押し付け合う
喉の奥に突っ込まれていたアイスの棒が引き抜かれていく。それでも、えづきが止む兆しは無かった。
目に映るリリはアタシが知るリリではない。怒っているのか、悲しんでいるのか。感じ取る事が出来ない。
「……ミヤコちゃん。私、分かんないんだ」
リリはえづきと共に流れたアタシの涙を拭った。
一瞬。ほんの一瞬だけ、指で目を潰されるのかと思ってしまった。
「私は、霧島先輩が好きなんだと思う。でもそれと同じくらい、ミヤコちゃんの存在が私の心を占領してるの」
「リリ……」
「最初はね。霧島先輩とミヤコちゃん、どっちの事も好きなんだと思ってた。でも、段々と、同じ感情ではない事に気付いてきて……そっか。私は、ミヤコちゃんになりたかったんだ」
すると、リリはアタシの唾液で濡れたアイスの棒を咥えた。目を閉じ、味わうようにしてアイスの棒を口の中で舐めていた。奇妙な行動ではあるが、その行動でアタシが悦んでいるのはハッキリとした変態性だ。
口の中からアイスの棒が引き抜かれると、リリはそれを見て、悲し気な表情を浮かべた。
「これと同じだよ。同じ唾液でも、この唾液は私の唾液。ミヤコちゃんのままじゃない」
「……どうしてアタシになりたいの?」
「私も誰かの特別になりたいの」
「……アタシにとって、リリは特別だよ」
「違うよ。私達は良い思い出を残して別れてしまったから、互いに特別な相手だと誤解してるんだよ。思い出が無ければ、ミヤコちゃんは私の事なんか眼中に無いよ」
そんな事はない。
そう強く言いたかった。
言えなかったのは、自信が無かったからだ。確かにアタシは思い出によってリリを美化させているのかもしれない。リリじゃない誰かにこんな事をされたら、間違いなくアタシは怒る。今こうして大人しくしているのは、相手がリリだからだ。それでいけば、思い出を除外した場合、他の人同様にリリに怒ってる事になる。
いや、違う。例え話をしたって意味が無い。事実こそが正義だ。アタシとリリの間には思い出があり、アタシはリリを特別視している。それこそが曲げられない事実。
「……アタシは―――」
「私も誰かの特別になりたかった!」
「―――え?」
「ミヤコちゃんはありのままで特別な存在になれる! 誰かに合わせる必要も無く、人を惹き付ける! 私が好きだった霧島先輩もミヤコちゃんは特別にさせた! ……ズルいよ」
「ッ!? アタシは!」
上体を起こし、今度はアタシがリリを押し倒した。
そこから先の事は憶えてない。
ハッキリと意識が戻ったのは、トイレの扉の向こうから聞こえてくるリリのすすり泣く声。自分が何をしたかなんて容易に想像出来た。
「……ごめん」
絞り出した言葉を吐き、アタシは部屋から出ていった。




