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闘争

 体育祭まで、あと五日。


 生徒達は形ばかりのトレーニングを行い、教員達は授業の合間に体育祭当日の段取りの打ち合わせをしていた。


 体育祭は運動会から名を変えただけの行事。体を動かし、他者と協力し、行動力と協調性を根付かせるものだ。


 しかし、この学校では少し異質な行事と化している。歪み始めたのは、レイが新入生として入学した二年前。彼女は入学直後から、その容姿とオーラで学校中の人間を惹き付け、最初の行事である体育祭において眩い輝きを魅せた。その輝きに脳を焼き焦がされた生徒及び教員は、本来の行動力と協調性を根付かせる目的を忘れ、一個人の活躍に注力してしまった。

    

 それに気付いていながらも、レイは異議を唱えなかった。何故なら、レイ自身にとって、それはあまりにも【普段通り】だったからだ。自分は他者に憧られる存在。能動的であるのなら修正出来るが、受動的では修正出来ない。それが自分が原因で起こっているのなら、尚更だ。


 今年もまた、レイの独断場になる。


 だが、ここに例外が存在した。


「うわぁ。あの人、なんか凄いね……」

「担いでる丸太って本物なのかな?」

「なんで丸太を担いで走ってるんだろう……」


 好奇の眼で注目されていたのは、何故か丸太を担ぎながら走るミヤコ。ある程度足を酷使した後は、担いでいた丸太を投げ続け、それも済めば、今度は丸太を蹴り続けた。


 これをトレーニングと呼ぶには、あまりにも野性的過ぎる。

 

 無論、ミヤコ自身このトレーニングで脚力といった体育祭に必要な能力が育つとは思っていない。


 全ては憎き怨敵。霧島レイを打ち倒す為。


 この異様なトレーニングは校舎内に留まらず、橋の下など人目につかない場所でも行われた。連日この現場を目撃した生徒のほとんどはミヤコに恐怖を覚えたが、ある一定の層からは非常に好評だった。誰かが始めた布教活動が根を張るように広がっていき、やがて派閥に至るまで集結した。レイを支持する層とは圧倒的に数で劣るものの、その熱量は人数差を感じさせないものだった。


 優しく、凛々しく、絵本の王子様のような霧島レイ。


 野性的で荒々しく、一匹狼の神木ミヤコ。


 全く違うタイプを憧れとする二つの派閥は必然的に敵対。この学校では過去に何度も派閥争いが起き、怪我を負う者が後を絶たなかった。だがレイが入学してからは、その圧倒的人気から派閥争いはおろか、レイ以外の派閥すら存在しなかった。


「ッ!?」


「校長先生? どうかなさいましたか?」


「……雪解けだ」


「ッ!? もしや、また争いが始まるというのですか!? しかし、争い事は霧島レイの存在によって保たれていたはずです……!」 


「それまでアイドル曲ばかり聴いていた十代の子が初めて聴くデスメタルに衝撃を受けるように、刺激を与えたのでしょう」


「しかし、一体誰が……!? 教員の身ではありますが、私も霧島レイ信徒です! 彼女に並ぶ者など、この学校には―――」


「神木ミヤコ」


「ッ!? あの女が!? あの女は問題児ですよ!!」


「だからこそでしょう。あの子なら、平和ボケした彼女達に十分過ぎるほど刺激を与えてくれる……かくいう私も、神木ミヤコ推しですがね」


 派閥争い、勃発。


 霧島レイと神木ミヤコ。二つの派閥による初の派閥争いは、学校のツートップである校長と教頭が幕を開けた。


 競争から闘争へ。


 健全などかなぐり捨てた体育祭が、明日開催される。

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