夢と思い出の重荷
白熱した午前の部を終え、お昼休憩。さっきまでの敵対心は何処へいったのか、彼女達は陣営関係なく友達とお昼を共にしていた。派閥は違えど、友達は友達である。
「ミヤコ! 僕とお昼―――」
「敵が気安く話しかけてくんな。失せろよ」
ミヤコの純度百パーセントの嫌悪感に、レイはニコニコと笑みを浮かべながら、お弁当を包んだ敷物をミヤコの頬に押し当てた。出来立てならば美味しそうな匂いがするが、弁当は冷めた物が数種類入ってる事もあって大抵独特な臭いがあるものだ。
怒ったミヤコはレイの顔を潰さんとばかりに、レイの顔を挟む両手に力を入れ続ける。その顔は決して王子とは呼べない酷い顔になっていた。
そんな二人のやり取りをリリは間近で眺めながら、おにぎりを少しずつ食べ進めていた。
(相変わらず霧島先輩と仲が良いんだな~)
実の姉妹のようにじゃれ合う二人が微笑ましくも、羨ましくもあった。どちらに嫉妬しているのかは、未だ答えを出せていない。
「チッ……! 頼みもしてねぇ弁当まで作りやがって。先に言えよ。こっちはもう買ってんだよ」
「まさか、そのサラダと野菜ジュースが昼食だと?」
「悪いか?」
「君は菜食主義者だったのかい?」
「午後も体動かすんだ。あんまり腹に溜まる物は食べたくない」
「逆だよ。午後も動くのだから沢山食べるんだ。腹が減っては戦は出来ぬと言うだろ?」
「だからってアタシの食う物にイチャモンつけていい理由にはならないだろ。ねぇ、リリ。助けてよ」
「……え?」
この瞬間、三人はそれぞれ動揺していた。
リリは急に自分に話が振られ、傍観者ではいられなくなった事。
ミヤコはリリに振ってしまった所為で、レイとリリに接点が生まれてしまうかもしれないという焦り。
レイは自分以外に親し気に話すミヤコに寂しさを。そしてリリに対しては嫉妬を覚えた。
三人がそれぞれ動揺した事で、気まずい空気が漂い始めた。この空気をリセットするには、三人の内の誰かが話始めるか、その誰でもない他者が話しかけてくるか。
しかし、三人はもちろん、他の者は話しかけたい気持ちはあっても実行する勇気が無かった。
そうしている内にお昼休憩は終わり、皆それぞれ自陣に戻っていく。
「……それじゃあ」
レイの言葉は二人に向けられていたが、視線はミヤコにだけ向いていた。
レイが去った後、ミヤコはレイがお弁当を一口も食べていない事を心配したが、それを口に出すほど心を許した相手でもない。残ったサラダを一気に口に放り込み、野菜ジュースで流し込んだ。
「……さぁ、午後も頑張るか」
「……ねぇ、ミヤコちゃん」
「ん?」
「……ううん。なんでもない」
「え? ……あ、いや! アイツとは別に仲良くなんかないから! アイツが勝手に引っ付いてくるだけだから!」
「……フフ。本当になんでもないから」
実際、リリは自分が何を言おうとしていたのか分からなくなっていた。レイについて聞こうとしていたのかもしれないが、それはミヤコの必死な弁明に影響されたものかもしれない。かといってミヤコに関する事を言おうとしていたのかも怪しい。
ほんの数秒前の事が曖昧になるほどに、リリは自身すら認識出来ない不安定な状態に陥っている。
手の届かぬ天上の存在。
色のついた思い出に居る存在。
そのどちらも選ぶ事も出来ず。
片方だけ切り捨てる事も出来ない。
(私は、何かを選べる人間なんかじゃない……)
粘りつく泥が、リリの心を蝕んでいく。




