図書室
放課後は図書委員の仕事。本の整理と貸し出し期限の確認。この学校の図書室は広いから、一人だと意外と時間が掛かる。特に大変なのは、返却された本を元の場所に戻す作業。日によって量は違うけど、場所を探したり本を運んだりと重労働だ。おまけに背が低いものだから、台座を持っていかないといけない。
軽作業ばかりだと決めつけてたけど、今はちょっと後悔している。他にも図書委員はいるけど、みんな部活に入ってるから、基本的に私一人で作業しなければいけない。みんなその事に申し訳なさを持ってる分、大変なだけで済んでるけど、やっぱり誰か一人は手伝いが欲しいのが本音。
「えっと、次は……あぁ、これか」
分厚く大きな本。植物に関する本で、たまに借りていく子がいる。この本が置かれてる場所が、よりにもよって棚の一番上なのだから、配置を決めた人は意地悪な人だ。
台座に上り、目一杯手を伸ばした。それでも本の端がぶつかる程度で、届きそうにない。前に戻した時は、どうやって戻したんだろう。
諦めようとした時、視界の外から私じゃない誰かの手が伸びてきた。細く長い手は、私が両手でやっと持ってる本を呆気なく片手で掴み、軽々と一番上の棚に戻した。
「あ……ありがと―――ッ!?」
お礼を言おうと振り返ると、私のすぐ傍に、霧島先輩が立っていた。本当にすぐ傍で、鼻と鼻がぶつかってしまいそうだ。
「大変だよね、図書委員の仕事も」
「あ、え、あの……! キャッ!?」
興奮と緊張のあまり、台座から足を滑らせてしまった。倒れていく私の体を霧島先輩はまたも片手で受け止め、そのままもう片方の手で私の膝裏を持ち上げた。
夢を見てるみたい。誰もいない図書室で、私は今、霧島先輩にお姫様抱っこをされている。
「驚かせてしまったようだね。ごめんね」
「い、いえ……! あ、あの、ありが……ありがとう、ございました……!」
「フフ」
本当に信じられない。あの霧島先輩が、こんな私に微笑んでくれた。私なんか視界に入る事すら叶わないはずなのに、私は今、霧島先輩の視界を独占している。
心臓が飛び出しそう。顔が熱くて爆発しそう。ありとあらゆる妄想が次々と脳内に浮かんで、私の劣情を煽る。所詮は妄想だと分かってはいつつ、淡い期待を持ってしまう。
その時、近くの本棚から物音がした。本が落ちた音と、誰かがぶつかった音。
名残り惜しくも霧島先輩に下ろしてもらい、音がした所へ行ってみた。
そこには数冊の本が床に落ちていた。本棚にぶつかった子の姿は無かった。
床に落ちている本を拾い、棚に戻していると、霧島先輩が小さく呟いた。
「へぇ……」
まるで何か分かったような呟きだった。霧島先輩は本棚にぶつかっていった子が誰か見当がついているのだろうか。




