今も変わらず思い出の中
リリに謝りたかった。そして叶うなら、あれは自分の意志では無かった事を信じさせたかった。
けれど、アタシはリリの部屋の前で立ち尽くすばかり。謝罪の言葉は浮かんでも、それで何か変わる事など、ましてや許されるなんて奇跡は絶対に起きない。そうなってくると、このアタシの謝罪は至極自分勝手な無駄だ。
ただ時間だけが過ぎていく。アタシが何もしていなくたって、時間は正常に進んでいく。やっぱりアタシは、過去で生きている未来の無い人間なんだ。
真っ暗な中、通路に唯一灯っている明かりはリリの部屋の番号札だけを照らしている。
立ち去る事は許されない。ここから立ち去るという事は、アタシにとって自殺を意味する。
まだ死にたくない。
けど、死にたくないから謝罪するなんて事もしたくない。
『思い出が無ければ、ミヤコちゃんは私の事なんか眼中に無いよ』
リリに言われた言葉を思い出した。
ある意味では、リリの言葉通りだ。リリとの思い出が無ければ、アタシは今も生きていない。
アタシの心臓は左胸にではなく、あの頃の思い出にある。
「酷い表情」
気付くと、部屋の扉の前にリリが立っていた。何処かに出掛けるのか、財布を片手に持っている。
「なに? ずっとここに立ってたの?」
「……謝りに、きたんだ」
「もう十二時過ぎてるよ? 何時からここに立ってたの?」
「……分かんない……多分、午後からだった気がする……」
「いずれにしても長い間ここに突っ立ってたんだ。変わんないんだね、そういう所」
「え……?」
「あの頃も、何かしらの理由で私を泣かせた後、こんな風にあと一歩の所で突っ立ってたじゃん」
「そ、そう! そうだよ! それでいつも、リリがアタシの前に出てきてくれて、アタシを慰めてくれたんだ!」
「昔から変な所で臆病なんだよね」
「うっ!? そ、それは、そうだけど……」
「……今から私、コンビニでアイス買いに行くの。一人で大量に買うのは恥ずかしいから……分かるでしょ?」
「そ、そう、だね……? じゃあ、アタシが買いに行ってくる!」
「そうじゃなくて!! あー、もう! 小さい子供と話してる気分……!」
リリは頭を掻いた後、アタシを睨み、目で下を見るように促してきた。
視線を落とすと、リリがアタシに手を差し伸べていた。お金を要求しているんだろうか?
すると、リリがアタシの手を握ってきた。そうしてアタシの手を引き、寮から出ていく。
「あ、あの、リリ……?」
手を引かれるがままのアタシに振り向きもせず、リリは歩き続ける。
困惑で頭がおかしくなったのか、視界が歪み始めた。口や喉が麻痺したのか、声が出せない。
いや、違う。
そうか。
「……ごめんね、ミヤコちゃん。私、気付けなかった。ミヤコちゃんは、昔から変わらずミヤコちゃんのままなんだね」
リリとの沢山の思い出の中、泣いたアタシの手を引いてくれる彼女が居た。
それは今も変わらない。




