綱引き
【綱引き】
四十メートルの綱の中心に印をつけ、二組の内、どちらかの陣地に印を引き込めば勝ちとなる種目。単純な力勝負に思えてその実、どの位置に何に秀でた人員を配置するかが重要になる頭脳面での勝負も必要とされる。
だが、二十名を除いた全校生徒を味方にしている霧島組にとっては無意味。圧倒的な数の暴力で圧勝は確実。誰もがそう思っていた。
しかし、レイだけは考えを巡らせていた。視線の先で捉えているミヤコは味方に何かを指示している。それがどういう指示であれ、先の騎馬戦のように考えなしに数で迎えれば、敗戦の可能性が僅かに浮き上がる。
「レイ様! さっきは向こうの大将に崩されましたが、今回は綱引き! これこそ数がものを言う種目ではありませんか!」
「……こちらは何人が出る?」
「綱の長さからして四十人が適正ですが、その倍を考えております! 綱を引く持ち手だけでなく、その持ち手を引っ張るのですよ! 彼女達は僅か二十人。しかも大将である神木さんを除けば、皆非力ばかり。こちらは運動部で固めれば、今度こそ勝利を―――」
「適正は四十人なんだろう? なら四十人だ」
「しかし―――」
「彼女を。神木ミヤコを甘く見てはいけないよ」
体育祭が開催されるまで、レイはミヤコの過去を調べていた。調べた過去は小学校・中学校での問題行為の内容。書類では問題行動と簡素に書かれているが、ミヤコの本質を見抜いていたレイはその記述を疑問視。
結果、ミヤコが起こした問題行動の全てが偽物であり、実際は憶測からくる【でっちあげ】であった。暴力を行使したのは事実であれ、それは弱者を弄る為ではなく、むしろその逆の弱者を守る為であった。
その真実を知ったレイは、ミヤコにより一層の愛おしさと、彼女は憧られるべきという使命感をより一層深めた。
だからこそ、レイはミヤコを主役にする為に、彼女を挑発してみせた。それがミヤコの心を抉る言葉だと承知の上で。
綱引きに参加する生徒が集結する。レイの方には四十名。対するミヤコは二十名。どちらも最後列に位置している。
審判役の教員が開始の合図であるピストルを掲げ、両陣営はその時に備えた。
パンッ!!
ピストルの音が空に響いた。
一斉に綱を握ると、霧島組の面々は違和感を覚えた。
【引けない】
こちらが引っ張られる事はないが、引っ張る事が出来ない。妙な感覚だった。確かに引っ張っているはずなのに、まるでただ綱を握ってるだけのように感じていた。
違和感の正体は、神木組の最後列、ミヤコの綱の引き方。適正人数の半数しかいない為、綱の後ろ側は垂れている。その部分を自身の体に巻き付け、ただ握るだけでなく、全身の力を使って踏ん張っていた。 始めに相手に力を使わせ、疲れた所を残る人員で一気に引っ張る。非力といえど、疲れた相手にこちらは万全の状態。引っ張れば綱はこちら側に引き込めるし、今まで引っ張っていた逆側の方へ急に引っ張られる力に相手は総崩れ。
ミヤコの策は幸先良いスタートを切った。あとはどれだけミヤコが持ちこたえるかに掛かっている。
綱を引き始めて三分が経ち、レイを除いた霧島組の面々は力を使い果たし、根負けし始めた。それがミヤコの体を締め付ける綱から伝わった。
「今だ!!!」
ミヤコの合図と共に、ここで初めて神木組の面々は綱を引っ張った。目論見通り綱はあっという間に自陣へと引っ張られていき、印が自陣のラインを通過。
一対十。神木組が大きくリード。
「身を持って知っただろう? 例え数で勝っていても、それを覆す個の力もある。僕達はそういう爆発的存在を相手にしているんだ」
優しく、それでいて深く胸に刻み込むように、レイは疲れ果てて地面に倒れる自陣の味方に神木ミヤコを要注意人物として唱えた。
「点差は圧倒的。しかし案ずる事はない。ここから先の種目は、一個人の力でどうこう出来るものではないからね」
こうなる事を見越していたレイは、現状に全く慌てていなかった。むしろここからが本番だというように、不敵な笑みを浮かべるのだった。




