見られてしまった
コテージでの一泊を済ませ、アタシは寮まで送り届けられた。楽しくはなかったが、悪い一日でなかった。
「それじゃあ僕は戻るよ。あっちでやらなくちゃいけない事がまだ残ってるんだ。次に帰ってくるのは、五日後になるね」
「そうか。まぁ、頑張れよ」
「……ん」
霧島は目を閉じ、手を広げた。訳も分からずいると、徐々にアタシの方へにじり寄ってきた。
運転席にいる霧島の執事の方へ目を向けると、彼は目を閉じ、耳を塞ぎ、居ない者として振舞っている。
アタシ達の抱擁は、とてもギコちなく行われた。乗り気じゃないアタシはまだしも、求めてきた霧島まで恥じらいがあるのはどうなんだ。
満足した霧島は車に戻り、車は寮から走り去っていった。一応、車が見えなくなるまでアタシはその場で立ち止まって見送った。
そうして見送った後、寮の方へ振り向くと、入り口前で立ち止まるリリがアタシの方を見ていた。片方の手には袋があり、もう片方の手は棒アイスを持っている。今日も暑いというのに、リリはアイスの存在を忘れているかのように止まったままだ。
アタシは小走りでリリのもとへ駆けつけた。久しぶりに会えて嬉しい気持ちはあるけど、それ以上に彼女の勘違いを訂正したい必死さがあった。
「リリ、あの……あれは、違うんだ」
「……なにが?」
「なにがって……だから、さっき見たのはリリが思ってるそれじゃないって事で―――」
「さっき? ミヤコちゃん、なに言ってるの?」
会話が成り立っていない。もしかして、リリはさっきのアタシと霧島が抱擁する所を見ていなかったのか?
いや、だとしたらどうしてここで立ち止まったままだったんだ?
「今日も暑いよね」
「え? あ、うん」
「実家の方も暑かったけど、こっちはもっと暑いよ。昨日帰ってきてすぐにアイス買いに行ったんだけど、もう食べ切っちゃって、今日もまた買っちゃった。ほら」
そう言って、リリは袋の中を見せてくれた。袋の中には六個のアイスが入っていて、今食べてるのを合わせると七個も買ったようだ。
「ミヤコちゃんも食べる?」
視線を袋の中からリリの方へ向けると、彼女は微笑みを浮かべていた。どうやら本当にアタシと霧島の事は見ていなかったようだ。不安が杞憂で終わり、ホッとした。
リリの部屋へ連れて行かれ、ソファに並んで座り、彼女からアイスを一個貰った。
「なんか、懐かしいよ。昔、夏になればアタシ達はこんな風に並んでアイスを食べてたから」
「そうだったかな?」
「今もよく憶えてる。それだけじゃない。リリが引っ越すまでの毎日は、今も鮮明に憶えてるよ」
「そう」
アイスの袋を少し開けた所で、アタシの体は静止した。
袋の中のアイスは完全に溶けていた。外が熱いからといって、液体になるまで溶けるには少し掛かる。袋にある店名からして、この近くのコンビニから買った物。どれだけゆっくり帰ってきても、多少溶ける程度の距離しかない。
じゃあ、何故液体になるまで溶けている?
【見られていた】
アタシの額から汗が流れた。
暑さが原因じゃない。
苦しいほどに荒れる心臓の所為だ。
「リ―――」
改めて訂正しようとしたが、既に手遅れだった。
振り向いた瞬間にリリに押し倒され、アイスの棒を口の中へ突っ込まれた。
えづくアタシをリリは酷く冷たい眼で見下ろしていた。




