屋の方に向かって何か叫んでるようだけど、何と言ってるかまでは分からない。
「……あ」
霧島先輩。霧島先輩が、ミヤコちゃんの部屋からベランダに来た。部屋着姿の霧島先輩が、慣れた様子でミヤコちゃんの隣に来ると、親し気な笑顔を浮かべた。そんな霧島先輩に対し、ミヤコちゃんはめんどくさそうに頭を掻くと、椅子にドカリと座った。
もう、何度目だろう。ミヤコちゃんの部屋に霧島先輩が来るのは。特別な雰囲気でベランダに居るのは。
見ていて惨めになる。ミヤコちゃんはともかく、霧島先輩は間違いなくミヤコちゃんを特別視している。それがどんなに光栄で幸せな事か、ミヤコちゃんは分かっていない。
部屋に戻り、ベランダの窓とカーテンを閉めた。
振り返って見えた部屋の様子は、とても寂しいものだった。私とは違う匂いがするわけでも、誰かの物が置かれてるわけでもない。寂しい部屋。
明かりを消して、ベッドに潜り込んだ。
暗闇の中、ベランダに居た霧島先輩とミヤコちゃんの姿が鮮明に思い出されてしまう。
本当に私は、ワガママだ。




