視線の先
午後の種目が始まる。まず始めにリレーを行い、その後に徒競走。脚力がものをいう種目が続く。
霧島組からリレーに参加する生徒達が指定の位置につく。参加する生徒は全員陸上選手ばかりで、レイの姿は無い。
対する神木組は消極的だ。ミヤコ以外の全員が既に諦めている。自分達は運動部ではない上、相手は陸上部で固められている。始まる前から結果は見えていた。
「……とりあえず、やるだけやってみよう」
ミヤコが声掛けをするが、やる気は依然と起きていない。
全員その場から動こうとしない中、始めに動いたのはミヤコではなく、リリだった。
「ミヤコちゃんの言う通り。私達なりに頑張ってみよう。全部をミヤコちゃん任せに出来ないでしょ」
そう言って、スタート地点に向かっていった。
運動神経抜群のミヤコと比べて親近感あるリリの言葉は、全員に負けん気を呼び起こした。リリの言葉に共感したのではなく、むしろ反発に近い感情。リリだけミヤコに頼られてるのが気に入らないのだ。
かくして、四つの位置に選手が立った。
このリレーでの勝負は、単純な脚力の差だけでなく、バトンの受け渡しにも差がある。霧島組から参加してる陸上部の彼女達はリレーを主戦とした選手。しかも全国大会で結果を残している実力者である。
「あの、霧島さん」
「ん? どうしたんだい?」
「いくらなんでも、過剰戦力では? 相手の運動能力的に考えれば、なにも陸上部の方々を出さなくても……」
霧島組の生徒ですら、このリレー勝負の結果は明白であり、申し訳なさを覚えていた。
それに対し、レイは微笑しながら答えた。
「なんとしてもここは勝ちたいんだよ」
リレーがスタートした。リリは自分に出せる全速力で駆けた。
だが、無情にもアッサリと抜かれ、見る見る内に差を広げていく。トップバッターとして走る陸上部二年の沢辺ミナミは苦心していた。大会で競い合う事に慣れていたとしても、相手が運動部でもなければ足が速いわけでもない相手に全力を出すのは、良心にもプライドにも響く。
(なんで私らに全力でやらせるんだ!? 霧島先輩、なんか変だぞ!?)
ほんの一瞬。ミナミはレイの方へ顔を向けた。レイの視線は今走っている自分ではなく、アンカーの位置に向けられていた。その視線を追うように自身もアンカーの位置に視線を向けると、そこには鋭い眼光でこちらを見ていたミヤコが立っていた。
(嘘だろ……)
ミナミはレイの心の内を読み取ってしまった。勝つ為と口では言いつつ、実際は私利私欲の為だと分かってしまった。
その雑念が、ミスを起こした。
バトン受け渡し直前、ミナミはワンテンポ遅れてしまった。修正しようとしたが、それが余計に仇となり、バトンを落としてしまう。
僅か三秒のロスであったが、差を縮めるには十分な時間だった。
しかし、相手は陸上選手。リリが縮めた差はすぐにまた離されていく。
それでも、みんな諦めなかった。アンカーの位置で待つミヤコにまで繋ぐ為、顔を前に向け、腕を振り、もっと速くと足を動かし続けた。差は縮められなかったが、あまり離されなくなっていた。
そうして遂に、ミヤコへとバトンが繋がれる。
「ごめ―――」
「任せろ」
バトン受け渡しの際、ミヤコは力強くも優しさのある声色でバトンを受け取った。ミヤコは気付いていないが、バトンを繋いだ彼女はミヤコの同室だった少女。部屋からいなくなってから、偏見からくる怖さは拭えなかったが、ミヤコに対して罪悪感を抱えていた。
だが、今この瞬間を境に、ミヤコに対する偏見は消え去った。
ミヤコは走った。そのフォームは独特であり、極端な前傾姿勢。普通なら前にバランスが崩れてしまうが、この程度で体勢を崩すほどヤワな体ではない。
圧倒的と言わんばかりにあった差は見る見る内に縮んでいき、霧島組のアンカーも思わずギアを上げる。
(いくらなんでも速過ぎでしょ!?)
(クソッ! 全然油断しねぇなコイツ!!)
ゴールテープまで残り五十メートル。
全速力で走る二人の差が縮まっていく。
白熱する二人の競争は見る者に熱を与え、自然と声が出ては、手に力が込められる。
「―――舞台は整った」
熱戦を制したのは、霧島組。その差はほんの僅か。よーいドンで走っていたら、ミヤコの圧勝だった。勝てたのは、ミヤコ以前の足が遅い彼女達で差を離せてたから。その勝因は、かえって陸上選手の彼女達のプライドに傷をつけた。
リレーに参加した彼女達をレイは拍手で祝福した。勝ったのは自分達で、憧れであるレイに祝福までされた。それなのに、誰一人として喜ぼうとはしなかった。
(王子様って慕われても、結局はただの人間ね)
ミヤコに向けていたレイの視線から彼女の真意を見抜いたミナミは、心の内でレイに失望した。
「神木ミヤコ、ね」
ミナミは反対側の陣地に居るミヤコを好奇の眼で見つめた。




