雑談
道行く人が聞いてほしいとばかりに会話を交わしている。
「花火楽しみだね!」
「着物どうしようか?」
「絶対混むよね?」
別に何を話していようがアタシには関係ないが、もっと声を落としほしいものだ。テラス席にしたのは間違いだったかな。
「神木さん。手、止まってますよ」
「花火ってなんだ?」
「えっと、それは花火そのものについてではなく、花火の話題についてですよね?」
「ああ。アタシが花火も見た事の無い田舎者だと思ってんのか?」
「いえ、そんなつもりはありません! その、私の駄目な癖で」
「まぁ、どっちとでも取れる発言をしたアタシが悪いか」
一昨日に部屋で少し会話をしてから、ヒカリとはある程度の仲が深まった。今はカフェのテラス席で課題の手伝いをしてもらってる。アタシよりも遅くに始めたというのに、既にアタシよりも課題を進めている。
ヒカリがレモネードをストローで飲むのを見た後、アタシも自分のアイスラテを飲んだ。
「花火の事でしたら、きっと近くで開催される花火大会の事を言ってるんだと思いますよ」
「そんなの聞いた事ないな。そういうのは大抵、張り紙なんかが貼ってあるだろ」
「貼ってますよ? コンビニとか、お店の壁とかに」
「寮からでも見れるのか?」
「見れると思いますよ。ちなみに開催は二日後。帰省してるほとんどの人が帰ってくる頃ですね。神木さんも誰かを誘って会場に足を運んでみては?」
「アタシを誘ってくれないのか?」
「ごめんなさい。先約が……」
「じゃあ仕方ないか。友達との集まりに友達の友達が来るってのは、なんとも気まずいものだもんな」
ヒカリは安心したように微笑むと、ペンの先で課題を進めろと促してきた。ここに来た理由は課題なのだから、やらずにいるのは見過ごせないのだろう。見た目通り真面目な人だな。
「神木さんって運動神経が良いのに、どうして部活動をしないんですか?」
「いや、運動神経が良いからって―――」
「手は止めない」
「はいはい。あくまでも会話はついでで課題に集中ね……まぁ、本当に大した理由じゃない。馴染めないからやらないだけだ」
「個人競技なら、その憂いを晴らせるのでは?」
「個人競技って言ったって、部員同士で協力し合う事は多々あるだろ? 自分で言うのも悲しいけど、アタシが居ればそういう協力関係そのものを壊しかねない。突出した個に合わせようと最初こそ頑張れるけど、次第に諦める者や非難する者が出始める。そうなってしまえば泥沼だ」
「自分が活躍する事は確定事項なんですね」
「自分に自信があるのは良い事だ。それ以上の相手との出会いで挫折する事はあっても、まず自信が無ければ何事も成せない。よく自信とプライドが同じように語られる事があるが、アタシからすれば、自信は自分を引っ張るもので、プライドは自分を守るもの。正しい意味は違っても、この考えを変える気はない」
「では、霧島先輩は? あの人も神木さんと同様の考えを持ってるんでしょうか?」
「さぁな。アレはアレで自分の考えを持ってるだろ。アタシは別にアイツの専門家ってわけじゃない。ただ、高い位置に立ってるつもりではあるな」
「位置? 位の事でしょうか?」
「アイツは自分以外を弱くて可愛らしい小動物のような存在だと驕ってるのさ。文武両道、容姿端麗。おまけにカリスマ性だ。自分を高く見るのも不思議じゃない。だがアタシから言わせれば、いずれは消える風前の灯火だ」
「それはどうして?」
「……手が止まってるぞ」
ヒカリの課題にペンの先を向けると、ヒカリは慌てたように課題に目を向けた。
風前の灯火、ね。
今のアイツの状態を考えるに、間違った解釈ではないかもな。




