思惑
いよいよ体育祭最後の種目が始まる。最後の種目は百メートル走。
現在の点数は十対十。この百メートル走で勝者が決まる。
神木組から参加するのは当然ミヤコ。これまで全種目に出場していたミヤコには疲労感があるものの、絶好調の状態をキープしている。
ミヤコが出てくるのを目にしたレイはその後に続こうと歩み始めたが、ミナミがそれを阻んだ。
「どうしたのかな? 最後の種目には僕が出るはずだろ?」
「そうでしたけど、せっかく同点なんです。確実に勝ちたいんですよ」
そう言い放ったミナミに他の生徒達が困惑する。先程のリレーの僅差での勝利に納得いっていないからこその提案なのかとミナミを疑う。
陸上部の部長がミナミを引き戻そうと動くが、レイがそれを止めた。
「君は僕の実力では不十分だと思っているんだね」
「いえ、そうではありません。むしろ、アナタは万全の状態。私達陸上選手と競っても、同等かそれ以上のパフォーマンスを見せてくれるでしょう」
「では、どうして?」
「気に入らないからです」
堂々と意見を口にしたミナミの言動は、レイの信者の怒りを買った。
しかし、またしてもレイがそれを止め、ミナミを守った。
いや、守ったのではない。結果的にそうなったのであって、実際は単純な興味からくる静止だった。ミヤコに続いて二人目である自分に反抗的な態度をみせるミナミに興味が湧いたのだ。
「続けてくれ」
「さっきのリレーの時、アナタは私達に託すように送り出しました。確実に勝つ為に。過剰戦力ではありましたが、同点になる為には必要でした。だからこそ疑問が湧くのです。何故、最初からそうしなかったのかと」
「僕は最初から勝つ為にメンバーを選んでいたよ」
「そうでしょうか? 最初の騎馬戦ではアナタが動き出すのが明らかに遅く、続く綱引きでは適切な人数と配置だと言っておきながら、実際は戦力を削いだだけ。まるで負ける為に工作しているみたいに」
「それは相手方の神木さんが―――」
「そこですよ。アナタは隙あらば神木さんの名を出して、みんなに彼女を意識づけていましたね。実際彼女は驚異的ではあります。しかし、私にはアナタが彼女をただの注意人物として知らせていたようには思えません」
「ふむ。それでは、僕が神木さんの名を出していたのは、どういった意味があったのかな?」
「アナタは彼女を活躍させ、何度も名前を口にして自分と同等の人物であるとアピールしていたんじゃありませんか?」
それはミナミ自身もレイのアピールの効果を受けていた故の体験談。最初の種目から頻りに名前が出ていたミヤコを自然と目で追うようになり、リレーでの活躍で完全に惹かれていた。レイ以外に、あんなにも人を惹き付ける何かを持っている人がいるのだと感心さえした。
だからこそレイの思惑に気付いた。キッカケはリレー中に向けられていたレイの視線がミヤコにだけ向けられていた事からだが、それだけでは気付くに至らない。ミナミは他人の感情や想いに敏感な少女であった。そんな彼女が察知したのは、ミヤコに対するレイの歪な愛。純情と呼ぶには、あまりにも犠牲的で、あまりにも自分勝手な愛だった。
ミナミの意見に賛同する者はいない。
ただ一人、レイを除いては。
レイはミナミの肩を掴むと、自身へ抱き寄せた。
突然の抱擁に周囲の生徒が湧き立つ中、レイはミナミに囁く。
「僕を嫌いになったのなら、ミヤコを好きになるといい」
そう囁くと、レイは放心状態のミナミを放っておいて、ミヤコが待ち構えるスタート地点へと向かった。
ミナミが正気を取り戻した時、最初に覚えた感情は恐怖だった。
何故あそこまで神木ミヤコに執着するのか。
何故こんなにも呆気なく自分の立場を投げ捨てられるのか。
何故、自分に全てを吐き出させたのか。
それらが意味するものをミナミは既に分かっている。分かっているからこそ、信じられない。信じたくない。
ミヤコに対するレイの想いの成就は、恋が成就するのとは真反対の結果になる。
「随分揉めてたみたいだな。アンタじゃ頼りにならないってか?」
「フフ。君こそ、もう体力を使い果たしんじゃないかい?」
「他の奴はもうグロッキーさ。無理させるわけにはいかねぇだろ。それに、さっきのリレーで自分の足の速さに自信がついた。余裕さ」
「期待してるよ、ミヤコ」
体育祭最後の種目。
これを以て、レイが企てていた思惑が実ろうとしていた。




