騎馬戦
【騎馬戦】
複数人で一人を担ぎ、担がれた者は同じく担がれた者から帽子を奪取及び守る。古くからある伝統種目。現在は怪我を負うリスクや、これによって生じる生徒間の亀裂を危惧し、過去の汚点と化している。この学校も例外ではない。
しかし、派閥争いが勃発した今、種目には争いを求められた。そうして体育祭前日、急遽騎馬戦が三年ぶりに復活したのである。
霧島レイを大将とした霧島組は、八人体制の騎馬を十組を編成。
それに対して神木ミヤコを対象とした神木組は少人数の都合上、二・三組がやっとである。おまけに神木組に居る生徒はミヤコに憧れを抱く者ばかりで、その体は虚弱であった。そんな彼女達に無理はさせられないと感じたミヤコは、比較的に健康体なリリとの二人一組の騎馬にて迎え撃った。
「ねぇ、ミヤコちゃん。戦国時代のドラマとかって観た事ある?」
「ううん。それがどうしたの?」
「勝ち目の無い戦にいる侍の気持ちが分かったよ……」
ミヤコの肩に担がれたリリが目にしていたのは、人数不利の暴力をこれでもかと見せつけるような頑強な騎馬達。大将であるレイを始め、八十名の生徒の視線が自分達に向けられている。その背後には、霧島組を応援する控えの生徒達が何処からともなく持ち出した楽器類で盛大に鼓舞していた。
「私達殺されないよね……?」
「大丈夫だよ。殺される前に、アタシが殺すから」
「不安にしかならない言葉だけど……」
その時、太鼓の音が鳴り始めた。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
一定の間隔で叩かれた太鼓の音が四打目にて離れた。リリ以外の全員が、次の一打が開戦の合図だと確信した。
ドンッ!!!
これまでより強く叩かれた太鼓の音が鳴るや否や、霧島組の最前列に位置していた一組が突撃した。
「わわわ……! 始まっちゃった……!」
「いい? リリの役目は帽子を取るだけ。あとはアタシに任せろ!!」
そう言うと、ミヤコはリリの両足をしっかりと掴み、突撃してくる霧島組に向かっていった。その勢いは肩に担がれたリリの体が後ろに反れるほど。ミヤコの頭を掴まなければ、背中と背中がくっつく羽目になる。
リリの手で視界が塞がれたミヤコだったが、駆ける足の勢いが落ちる事はなかった。むしろ勢いは増し、完璧なタイミングで飛び込み、突撃する一組の前側の騎馬を蹴っ飛ばした。
「バ、バランスが……!?」
「馬鹿! 立て直せ! 早―――」
前側にバランスを崩した為、担がれた者の位置が低くなる。急ぎ立て直して後ろに下がろうとする彼女達の隙をミヤコは逃さない。
「ヒッ!?」
見えたのは、大口を開けて自分を喰らおうとするミヤコの恐ろしき姿。
担がれていた少女、大橋カヤは後に語る。
『私、祖父母の家でよく狩猟のお手伝いをしているのですが、今まで何度か野性の獣と遭遇した事があるんです。猪や狼、熊など、小型から大型まで様々。ええ。それはもう大変恐ろしい体験をしてまいりました。しかしながら、あの時の……神木ミヤコさんの恐ろしさは、それらを可愛らしい小動物のように感じる程でした』
口で奪取した帽子をリリに渡すと、すぐにミヤコは次の標的へと駆けた。
人数、そして騎馬の強度による優位性から勝利を信じて疑わなかった霧島組面々に、危機感と恐怖が芽生えた。ミヤコとは逆の方向へ転換した組があれば、我先に逃げようとするあまり陣形を崩して担がれた者を落とす組まで。そんな彼女達の乱れが収まる前に、ミヤコは次々と帽子を奪取していく。
選手達を鼓舞していた霧島組の控え組は静まり返り、神木組の控えの子達は出来る限りの大声とハーモニカでミヤコとリリを後押しした。
人数不利から始まった騎馬戦。気付けば、四対一と確実に霧島組を追い込んでいた。
このまま全組を蹂躙するかと思いきや、レイの策が講じられた。
追い込むミヤコを左右から挟み込んだ後に、前後からも挟み込む包囲術。駆け出す前に僅かに開く視界で捉えた一組を追い込むあまり、左右からの進軍にミヤコは気付けなかった。担がれているリリも、ミヤコの勢いにしがみつくのがやっとで、周囲の状況が見えていない。
結果、レイの策によってリリの頭から帽子は奪い取られた。
しかし、最後の足掻きにミヤコが二組、そしてリリが偶然奪取出来た一組の帽子。勝負はレイの勝利で終わったが、これはあくまで体育祭の種目。帽子を奪取した数によってポイントが得られる。
一対九。
神木組が大きくリードした。
「数で押しても、逆に不利になっちゃうね。いや、普通ならばこちらが有利だったはず。やはり彼女は、僕と競うに値する」
大きな点数差をつけられても、レイは嬉しそうに笑みをこぼした。
そうしてレイが見つめた先に居たのは、一クラスにも満たない少人数からの賞賛に恥ずかしがるミヤコの姿だった。




