借り物競争
【借り物競争】
午前の部、最後の種目である借り物競争。内容はいたってシンプル。百メートルを走り抜ける。特殊な所は、十メートル地点で設置されている箱から取り出した紙に書かれたお題を持ってゴールを目指す所。お題は物や人など様々。ゴール地点の審査員にお題と借り物が正しいか審査され、正しければそのままゴール、間違いならもう一度スタート地点に戻ってやり直し。
開始前、ミヤコは制限時間を示すタイムパネルを持つ教員の姿に違和感を覚えた。見れば、制限時間は十分に設定されている。
「十分だ」
後ろに立っていたレイがミヤコの肩に手を置きながら覗き込んだ。
「十分の内に、どれだけ多くゴール出来るかがカギとなる。例えば僕達が制限時間内に十人ゴール出来れば、十ポイント」
「アンタらにとっては、絶好の巻き返しチャンスってわけだな」
「君達は更に点差を離す事も出来る。ちなみに、僕がトップバッターだ」
「……へぇ」
最初の参加者の案内が始まった。
スタート地点に立ったのは、レイとミヤコ。ミヤコはその場で小刻みにジャンプをして体をほぐし、レイは控えている味方に小さく頷いた。
スタートを合図するピストルの音が空に鳴り響くや否や、両者は素早くお題箱へ向かった。
ミヤコが引いたのは【ヤカン】
レイが引いたのは【友達】
ミヤコは自身のお題に顔をしかめていると、突然レイに腕を掴まれた。
「君を借りるね」
「は?」
有無を言わさず、レイはミヤコをお姫様抱っこで先へと進んだ。
派閥で分かれているとはいえ、レイを嫌う者はいない。絵本の王子様のように自分を扱ってくれる妄想を誰しも一度はしている。
そんな彼女達にとって、ミヤコは嫉妬を抱かれるに相応しい対応をレイにされていた。ミヤコに対する非難の声と失意の念。それを耳にしながら、ミヤコは意外にも大人しくしていた。
「暴れないのかい?」
「暴れてほしいのか?」
「出来れば大人しいままでいてほしいかな。そして叶うなら、このまま何処までも」
「いいからもっと速く。なんで歩いてんだよ?」
「君をこうやって抱えられるチャンスがこの先あるか怪しいからね。堪能してるのさ。君の体温と、背中とお尻の感触を」
「ハハ。きも」
およそ一分で走り抜けられる所を三分掛けてゆっくりと進み、レイはゴールへと到着した。審査員はレイのお題と借り物に対してオッケーを出し、ミヤコをスタート地点に戻るよう指示した。
そうしてミヤコがスタート地点に戻ると、霧島組の生徒が酷く怯えた表情でミヤコを待っていた。
手に持っている紙に書かれたお題を見ると【怖い人】と書かれており、ミヤコは納得のいかない表情を浮かべたが、彼女に手を差し伸べた。
しかし、彼女は本当に怯えている為か、中々ミヤコの手を掴まない。このまま止まったままなら、この種目で霧島組が得られるポイントは一ポイントのみで、神木組のリードを保てる。勝つならこのまま黙っておくべき。
だがミヤコは、この酷く怯えた彼女が後にこの事で仲間内から非難される可能性を危ぶんだ。
「……はぁ」
ため息を吐くと、ミヤコは彼女を肩に担ぎ、ゴールへと走り抜けた。
「ほら。アンタらのポイントだ。チームに貢献出来て良かったな」
そう彼女に言い残し、ミヤコは再びスタート地点に戻った。
今度こそ自分のお題を探そうと思った矢先、またも霧島組の生徒に借りだされた。
次も。
その次も。
結果、十分の内に霧島組の生徒八人がゴールし、ポイントは九対十。一気に霧島組が神木組と一点差まで縮めた。
「凄かったね、ミヤコちゃん。ずっと借りられてて」
「かなり無理があるお題もあったけどね。ねぇ、アタシって【可愛い人】っていうお題に当てはまる?」
「う~ん……怪しい所かな?」
「だよね」
「アハハ! 冗談冗談! ミヤコちゃんは可愛いよ」
「そ、そっか……そっか……!」
ポイントは得られずとも、リリから可愛いと言われて得をしたミヤコだった。




