口下手
寮に帰る前にスーパーに寄ると、霧島は意気揚々とカゴとカートを用意した。
「さぁミヤコ! 今晩のリクエスト受け付けるよ! って、あれ? なんで君もカゴ持ってるの?」
「ご飯買うんだよ。アタシの分の」
「どうして買う必要が? 僕が作ってあげるって!」
「アンタ、道端のオジサンが握ったおにぎり食える?」
「食べないね。厚意は嬉しいけど、不安が勝ってしまうよ」
「だろ? そういう事だ」
霧島がアタシの言葉を考え込んでいる内に離れた。
材料を買って料理を作るのは無しだ。作れる料理が少ないのもあるけど、居候の身で自分の分だけ作るっていうのは悪い気がする。
冷凍食品。食器を用意しなくていいし、レンジで温めるだけで良いという手軽さ。これを二つ……いや、多めに四つ買っておこう。あとは割り箸とお茶を買えば、とりあえずオッケーか。
「ミヤコちゃん?」
この声……!
「あ……! リ、リリ、ちゃん……!」
「やっぱりミヤコちゃんだ! 久しぶり。引っ越して以来だから、もう十年くらいになるのかな?」
「そ、そうだね……! あの……眼鏡、丸いままだね……」
「あ、馬鹿にしてるんでしょ! 似合わない丸眼鏡なんかってさ!」
「そ、そうじゃないよ! リリちゃんは、ずっと……その……可愛―――似合ってる、よ……」
「そう? ありがと! ミヤコちゃんは……すっごくカッコよくなったね」
やばい。顔が爆発しそうだ。言いたい事や聞きたい事が山ほどあるのに、口に出そうとすると恥ずかしくなってしまう。ずっと願ってたリリとの再会なのに。アタシの意気地なし。
それにしても、改めて近くで見ると、当時の面影が残ってるな。長い黒髪と前髪パッツン。シンプルな丸眼鏡。顔や体は少し大人っぽくなってるけど、笑った時の表情はあの頃のまま。
「冷凍食品」
「え?」
「カゴの中、冷凍食品だけだね」
「え、あ、あぁ! そうだね! 冷凍の物ばっかり、だね!」
「別に無理に自炊しろとは言わないけど、栄養の事は考えないとね。野菜も食べないと!」
「う、うん!」
「よろしい! じゃあ私行くから」
「え?」
「ん?」
「あ、あぁ、いや! あの……またね」
「うん。じゃあね」
手を振って別れた後、我慢の限界がきてニヤけてしまった。
やった。リリと話せた。想像してたのよりぎこちなかったけど、それもまた良しだ。
カッコよくなった、か。お世辞かもしれないけど、少し期待してしまう。成長したアタシに、リリは少なからず好意を寄せてくれたかもしれない。そうだとするなら、やっぱり日和らず可愛いと言えば良かった。次はちゃんと言えるように頑張ろう。
「ミヤコ。なにか嬉しい事でもあった?」
喜んでいたのも束の間、カートに乗せたカゴに大量の食材を詰め込んだ霧島がアタシの隣に現れた。
「……アンタどんだけ食うんだよ」
「二人分となると、このくらいの量は必要だろう。ちなみに今晩はシチューだ! この【愛情コトコト煮込んで作る】っていう売り文句に惹かれてね!」
「食わんぞ、アタシは」
「何か不純物が混入する事を恐れてるんだよね? なら、君は僕の傍で見張っていればいい。それで安全を確認出来たら、安心して食べてくれるだろう?」
「大事なのは誰が作ったかだ。アタシはアンタが作った物は食べたくない」
「……実は、僕の部屋のレンジは壊れてるんだ」
「ハッタリだろ」
「そう思うかい?」
おそらく嘘だと思うが、挑発的に笑みを浮かべる霧島の表情に不安がよぎった。レンジが壊れているのなら、冷凍食品は食べられない。流石にそのまま食べるなんて蛮行は、アタシでも出来ない。
結局、アタシは冷凍食品を棚に戻し、霧島が買った物の袋を一つ持って部屋に戻った。
部屋に戻ってすぐにレンジを確認すると、レンジは問題なく動いた。
「やっぱりハッタリじゃねぇか……」
「イエイ。僕の勝ち―――アデッ!」




